第8話 血の契約
(はぁ、一生奴隷で決まりか……)
異世界で可愛い女の子との出会いを期待したけれど無駄だった。
ゾルダに渡された小さな針を持って僕に近づく豚の獣人。
せめてどんな奴に買われたのか<鑑定>で調べてみる。
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名前 :トンガン(猪族)
職業 :侯爵
魔法 :なし
スキル:突進D
加護 :土の精霊
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名前はトンガンで職業は貴族の侯爵だった。
確か侯爵ってかなり上級貴族だと思う。
(あれ? 豚の獣人だと思ってたけど猪なんだ?)
トンガンの顔をよく見ると牙らしき物があるが贅肉が酷すぎてわからない。
僕的には豚でも猪でも面倒な奴が雇い主になったことに違いは無いけど。
他にも種族に「人」の文字が入ってないけれど今はどうでもいいか。
(はぁ、本当にどうしようか……)
ため息をついていると会場の外が急に騒がしくなる。
最初は会場の人たちが祝杯でもあげているのかと思ったが金属がぶつかる音と共に小さな爆発音まで聞こえてきた。
「おいっ、何が起きてるんだっ!?」
トンガンが扉を開けて近くにいたゾルダの部下に大声で叫ぶ。
それと同時に慌てた表情のゾルダが走って来た。
「トンガン様、大変です! 王国の兵士たちが冒険者と共に攻め込んで来ました! 詳しい数はわかりませんが100は超えていると思われますっ!」
ゾルダがさっきまで身元が割れないよう番号で呼んでいたはずのトンガンを名前で呼んでいることからヤバい状況なのだろう。
数名の部下を引き連れてあちこちに指示を飛ばしながらトンガンに今すぐ逃げるよう伝えにきたらしい。
「ブヒッ、わかった! この奴隷だけは持ち帰るから暫し待て!」
「わかりました! 私たちは退路を確保しておくので早めにお願いしますっ!」
トンガンは小さな針を指に刺し僕の首輪に触れようと近付くが偶然にも雇い主がゾルダからトンガンへの切り替えで僕の契約者は誰でもなく自由に動ける状態だ。
こんなチャンスは2度と無いので僕も必死にトンガンから逃げ回る。
「このクソガキが、ちょこまかと逃げよって!」
「当たり前だ! 僕だって奴隷になんてなりたくないっての!」
教室の半分ほどの広さの部屋でトンガンから逃げ回っていると扉が開いて1人の少女が部屋に入って来る。
「大丈夫ですか!? 助けに来ましたっ!」
(えっ、ケモ耳の少女!?っとしまった!)
初めて見たケモ耳少女に驚いて立ち止まった隙を突いてトンガンが僕を捕まえようと迫って来る姿が見えた。
「危ないっ!」
迫るトンガンと僕の間に割って入るケモ耳少女。
だが走り出した猪は急に止まれないのかケモ耳少女はトンガンの体当たりを食らって吹き飛ばされると壁に叩きつけられる。
「お姉さんっ!?」
「くそっ、この小娘がっ! 儂の邪魔をするなっ!」
怒り狂ったトンガンは机の上に置いてあった短剣を手に取ると壁に叩きつけられて蹲っているケモ耳少女に向かって歩いて行く。
「よくも儂の邪魔をしよって。死ね、小娘っ!」
ケモ耳少女は何とか逃げようとするが壁に叩きつけられた衝撃で動けずにいる。
そこへトンガンの振り上げた短剣がケモ耳少女へと迫った。
僕を助けようとして怪我をしたケモ耳少女を見捨てるなんてできない。
トンガンの短剣が刺さる直前にケモ耳少女へ覆いかぶさるようにして庇った直後、右肩に激痛が走りあまりの痛みに僕はその場に崩れ落ちる。
「だ、大丈夫!? 死んじゃだめだよっ!」
「お姉さん……は大丈夫……ですか?」
ケモ耳少女は僕の上半身を抱きかかえて短剣の刺さった場所を確認している。
だがその時に近付いて来たトンガンが僕の首輪に触れてしまった。
「小娘は殺し損ねたがまあいい。これでクソガキは儂の所有物だ」
ブヒヒと意地汚い猪には似合いの顔で笑うトンガン。
こんな奴の奴隷になるのは悔しいがケモ耳少女を守れたならよかったよ。
「クソガキ、その小娘を突き飛ばしてこっちへ来い!」
「……」
「おいっ、聞こえないのか!? 早くこっちへ――」
トンガンが口の端に溜まった泡を飛ばしながら叫ぶが僕の首輪は反応しない。
何が起きているのか混乱しているトンガンにゾルダが叫ぶ。
「トンガン様、もう限界です! 今すぐ逃げなければ捕らえられます!」
「くそっ、こうなったら2人とも始末してやるっ!」
トンガンが醜い牙をこちらに向けて突進してくるのが見える。
このままでは僕もケモ耳少女もヤバいのに痛みで体が言うことを聞かない。
《大丈夫です。私に任せなさい》
突然、頭の中に女性の声が聞こえる。
その瞬間、突進して来たトンガンが何かに弾かれたように地面へ無様に転ぶ姿が見えた。
「ウブブ……、貴様ら儂に恥をかかせおって! 今に後悔させてやるぞっ!」
トンガンがブヒブヒ言いながらゾルダと一緒に逃げて行く。
その数秒後、ケモ耳少女たちの仲間らしい人たちが部屋の中へ入って来る。
「サラっ、大丈夫やったか!?」
「ティナ!? 私は平気だけれどこの女の子が私を庇って怪我をしてるのっ!」
「すぐに仮設の医務室へ運ぶんや!」
そんな声が聞こえてくるが痛みと出血のために意識が朦朧としている。
「絶対に助けてあげるから死んじゃダメだよっ!?」
「……はい、ご主人様……」
僕の意識はここで途絶えた。
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