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どんなものにも終わりがくる。
1000年をかけた恋でさえも。
「もう、諦めようかな」
『え、何を』
思わずこぼれ落ちた私の呟きに、幼馴染の2人は息ぴったりに聞きかえす。
全く性格は違うのに、こういう時だけまるで双子のような反応するから面白い。
「笑うなって。で、何を諦めるんだ?」
「また関係ないこと考えてたわね。いま2番地のカフェに行こうって話してたの覚えてる?
どうせ聞いてなかったんでしょう」
「きいてたよ。本当だって。機嫌なおしてよ、リリィ」
「どうかしらね」
「まぁまぁ。で、アンナは何を諦めるんだ?」
「秘密とは言わせないわよ」
幼馴染の2人ーリリィとロイドは、私の呟きを逃すものかと見つめてくる。
2人の視線を受け止めていると、自然と心が凪いでいく。
いつだって、私に優しい。ずっと変わらず、話を聞いてそばにいる。
どんな時でも味方でいてくれる存在が、どれほど心強い存在であるか。
だから心は決まったのかもしれない。
「ジェイドを愛することを、やめようと思うの」
2人は目を大きく開いて言葉を失っていた。本当に双子みたいに揃った反応。
私は思わず笑いながら、言葉を続けた。
「もう、いいかなぁって。
何度も好きって伝えた。愛してもらえるように努力した。
でも、何度繰り返しても、私の望むものは手に入らないみたいだから」
だから、彼を、ジェイドを愛することをやめよう。
それは気が遠くなるような長い物語。
初めて会ったのは1000年も昔の話。
ここよりずっと東の国。私は魔法使いの一族の娘だった。
ジェイドは魔法使い見習いとして我が家に居候していた青年だった。
評判になるほどの気持ちのいい好青年で、小さい私の面倒もよく見てくれた。
彼にとって、それは子守りだったのだろう。でも、私にとっては初恋だった。
それから、私はずっとずっとジェイドだけを想い続けた。
彼が私の姉を恋人にした時も。皆に祝福されて結婚した時も。
愛らしい双子の兄妹を授かった時も。
その人生が終わるその瞬間でさえ。
ずっとずっと、私はジェイドを愛しつづけた。
気が遠くなるような長い時間が流れた。
私が農民に、彼が漁師に生まれ変わった時。
私が使用人の娘に、彼が貴族の後継者に生まれ変わった時。
さらに、全く別の国で生まれ育った時でさえ。
どんな形で生まれ変わっても、私たちは出会った。
ジェイドは私を覚えていないけれど、優しく接してくれる。
ただ、私を選ぶことは決してない。
いつだって私の心を無意識に、残酷に引き裂いていくのだ。
私はその記憶の全てを、まるで呪いの様に引き継いで生まれ変わってきた。
突然、リリィに抱きつかれた。
予想外の動きに、後ろへ倒れそうになるところを、いつの間にか背後にいたロイドに支えられた。
「いいと思う!だってあいつにアンナはもったいないもん!」
「リリィ…」
「そうだよ。アンナは誰よりも幸せにならないとダメなんだ」
ロイドも力強く私の肩を抱いてくれる。
「2人ともありがとう。でも、こんな道端で抱き合ってるのはちょっとな…」
『気にしない!!』
「…うん。そうだね。いいよね。…ありがとう」
私はリリィの肩に顔を埋めた。
泣いてはいない。もう涙は何百年も前に枯れ果てたから。
ただ、2人の温もりは自分のものだと感じたかった。
数話で終わる予定です。