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貫(つらぬく)  作者: 浮世離れ
第二章
58/60

(さて、そろそろ行こう。)


僕は理事長室があるフロアから程遠くない屋上へと向かうため非常階段登る。

一歩一歩段差を踏み締める度に身体が軽くなり、目の前の景色が鮮やかに輝き出す。

まるで自分は美しく彩る草原の中に続く平坦な道を歩いているような気分になる。

今ならこのまま屋上から大空へ飛んでいけそうな気になる。

窮屈な鳥籠から解き放たれた鳥のようだ。


(なんて気分がよいのだろうか。)


一時の余韻に浸りながら現実の扉をもう一度開ける。

僕の心の中とは裏腹に天は泣いていた。

大粒の雨が空から降り注いでいる。


「素敵な日だな。」


僕は呟いた。

雨の中を歩く。

屋上の中心辺りまで歩くと僕は足を止めた。

そして僕に降り注ぐ雫が一番先に届く場所を僕は顔と決める。

雫はゆっくりと僕の顔をなぞり、身体を伝うもの、そのまま落ちていくもの、消えてしまうもの。

様々な形で生まれては消えた。


「出てきてください。もう待てないでしょう。」


僕は虚空に向かって声をかける。

雨の音に交じってその音が存在を露わにしてくる。

ゆっくり近づきそして僕の傍で消える。

僕は目を瞑るとゆっくり音の方へ身体の向きを変えた。

そして目を開ける。


「お待たせしました。鳴海京介さん。」


僕の目の前に立っているのは僕の妹、月の伴侶である鳴海京介。

虚ろともいえる眼差しで僕を見てくる。

手には鋭利な刃物。

黄色のパーカーに身を包みそして待っていたのだ。


「痩せましたね、京介さん。幸せじゃなかったんですか?」


僕は訪ねる。

鳴海はグッ、、と歯を食いしばると僕の質問に答えた。


「幸せだったよ。幸せ過ぎたよ、月さんとの時間は!」


両手の握りこぶしを震わせた。

鳴海の頬を雨の雫が濡らす。

もう、それは涙なのか雨の雫なのかわからなかった。


「それは良かった。そう言ってもらえると月もきっと喜びますよ。」


僕はポケットに親指だけを入れる。

鳴海は俯く。

そしてすぐに僕を見る。

眼差しにはとても強い殺気が伺えた。


「そう。幸せだった。君が・・君が来るまではね!!」


今までとは違う強い口調で僕に言い放つ。

眼光が鋭くなる。


「逆恨みか。真実の光で照らしてやったのにお礼もないんだな。」


僕は静かに言い返す。

鳴海は身体を震わせる。

そして殺気立った表情は形を変え、今度は今にも泣きそうな苦痛に耐えきれない表情になる。


「な・・なぁ・・なんでそんなに自分を信じることが出来るんだよ。」


僕は答えない。


「どうして・・し・・信じ続け行動する苦痛に耐えることが出来るんだよ。」


僕は答えない。


「呪い・・じゃないか・・。孤独で苦痛の続く呪いなだけなんじゃないのかよ!」


僕は答えた。


「愚問だな。俺は俺だから。お前は何なんだ。」


「グ・・アアア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァーーあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーー!!」


鳴海の心が叫んだ。


「同じ・・人間だろ?なんでこうも・・違う結果になるんだよぉ!お前と俺と何が違うって言うんだよぉ!頭も身体も手も足も!目も鼻も口も耳も!全部・・同じじゃねぇかよ・・いや、お前以上に俺は持っている!心を持っている!愛する人がいて、立派な仕事をして、金を稼いで!」


「それだけ持っているなら信じれただろ。でもお前は道を外した。」


俺は鳴海の叫びに答える。



「・・駄目なんだよ。俺はお前みたいに強くないんだよ・・な、なぁ・・こんな不幸な・・こんな大不幸な人生なんだから・・少しは・・光をぉ射させてくれよぉ。哀れみを・・くれよ・・。これだけ頑張ったんだから報われてもいいだろぉぉ!」


雨音をかき消すように鳴海の声が響き渡る。

僕は鳴海をじっと見る。

鳴海の声は消え、再び辺りは雨音に包まれる。


「鳴海京介さん、あんたはきっと不幸から抜け出せた。見なかったんだよ。目の前に射す光を。」


鳴海はゆっくりと目を閉じる。

強い意志と覚悟を決めた目に変わる。

そして僕へゆっくりと近づいてきた。

刃物を握りしめるその手が冬の雨に打たれ、濡れて冷え切った手とは思えないほど赤く染まっている。


「もう・・遅い・・。」


鳴海は僕に手の届く場所までやってくる。


暫く僕らはお互いの事をじっと見つめた。

フッ、、

と鳴海は鼻で笑う。


「・・強いな、君は。敵うはずかない。」


鳴海が呟く。

そして鳴海は刃先を突き出し僕へ向けた。


「・・最後まで救いようがない奴だな。お別れだ。」


ドスッ、、

肉に突き刺さる鈍い音が微かに聞こえる。


「ガハッ・・。」


致命傷となった声が断末魔の様に吐き出され、膝が崩れ落ち倒れる。

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