月(新)②
結果的に体調不良の原因は判明しなかった。
過労による心身の虚弱、他ストレス性による起因が影響しているのではないかとの事。
ごく一般的な対処療法として薬の処方があり、静養を取ることで様子をみるように言われる。
結果を知った彼は自分が影響しているのではないかと気にしてしまい、その日を境になるべく病院からの帰宅を早めてくれるようになった。
夫婦としての会話が増え、お互いに共有する時間が多くなる。
さらに彼は家事を率先して行って私の身体を労わってくれる。
(でもきっと、、これは私が作り出した私が原因なんだろうな。)
そう思うと、彼に申し訳なくなってしまい私は無理にでも彼に近づこうと努力する。
すると反比例してもう一人の私はどんどん離れていってしまう。
まるで私の存在を亡き者に仕立て上げるように。
「そういえば、月さん。お兄さん達は元気にしてる?最近は会ったりしていないんですか?」
ある日の午後。
彼の休日に二人でお茶をしていた時にふと聞かれる。
(大地兄さん、、太陽兄さん、、)
「最近は会わないかなぁ。太陽兄さんにはこの間連絡したら元気で過ごしているみたい。大地兄さんも特に連絡はないから元気にしてはいると思うけれど。」
「そうなんだ。お二人とも結婚前に会って挨拶させていただいたけれどもうだいぶご無沙汰しているからなぁ。僕ら披露宴はしていないじゃない?今更だけれどそう言った場所で再度お会いするのはどうだろう?」
彼が気にして提案してくれる。
「二人とも忙しいだろうし、私も実の両親っていうわけではないから。気にしてくれてありがたいけれど、私としては気が進まないかな。ごめんなさい。」
私はやんわりと断った。
一瞬、彼は残念そうな表情を浮かべるもすぐに笑顔に変わる。
「お金もかかることだしね。月さんが必要ないなら無理してすることもないか。」
彼は私の意見に同意してくれる。
今の両親に恩返しという気持ちもある。
きっととても良い人達だから全面的にバックアップしてくれるに違いない。
だけれど正直これ以上私たち兄妹がお世話になるのは気が引けてしまう。
報告したことでじゅうぶん喜んでもらえたからこそ私はこれ以上望まない。
それに彼も両親を亡くしているのだから。
「そういえばそろそろ月さんのお父さん、星波教授の命日だね。今年も一緒にお墓参り行きましょう!」
律儀に彼は覚えてくれている。
私としても大切な日だからこそ忘れることはないけれど、移動する手段を考えるととてもありがたい。
「はい!」
私はお願いをした。
「そうだ、丁度、その頃病院のイベントがあるんだった。今度は被らないようにしないとなぁ。また休んだりしたら上司に睨まれちゃうから気を付けないと・・。あっ!でも緊急時は別だよ?」
ついうっかり口にしてしまったのだろう。
私の病院通院の為に大切な日を休んでしまい、上司から釘を刺されたことが見え見えだ。
(無理に気を使っちゃって、、とはいえ実際私の為のお休みだったのだから逆に申し訳ない話。)
ここで謝るとさらに彼は焦ってしまいそうだったので頷くだけにする。
「病院て、樹林総合第一病院のイベント?第二病院も?」
彼の勤め先の樹林総合病院はこの地域も有名な大病院の一つ。
その病院がイベントをするなんてどんなことをするのだろうか。
「第一病院だけかな。創立20周年記念式典なんだよ。あっ!思い出した・・僕も外科部長として一言言わないといけないんだった・・はぁー・・」
「あらあら、大役だこと。」
私は笑いを堪えて返事をする。
すると彼は私の顔を覗き込んだ。
「・・月さん・・楽しんでいるでしょ?」
ギクリと心の中で反応をしてしまう。
しかしここは可哀想なので平然を装う。
「こほん・・嫌だなぁって思ったり、緊張するのは他の人も一緒ですよ。それに京介さんは第一病院の顔でしょ。自信持って!」
フォローする。
しかし、彼にはあまり響いてないらしい。
彼の顔は引き続き浮かない。
「・・たにんごとだよね。」
「うん!もちろん!?」
(しまった!聞き間違えた。たにんもだよね、、と言ったように聞こえて返事を、、)
つい反応してしまった。
案の定彼の表情はさらに暗くなる。
「じょ・・冗談。冗談ですよ!他人も同じだよねって聞き間違えて返事しちゃった!ごめんなさい!本当に!いや、あー・・今日の夕飯、京介さんの好きなカレー作りましょう!野菜たっぷりの!!」
私は必至に弁解した。
聞き間違えとはいえ申し訳なく一生懸命心から謝罪とお詫びを伝える。
「・・いえ。大丈夫です。カレー楽しみです。」
どうやら、少し効果はあったようだ。
早く話題を変えて彼の気持ちを一蹴しなくてはならない。
私は彼との会話の中で思い出した話題を切り出す。
「実は京介さんの病院、今思い返したら京介さんと結婚する前から私、お世話になっていたことがあるんですよ。私が中学生の時、健康診断に来てくれていた先生って樹林総合第一病院のお医者さんだったんですよ?あの時丁度健康害していたからとても頼りになったの!知っていました?」
「えっ!?そうだったんだぁ。そう言えばあまり記憶にないけれど僕も月さんの学校へ出張に行かされていたかもしれないなぁ。何となくだけど月さんの学校見覚えあったし。」
彼は偶然にも私の意見で過去の記憶を取り戻す。
もしかしたら、結婚する前から彼には会っていたのかもしれない。
「えー、京介さんのエッチ!!結婚する前から私の裸を見ていたんですかぁ?」
私は冗談交じりに答える。
例えそうだとしても、その時は知り合いではないしお仕事だったのだから仕方がない。
「!!いやいやいやいやいや!!」
彼は身振り手振りを使い大慌てで取り乱す。
(あららっ、、顔が真っ赤っか、、言い過ぎたかな。)
少しでもからかうと本当すぐに取り乱してしまう。
これでもお仕事は病院の外科医。
少し心配になる。
「いやいやいやいや、確かに男性が請け負うことが多いけれど、病院では女子は女医が診ることに決まっているから。・・たぶん僕が行ったときも月さんの診察は女医だと思うよ。」
必死に説得を試みる彼を見るとつい調子に乗ってしまう自分がいる。
私はクスクス笑いながら突っ込んでみた。
「・・たぶん?」
「えっ!?」
あっという間に落ち着こうとした彼が再沸騰する。
「アハハハッ!」
私は意地悪く声を出して笑った。
今の私が出来ることは彼と過ごしている時間だけでも彼の為に寄り添ってあげたい。
いつか私が一つになるまで。




