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貫(つらぬく)  作者: 浮世離れ
第一章
32/60

星波太陽⑤

(珍しい。)


大地はいつもあまり感情を表に出す事は無い。

いや出しているのかもしれないが悟られないようにするのが上手なのかもしれない。

しっかり感情のコントロール統制されている。

だからこそ、鈍い俺にもはっきりわかるこんな大地の表情、空気は初めてだ。


「まだあるって、なんだい?聞かせてくれ。」


俺は独特の緊張感に包まれた。

もはや俺には次の言葉は想像できない。

ただ、ただ大地の話を聞きたい。

そして力になれればと思う。


「うん。兄さん、今俺には一人の婚約を前提で付き合っている女子がいる。同じ高校の同級生だ。名前は羽衣環。」


(っ!!!!)


吃驚だ。

モテるでろうし、女子が放っておかない事はわかる。

しかし大地はまだ高校3年生。

彼女って話なら理解するが婚約を前提でって言うのは随分突飛な話だ。


「婚約を前提でって・・大地、結婚するのか!?」


俺は当然、思っていたことを口にする。

大地は感情で動くようなことはない。


(女性に婚約を望む、もしくは望まれる事を安易に承諾するような、女に入れ込む男では、、

ないはずなのだが、、いや、、冷静に考えると勝手な解釈か、、大地だっていずれは女性と付き合い、そして結婚して、そして親となり子を育てて、、兄妹離れ離れになって日常を垣間見る事が出来なくなったから気付かなかっただけかもしれない。月はどうするんだ?あっ!月は兄妹だった。

しかし、、しかしこんなに早く!?)


俺の思考回路がオーバーヒート寸前になる。

嬉しいのやら悲しいのやら、収集のつかない状況に陥る。


「兄さん、今は婚約が前提ってだけだ。確かに約束を前提している仲になっているというのは事実だけれど。結婚をする、しないは今ではなく未来の話。兄さんの言いたいことは想像できるけれど。」


(それはそうだが、、婚約を前提って言うのはいずれ結婚を約束した仲っていう意味だよなぁ。)


「しかし大地。大地は医者になるんじゃなかったのか?」


そうだ。

大地は医者を目指すと言っていたはず。

婚約なんて人生の大イベントを聞いてしまったら気が気でない。


「あぁ。なるよ。当初俺は幾つかある医師の道として国立の医学部を選択していた。学費を抑えることが出来るからね。そんな折、俺は羽衣環に出会った。」


いつもの大地の口調だ。

しかしどこか重みのような強さのようなものが感じられる。

その重みや強さは一過性の上辺などで出来ているような代物ものではない。

もう何日も、何年も幾重に重ねられた感情の層によって形成された言霊のようだ。


「兄さん、隠さず言うよ。羽衣環の父親は河川クリニックの院長だ。そしてその河川クリニックは樹林総合病院系列だという事がわかった。」


(樹林総合病院!?親父の働いていた病院じゃないか!?)


樹林総合病院という名を聞いて俺は得体のしれない胸騒ぎを覚えた。


(大地、、一体お前は何を考えているんだ、、)


「兄さん、俺は羽衣環の父親から色々な情報をもらった。それによると樹林総合病院は特例な場合を除いて私立の瀧川医科大学からでしか入職を許されていないらしい。」


「大地・・それって・・」


不安は徐々に形を成していく。

まったく大地の口調は変化することがない。

しかし、それは大地の放つ言葉一つ一つに呼応するかのように重く、そして強く俺の心に響く。

恐ろしいのはその不安が何故か俺の心に突き刺さるのではなく、まるで包み込むかの様に近づいてくるのだ。


「俺は私立瀧川医科大学に入学するよ。」


(大地、、お前の目指す目的はすべて、、)


俺はそれ以上何も言うことは出来なかった。

大地は嘘でも冗談でもない。

ただ自分の進むべき道を言っているに過ぎない。

美しいまでも完成された鬼胎をもう否定するなど俺の器では到底出来はしなかった。

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