承2
「坊ちゃま、今日は気持ちの良い風が吹いていますよ」
聞こえてくる魔女子の声に、俺は寝ぼけ眼をどうにか開こうとするのだが上手く持ち上がらない。昨夜は領地関係の勉強で資料を遅くまで見ていたから、目が疲れていて瞼が重い。
今日は真面目な魔……いや、違った。
部屋の窓を全開にした後、魔女子は躊躇なく俺の布団の中に手を滑り込ませ、ズボンの股間付近に手を触れた。
「っ何をしている?」
さすがに驚いた俺は布団を吹っ飛ばして飛び起きる。
「社会の窓も開けて差し上げようと思ったのですが、寝巻きズボンは窓無しですのね」
顎に軽く握った手指を添えて、魔女子はさも残念というように小首を傾げて言った。その顔には悪戯で、少し妖艶さを孕んだ笑みを浮かべている。
その微笑みのまま、俺ににじり寄る魔女子。俺の顔との距離を詰め、目は瞑らずに俺の唇を吸う。
寝起きの口で申し訳ないなぁと思いながらも、俺は大歓迎であり、向こうがその気ならば、俺も遠慮はしない。その行為を有り難く受け取り、更に俺からも魔女子の唇を強く欲した。
下半身、ズボンの股間辺りで何やらもぞぞっとした感覚があり、そろそろ止めとかないとヤバイかなぁと思ったところに、魔女子の手がそっと触れた。反射的に両手で魔女子の肩を突いて、魔女子を押し退ける。
呼吸を乱し、頬を上気させ、瞳はうっとりと潤み、だが瞳の奥には意地悪さをたたえて魔女子は言う。
「坊ちゃまの意気地の無いこと。ふふふ。ウタ様はきっと悲しんでおいでだわ。アンデル様がウタ様以外の女に、わたくしなどに欲情なさるのだもの。あぁ、ウタ様はきっと傷付いておいでだわ。アンデル様……酷いお方」
俺は……そんなことは別にどうでもよくて、ただ目の前の魔女子に見惚れている。
色っぽいよなぁーとか、いっそこのまま抱きたいよなぁーとか思いながら。
魔女子は朝は起こしに来るが、夜は来てくれない。
朝に弱い俺はなかなか布団から出られず、いつも学園に遅れそうになる。起床後、慌ただしく身支度をするのが日課のようになってしまった。
不真面目な魔女子が起こしに来る日はたいてい学園に行く日で、いちゃいちゃしたいが時間が無い。急がねばならず、もっと……と思いながらも、後ろ髪を引かれる思いで布団をはぐり、ベットからおりるのだった。
今日は黒髪かと思ったが、部分的に赤色が混ざっている。丸っとした団子が連なったような髪型で、訊くと、レンコン結びなのだと無害な笑顔で教えてくれた。
ウタとかアンデルとか、そんな名前は俺にはどうでもよくて、自分はただ、目の前にいる可愛い魔女子との、不埒で破廉恥な一時を楽しむことが出来て大満足だった。