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貫(つらぬく)  作者: 浮世離れ
第二章
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大地(新)⑩

(父さん、、やっぱり父さんは殺されたんだね。こいつらに殺されたんだ。父さん、何故父さんは何も伝えてくれなかったの?何故、僕を残していったの?何故?)


「あっ・・」


僕は朝の通勤電車の中で寝てしまっていたらしい。

この所、遅くまで起きており空条の物的証拠を何度も確認していた反動だ。


(充分な睡眠時間をとれていない。このままじゃ戦えないな、、)


戦うにはもっと外堀を固める必要があるだろう。

相手は、第一病院の主といっても過言ではない。


現代社会においても弱肉強食は当然のことだ

いや、むしろその傾向は昨今の日本において益々強いものになっている。


有耶無耶がここまで許される世の中なのだから強力かつ権力のある人間を味方につけるしかない。

そう、この病院の理事長森風子だ。

ある種、僕からするとこれは賭けになるだろう。

僕は森風子という存在を理事長としか把握できていない。

直接話をしたことも無ければ、その人となりを客観的にしか理解できていないのだから。


(話せる機会はそう多くないよな、、なら作っていくしかない。今日にでも。)


僕は、直球で理事長へのコンタクトを取った。

するとメールを送った数分後、返信が来る。


{可能でしたら本日指定された時間で構いませんのでいらしていただけませんか}


(レスポンスが早くて助かる。14:00。よし。)


13:50。

第一病院エレベーター内。

幸いなことに理事長室まで特定の人間に会うことはなかった。

会った所でどうとなるわけではないが。

僕は呼吸を整える。


(なんとかなったな。しかしまだ終わったわけじゃない。行きはよいよい帰りは恐いになるよな、、)


エレベーターの扉が開き理事長室へ向かう。

トントン、、

ノックをすると奥から入るよう指示が出される。


(いよいよか、、)


「失礼します。」


理事長の顔を見て軽く会釈する。


「こんにちわ。当摩先生。どうぞこちらにお座りになって下さい。」


森理事長はそういうと席へと誘導した。

僕は指示された場所へ腰かける。


「大変急なお願いにも拘わらず対応していただきありがとうございます。」


僕はまずお礼を伝える。

メールにはある程度の内容を添えて送ったので事の重大さはある程度伝わっているはずだ。

とはいえ役職を考えるとこのフットワークの軽さには驚きと安心を覚える。


「畏まらなくていいですよ。話せる限りの内容教えてもらっても良いですか?」


僕は大まかな経緯、そして調査、確認をしてきた内容を伝えた。

森理事長は顔色を変えることなく集中して聞いている。


「ありがとう。大変だったなんて言葉で片付けるのは失礼ですがお疲れ様を言わせて貰います。

・・病院の存続にも影響する事態ね。分かりました、力になります。」


森理事長は答えた。

しかし僕はあえて意地の悪い質問をする。

失礼を承知に。


「僕のことを信じてもらえますか。今はまだその域に達していなければそう言ってください。」


僕は理事長に問う。

理事長は表情を変えず答える。


「お言葉を返すようだけれどお互い様ね。私の立場を利用しようとする人達はやはりいないとは言い切れないから。すべて真に受けるほど人が出来ているわけではないわ。なので具体的な答えを控えたの。ごめんなさい。」


森理事長は謝罪を述べた。


「いえ、その言葉聞けて良かったです。森理事長はすぐに会うことを承諾してくれた。もし何かしら疚しい事があって時間の変更や日時の変更をしてきた場合、まぁその場合は僕に会う為の準備とでも言っておきましょうか。僕はそれ相応の対応しなくてはならないだろうと予測を立て準備するつもりでした。今の僕には敵が多く存在します。情報を調べていく過程である程度の人間を絞ることは出来ました。けれどまだ全貌を把握できていません。申し訳ないのですが確証がない以上、森理事長ですら初めから信じ切る事は出来ませんでした。慎重にならざるを得ない行為、発言とはいえ、謝罪します。」


そして僕は森理事長を信じ、証拠を渡すことにした。


「そう。ありがとう。なら私も訂正してお詫びするわ。真実として捉え全面的に協力します。そうね。当摩先生の信頼への証として私が監督不行届により失脚した際の証人としてお手伝いして貰いましょうか。」


森理事長は僕に手紙のようなものが入った封筒を渡してくる。

恐らく意思表明のようなものだろう。


「・・最大限の意思お預かりします。」


僕は会った時から気付いていた器の大きさに納得できた。

そして同時に心の中に温かいものが生まれる。


(なんだろう。この感情は、、なんだろう?まるで母さんが、、目の前にいるような、、)


僕は今まで感じたことのない感覚に陥る。

この感覚をいつまでも感じていたい。

本気でそう思った。


「そっくりねぇ・・。」


森理事長が呟く。


「えっ!?」


僕は素で答えてしまった。


「まるで星波先生が返ってきたみたい。真面目で、思慮深くて、男気があって、同僚や患者さんからの信頼がとても厚い。明るさは少し違うようだけれどね。」


(父さんと、、似てる?)


初めて言われる言葉に僕は戸惑う。


「実はね。当摩大地先生、いや星波大地さんと呼んでもいいかしら。実はあなたがこの病院に来ること知っていたのよ。」


(そうなのか?)


僕は驚く。


「資料室、幾分か使い勝手良かったでしょう?」


(使い勝手が良かった?まさか、、)


「資料室の場所を変えられた?」

(、、そうか!)


資料室が第一病院奥に存在していたらリスクはもっと増したであろう。

色々な人間の目につく可能性が高くなってしまう。

僕は資料室が目につきにくくかつ玄関より行きやすい位置にあったことにただ幸運を感じていただけだったのだがまさか森理事長が手を回してくれていたことに気づきもしなかった。


(まさかさらに特定の人間から遠ざけられるよう計らってくれていたのでは、、)


僕は森理事長の顔を見た。

森理事長はニコリと微笑んでいる。


これでカードは揃う。

そして僕はこれから僕に起こる恐怖や悲しみなど想像することなく、僕の目的がようやく叶う期待に満ち溢れていた。

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