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貫(つらぬく)  作者: 浮世離れ
第二章
39/60

環(新)①

「朱音!?久しぶり!!」


仕事の帰り道。

私はいつものように近くのスーパーに寄り今後の料理の材料を買い出ししている時によく知っている人に出会う。

高校時代を共に過ごした親友、東海林朱音だ。

途中、朱音はお父さんが亡くなり引っ越して疎遠になってしまったのだけれど。

思いがけない旧友を見つけ私はつい舞い上がって大声を出してしまう。

向こうも私の声に気づき口元を抑え声を出す。


「環!?久しぶりだねぇ。」


朱音は懐かしさと嬉しさのあまり表情を綻ばせ返事を返してくれる。

同時に、あまり広くないスーパーでの再会に周りの主婦たちが何事かと注目し始める。

私も朱音も我に返ると、近寄りながらひそひそと話を進めることにした。


「ねぇ、朱音?良かったらこの後近くの喫茶店でお茶しない?時間ある?」


私は偶然の再開。

共有する時間をこれっきりにしたくなかったため相手の都合を気にしつつ聞いてみる。


「えへへ、いいよ。私もそう思ったの。」


私たちは意気投合すると、急いで買い物を済ませスーパーを出る。

お互い積もる話もあり、スーパーを出た瞬間から女子会がスタート。

喫茶店につく頃には二人とも喉がカラカラになっていた。


カランカラン、、

私たちは喫茶店の扉を開け心地よい音と共に店内に入る。

担当のウェイターに案内され私と朱音はアンティーク調に統一された店内の指定された席に座る。


「ふぅ、まだ夏でもなのに少し動くだけで暑いね。」


私はそれまで怒涛のマシンガントークでテンションが上がった影響を考えもせず手でパタパタと仰いだ。

もう二人は過去の自分達。

高校生で仲の良い同級生だった自分達に精神は回帰している。

そしてその懐かしさは二人にとって今、現実から抜ける為に必要なタイムマシーンだった。


「ハクション!!」


(いけない。調子に乗って仰ぎすぎた。)


時期が時期なだけに私の作り出した汗は仰げば仰ぐほど私を冷却し、体温を奪っていった。


「いらっしゃいませ。ご注文お決まりになりましたらお声掛けください。」


ウェイターがお冷をテーブルに置きながら声をかけてくる。

実は私はすで決まっている。

私が喫茶店で頼む定番はミルクティー。


(ロイヤルがあったらロイヤルミルクティーにしちゃおうかなぁ。)


メニューを開いているものの私は全く見ずに決めてしまう。

私は性格上、即断即決で迷うことはあまりない。

それは良い時もあれば悪い時もある。

いや、悪い時の方が多いかもしれない。

痛い目にあっても学習しない為、大地君によく注意される。


(大胆不敵な性格だなって大地君に言われてしまうんだよなぁ。その通りだけれどさ。)


我、関せず猪突猛進な私は壁にぶつかりぶち破ることもあれば盛大にぶつかり砕けることもある。

砕けてしまった私はその後すぐ泣く。

大泣きする。

そしていつの間にかケロッとする。

凹み期間はまちまち。

でも最近はぶつかる事も少なくなりぶつかっても立ち直りが早くなった。

大地君という素敵なパートナーを得ることが出来たことで。


「その様子だと環はもう決めたみたいね。うーん・・私も環と同じものでいいや。」


朱音の性格は私と真逆。

優柔不断で、自分で判断することがあまり得意ではない。

良い意味では慎重なのかもしれない。


「ロイヤルミルクティー二つお願いします。」


私はウェイターが戻る前に声をかけ注文をした。


「ロイヤルミルクティーをお二つですね。畏まりました。」


ウェイターが注文を確認しキッチンに向かう。

私たち以外にお客さんは二組のカップルくらい。

偶々入ったにしては中々お洒落で落ち着いたお店だ。


(今度は大地君と来よう。)


私は一人、想像してニヤついてしまう。


「さっき話していたけれど、弁護士のお仕事って大変でしょ?休み取れる?」


「はっきり言ってちょー大変です。仕事中は現実逃避したくなるくらい。だから私はオン、オフしっかりしているよ。休みはしっかり頂いています。」


クスクス、、

朱音が口を隠しながら笑う。


「ねぇ、環。もしかしてその指輪・・」


朱音が私の左手薬指の指輪を見て質問をしてきた。

もちろん隠す必要などないので私は今までの経緯を余分にくっつけて昔話を始める。


「私、結婚したのよ。高校生の時から付き合っていた彼と。」


「もしかして星波君?あっ!途中で名前が変わったんだっけ・・えーと・・当摩君?」


男子と付き合うなど年頃の女子高生の中じゃ大ニュースなことで友達通しならば知らないはずがない。

私と朱音はそれこそ包み隠さない無二の親友だったので当時の情報まではすべて共有している。

知っていて不思議ではない。


「その通りぃ!」


私は自慢の旦那なもんで、つい大声で人差し指を突き出して答えてしまう。


「・・ご注文のロイヤルミルクティーです。」


ウェイターがバツの悪い表情で飲み物をテーブルに運んでくる。

私は小声でお礼を言うと恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。

クスクスっ、、

再度その様子をみて朱音が口を隠しながら笑う。

私は朱音の様子見てさらに顔の温度が上昇し俯いてしまう。


「本当、相変わらずだね。」


私はあの頃と全く変わっていないみたいだった。

朱音は原因違いで私に負けず劣らず顔を赤らめて笑い続けている。


「・・だって、つい。ふん。でもタイミング悪っ・・フフフッ、アハハッ!」


私もつられて笑ってしまう。

暫く終始二人で笑っていた。


「こんなに笑ったの久しぶりだよ。えへへ、本当、今日会えて良かった・・」


朱音が涙を浮かべながら話す。

始めはうれし涙かと思ったのだけれど少し様子がおかしい。

朱音の表情はとても温かいのだが言葉には何故か寂しさが感じられた。

私は自分の事ばかり話そうとしていた自分自身を諫めと朱音の現状を聞いた。


「ねぇ朱音。朱音は今、どうしているの?」


私はあまり隠し事が得意ではない。

遠まわしな言い方ではすぐにボロが出てしまう。

一線は超えないよう気を付けながらそれでも話を振ってみる。

朱音は躊躇いながら目線を少々斜め下にし、ゆっくりミルクティーに入れた砂糖を混ぜながら間を開けて口を開いた。


「私も・・去年、結婚したんだ・・」


(、、そうなんだ。)


私はぎこちない笑顔になってしまう。


良かったね。

本来ならば言えるはずだろうが言えるような雰囲気ではない。

私は朱音の言葉に疑問を隠せずにいた。

去年の結婚など新婚ほやほやなはず。

ごく一般的なイメージでは楽しい期間そのものなのに。

それなのに朱音の暗いトーンに一体何が隠されているのだろう。

確かに結婚して一緒になることで距離が近づき見たくないものまで見えてしまうこともあるだろうけれど。

私の頭の中で雑多なイメージが次々と浮き出てくる。


(やっぱり余計なことを聞いてしまったかな、、)


少し後悔が生まれる。


「気にしないで聞いて。私もこうして環と話せることが嬉しいから。少し愚痴ぽくなっちゃうかもしれないけれど・・えへへ・・」


理由はわからないけれど朱音は今とても辛い思いをしている。

そう感じた。


「朱音、良かったら話してみてよ。友達じゃん。」


そういうと朱音は軽く頷く。

涙を浮かべているように見えた。


「私ね。病院の偉い方と結婚したの。ちょっと一方的にお見合いを組まれたみたいな感じでね。ただ・・」


「ただ・・?」


核心に迫る部分であろう。

私は焦らず慌てずの朱音の気持ちを大切に次の言葉をゆっくり待った。

朱音は暫く間をおいてから続けた。


「何故か婿養子として私と籍を入れたの。彼はその時、私の家系を考えてとか何とか言ってくれたのだけれど・・正直私にはそんなことどうでもよかった・・」


「うん・・」


私は相槌を打った。


「えへへ・・政略結婚だったみたい・・たまたま、彼の部屋の前で彼が電話をしている声を聴いてしまったの。私が買い物に出た後だったんだけれど、たまたま忘れ物をしてしまって戻ったタイミングでね。私の亡くなったパパ、東海林の名を手に入れる為の目的だったみたい。・・なんとなく、そうじゃなのかなぁって気づいていたんだけれどね・・結婚後は拍車をかけたように私自身に関心がなくなっていたから・・」


(!!何それ、、酷い!朱音をこんな気持ちに、、こんな人生にさせた男、、)


とても酷い話に私は勝手な正義感から心の中で朱音の仇を懲らしめてやりたいと憤怒した。


(でも、、きっと、、)


私は知っている。

朱音がそれでも結婚に踏み切った理由。

朱音はお父さんが亡くなり悲しみの淵にいるお母さんに対する気持ち、それでもなお自分に対する愛情を注いでくれた感謝や恩義が強かったのだろう。

きっとお母さんに安心してほしくて大して好きでもない男と結婚を決めたのではないだろうか。

むしろそれこそがお母さんの願いだとしたらもう断るなどという選択肢は彼女から無くなってしまう。それだけ気が弱くて優しい子であることを。


「そっか・・」


私は次の言葉を懸命に探した。

そんな私の表情を悟った朱音は話を続けた。


「でもね、環。私、本当に今日環に会えて良かったと思っているの。結局男運には恵まれなかったけれど友達の縁は恵まれたと思う。こうして話を聞いてくれる人がいるのだから。」


朱音は最後に笑顔に戻る。

そんな風に思われている私は朱音という親友を心から大切にしたいと思った。


「朱音。ポジティブに考えるならさぁ、束縛されない人生を過ごすことが出来る訳でしょ。それも結構良いものじゃない。ほら、今後からは私と二人でデートに行くことだって旅行に行くことだってできるんだし。」

私の言葉に朱音は声を出して笑った。


「なんだか愛の告白みたいね。えへへ、環らしいなぁ。環が男だったら私、一つ返事で付いて行っちゃうよ。」


朱音は嬉しそうに答えた。

ようやく朱音の明るい表情が生まれ安堵する。


「ところで環は今、どこに住んでいるの?買い物していたってことはこの辺り?」


(忘れてたぁ、、ここから1時間以上かけて帰らなければいけない、、)


楽しい過去から現実に。

朱音の質問に一気にテンションが下がる。


「ううん、この近くが職場なだけ。朱音・・。私ここから1時間以上かけて家に帰らなければいけないの。最寄りの駅からも歩いたら30分くらいかかるし。大地君・・いや旦那様がどうしても地元がいいってことでさ。地元に商店はあるけれど品揃えが良くないから生鮮食品以外は購入して帰るのよ。私もなんだかんだ振り回されている・・かも・・」


根も葉もないことだが、今は愚痴として朱音に同調したかった。

正直通勤にこの時間がかかるのは本当に愚痴なのだが、それ以外は大地君に不平不満はない。


「えへへ、無理しなくても旦那様に不満はないでしょ。でも職場が遠いのはちょっと大変そうね。環、朝弱いもの。」


そういうとまた二人で笑った。

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