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貫(つらぬく)  作者: 浮世離れ
第二章
37/60

月(新)①

「こんな日にお休みをいただいてしまってごめんなさい。」


私は運転席に座る彼の横顔を見ながら謝った。

いつもより早いスピードで運転する彼は前を向きながら笑顔で答えてくれる。


「いえ!最近月さん顔色が優れなかったから気になっていたんです。逆に病院に行くって言ってくれたときは正直ホッ、、としましたよ。僕は普段全然休めなくて月さんに負担ばかりかけているのだからこのくらい朝飯前です。」


忙しい中でも彼は私の体調を気にしてくれていたらしい。

普段から医師として多忙な日々を送る彼とまともに会話をすることなどここ最近、いや結婚してからは本当に少なくなってしまった。

私自身家事に貢献しているとはいえ、帰りも遅い彼を気遣い積極的にコミュニケーションを取ろうとはしていなかったのだけれど。


(やっぱり頭がぼっーとするなぁ、、)


私は最近原因不明の体調不良により微熱があり腹痛、倦怠感に苛まれていた。

彼に心配をかけまいと黙っていたのだが、ついに倒れこんでしまい彼に相談し、週明けの今日医療機関へ受診を決めた。

そこで運転免許を持つ彼が医療機関まで付き添ってくれることで仕事をお休みしてもらったのだ。


「京介さん、最近お仕事はどうですか。」


彼の性格は大人しい。

けれど責任ある立場な為色々と悩みがあるのではないだろうか。


「忙しくないと言えば嘘になるかな。もう今月で10年近く病院でお世話になっているからさ。当然責任ある立場になっちゃっているわけで。最近じゃ患者さんの悩みを聞くどころか話している内に私の悩みを聞いてもらっている始末だし。面目ないようなぁ、はははっ・・。」


言葉の節々から大変さが伝わる。


(乾いた笑いまでしてしまって、、)


「あらっ!?私というものがありながらそんなところで悩みを昇華しているのですね!?」


私は不貞腐れた言葉を言い放った。

普段から意識してしおらしく会話をするように過ごしているけれど、私の基本的な性格は強気で言葉は結構毒を吐く。

私の欠点だ。


(やっぱりそう簡単に治りはしないか、、)


言葉に出しておきながら私はつい地を出してしまった事に反省をする。


(やっぱり、、)

彼を見るとやはり困った表情をしている。

次の言葉が出ず口をつぐみ眉毛が八の字だ。

彼はすぐに顔に出る。

わかりやすくて可愛らしい所、私にとっては嬉しい部分でもあるのだけれど。


「ふふふっ・・別に責めていませんよ。私も聞くことしかできませんから特別力になることは出来ないかもしれないけれど良かったら話してやってください。」


私は微笑を浮かべながらフォローする。

彼はそんな私の表情をポジティブに捉えることが出来たのか笑顔で謝罪を繰り返す。


(この人はおっちょこちょいで、、本当に気の弱いお人好し、過ぎるんだろうなぁ、、)


私はそんな彼の態度を見て感じた。


高校を卒業して数年後。

私は鳴海京介さんと結婚をした。


(もう3年位になるなぁ。)


一世一代の勇気と行動力と知恵を使ったと言い張るぐらいの彼らしいような、らしくないような驚くプロポーズを今でも思い出す。

本気度が凄く伝わった二人の思い出。

練りに練って考えたという案は柄にもない手段。

フラッシュモブという大勢のエキストラさんを使用したド派手な内容だった。


(本当に彼の目的を果たせた凄いプロポーズだったなぁ。)


付き合ってからの思い出が少ないと感じた彼の考えの元、これからは一つ一つの出来事を二人の思い出として残していきたいという彼にとっては意気な計らいだったようだ。


私と京介さんはお父さんのお墓参り以降、たまに会っては食事を共にしたりしていた。

その日も私はいつものように京介さんに誘われドライブがてら食事をするコースなのだと思っていた。

高速道路を走り着いたレストランは海の見えるお洒落な場所。

時刻は11:50。

京介さんはレストランの玄関前で何やら怪訝そうな顔をして伏せてあった看板を玄関のドアノブに引っ掛けた。

その看板にはこう書いてあった。


{本日は12:00~14:00まで貸し切りです。}


今思えばおかしい行為だ。

なぜ、京介さんがそんなことをする必要があったのか。

勿論これから何が起きるかを知っていたからだ。

私もそれが何だったのかその時は気にはなったけれどそれ以上に雰囲気のあるレストランに感動していた。

こんなに高級そうでお洒落なレストランに来るなんてどうしたのだろう。

京介さん何か辛い事でもあったのかなとか。

お客さんお昼時なのに少ないのはオープンしたてだからなのかなとか。

その後の私はそのくらいしか想像する事が出来なかった。


二人で会話をしながら食事を楽しみ、食後京介さんが席を立つ。

どうやら京介さんが席を立つタイミングが演者さんの始まるスイッチだったらしい。

ウェイターさんやコックさん、お客さんに扮装した演者さんは素敵な音楽を奏でながら、踊りはじめ会場の雰囲気を作り出していった。


「な、、なに!?えぇー、、!?」


私はまんまと驚き、頭の中が真っ白になった。

だけれど、進行していくうちになんとなく気付く。


(あの時の演者さんの踊りや演奏はとても綺麗だったなぁ)


区切りのついたタイミングで準備の出来た本命さんの登場と誰もが待ちわびている中、京介さんは一向に出てこない。

流石の演者さんもプロなので声には出さずとも表情に焦りが浮かんでしまう始末。


(10分位だったかな、、なんだか気まずくてすっごく長い時間に感じたなぁ、、)


私もなんとなく予想していた事とは裏腹の出来事に結局何だったのか、何がが始まっていたのか考えが振り出しに戻る始末。

痺れをきらした奥の演者さんが男子トイレに向かうと、肝心の指輪を忘れて絶望の淵にいた京介さんが佇んでいたとのことだった。


結局指輪は車の中の後部座席にあった。

演者さんへお礼を包む準備している際に置いたことを忘れてしまい、鞄の中に入れたと勘違いしてレストランへ入ってしまったらしい。

京介さんらしさを代表したようなエピソードに一緒に指輪を探して発見した時は私も笑いを堪えることが出来なかった。

さらに気を使って看板を担当していたフラッシュモブのリーダーさんにも看板の事を問われ自白すると会場は大爆笑の渦に。

京介さんには気の毒な事だったけれどお陰でとても楽しい、嬉しい日になった。


「ん?何か面白いことでもありました?そろそろ病院に着きますよ、月さん。」


彼はカーナビゲーションの地図を見ながらそういった。


「遠くまで運転ありがとう。」


彼は病院の駐車場に入った。

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