第10話 未知の種族
「えっと……」
サラとティナは何が起きたのか困惑した表情をしている。
僕だって呼びたくて「ご主人様」と呼んだ訳ではない。
なぜか自然と口から出たのだ。
(なんで目の前の少女をご主人様って呼んだんだろう?)
ここでゾルダたちの会話を思い出す。
確か隷属の首輪に血液を付着させると魔法により奴隷契約が成立すると話していた。
そうなると考えられることは……。
「ご主人様が僕と出会う前にどこかで怪我をしませんでしたか?」
「えっと、奴隷売買の人と戦闘になった時に少し怪我をしたけど関係あるの?」
そう言って腕の傷をもう片方の手で撫でる。
僕がサラをご主人様と呼んだ原因は間違いなくそれだろう。
トンガンが僕の首輪に触れる前にサラの血液が付着して奴隷契約が成立していたらしい。
「僕が付けてる首輪は『隷属の首輪』と言って雇い主の血液が付着すると魔法で契約が成立するアイテムなんです。解除するには難しい魔法でしか外せないみたいで」
そう言うとサラとティナは驚いていた。
しばらくすると何か納得したのかティナが頷いている。
「サラ、うちらがミオを運んだ時に王国兵士長が言ってたことを覚えてるか?」
「確か契約は成立しているので面倒を見てやってほしい……だったよね」
「そうや。その時は現場がバタバタしてたから数日預かる程度やと思ってたけど」
「長期間になるなら私たちの仕事も調整しないといけないかな」
ティナとサラが僕を横目で見ながら話をしている。
話の内容的に僕が2人に迷惑をかけているのは間違いない。
「……この首輪さえ外れれば僕1人でも何とかします。ご迷惑は承知していますが数日だけでも一緒にいてはダメですか? もちろんどんな仕事でもやります!」
せっかく助けてくれた2人に迷惑をかけたくないけれどリーディエルの情報が何も無い今は少しでも繋がっておきたい。
その間に隷属の首輪を外すための情報を集めないとな。
「ああ、勘違いしてるみたいやけどミオが邪魔ってわけちゃうで? ミオの種族がうちらには未知過ぎてどうしてエエかわからんねん」
2人からすれば人間族の僕は未知の種族になるのか。
ティナの言うように未知の種族と一緒に生活するのは不安だよな。
僕もイキナリ異世界に放り込まれて未だにわからないことだらけだ。
(唯一、わかっているの女神像を探すことか……)
どこかにある女神像に祈りを捧げれば何らかの反応があるはず。
今はアラミオン様の最後の言葉に従って行動するしかない。
「ご主人様、この街に女神像がある場所を知らないですか?」
「……えっとご主人様じゃなくて名前でお願いしたいな」
「はい、ご主人さ……サラがそう言うなら今後はサラって呼びますね」
「ありがと! あと敬語もいらないからね?」
さすがにずっとご主人様って呼ぶのは恥ずかしかったから助かった。
横では僕とサラの会話を聞いてティナが笑い転げている。
「さっきのご主人様って呼び方は止めるんか? おもろかったのに!」
「もうっ! 今度からティナには私の肉串をあげないからね!」
「ちょ!? それだけは困る! サラ、許してや!」
サラとティナの力関係が少しだけわかって思わず笑ってしまう。
「ミオちゃんの言ってる女神像ってあの場所かな?」
「そうやね。エエ時間やしお腹も減ったから買い物ついでに行くか?」
2人がそう言って準備を始める。
僕も一緒に行っても大丈夫みたいだけれど下着1枚しか身に着けていない。
どうしようか悩んでいるとサラが大きめの外套を僕に被せてくれる。
「ミオちゃんの黒髪は綺麗だけど目立つからこれを被っておいてね」
「うん、ありがとう!」
お礼を言うと少し照れたサラが猛烈に可愛い。
あのトンガンって豚……じゃなく猪の獣人に買われそうになった時は人生終わったと思ったけれど今は結果的によかったと思っている。
(あのイベントが発生しなかったら2人とは出会ってないしね)
ベッドから立ち上がると肩がズキッと痛むが歩けない程ではない。
逆にあれだけの大怪我を負ったはずなのに今の状態が不思議だよ。
これもアラミオン様の加護のおかげかもしれない。
「よっしゃ、うちの背中に乗り!」
ティナが僕の前で背中を向けてしゃがみ込む。
これっておんぶだと思うんだけれど本当にいいのかな?
「子供が遠慮するもんちゃうで?」
ティナが僕の方を向いて笑いかけてくれる。
「……ティナ、ありがとう」
「そうそう、子供は素直が1番や」
そんな僕たちを見てサラも楽しそうに笑っていた。
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