星波太陽④
「兄さん、久しぶり。」
「なんたってこんな洒落た場所に呼び出すんだ?しかも個室かよ。」
俺は弟の大地に呼ばれて、とあるレストランへと足を運んだ。
大地に会うのは何ヵ月振りだろうか。
月に遠慮して会える機会を逃していたが、そんな月にさえ最近大地はあまり会うことはなかった。故に俺が会うというハードルは一気に高くなり、いや俺が勝手にハードルを上げている訳だが引越しをしてから凡そ片手で数えられる程の回数しか会っていない。
さらに今回は兄弟二人、水入らずなシチュエーション。
これは人生初だ。
(弟から呼んでくれるとはなぁ。やっと俺の出番かなぁー?)
俺の自慢の弟だけあって何か嬉しい。
自他ともに認める親バカならぬ兄弟バカな俺は、何でも素都なく熟せ他人を頼ることが無い弟だからこそ呼ばれた意図が気になった。
何故か気合が入る。
(しっかりしよう。)
久しぶりにあう大地は益々頼もしい表情になっている。
もともと賢しい顔つきをしていたが、そこに頼もしさが加わるとここまで変わるものなのかと思ってしまう。
さぞモテるだろう、が同時に、何か苦労をしていないか心配にもなる。
無用だとは思うのだが。
「新しい環境で大変じゃないか?」
「いや、全然。」
(、、やっぱり。)
心配無用だった。
(元々、大変なことであったとしても大地ならば対応出来てしまうし、まず他人は愚か兄妹にでさえ愚痴を零すことなんてある訳ないよなぁ、、むしろ必要なのは、、)
そう。
(退学をし、一社会人として社会の荒波に揉まれて毎日ヘロヘロで生きている俺の日々の愚痴を聞く集まりの方がよっぽど必要じゃないか。)
勝手に当の大地からまともに話も聞かず自分の悩みを聞いてもらう事を優先してしまった。
間髪入れずに答える逞しいイケメンを目の前にしてが愚痴が出てしまう。
しかし本当に兄弟なのか疑う。
(確かに俺ら兄妹はそんなに似てはいないが、、)
よく大地が自分の事を家族の誰も似ている人がいないってことは星波家の子供じゃないのかもと言っていた。
それじゃあ困る。
少なくとも俺は科学的に大地の兄弟として遺伝子を分け合うことが出来ているのだから、本質は大地と遜色ないポテンシャルを持っているはずだ。
いや、そうであってほしい。
「こんな洒落たレストランの個室なんか取っちゃって。相手間違えているんじゃないのか?」
俺は味わったことのない世界への感想を述べた。
「あんまり茶化さないでくれよ。これでもアルバイト代を貯めて予約を入れたんだよ。遅くなったけれど兄さんの就職祝いにね。本当遅くなってごめん。」
(な、、なんとも嬉しいことを言ってくれる。よく自分の子の初任給で親孝行なんて話を聞くが、まさにこんな感情になるんだろうなぁ。)
就職をして嬉しいことがまた一つ叶った感じだ。
退学をして就職するって言ったとき反対されることを覚悟していたが、最終的に大地だけはその考えを真剣に受け入れてくれた。
理路整然と具体的な方法、方向を示してくれた大地の意見は今の俺の道、そしてなんだかんだ俺の自信となっている。
就職したことは正解だった。
「すまないな、悪く思わないでくれ。折角のバイト代なのに俺の為にありがとうな。」
少しでも皮肉めいた事を言ってしまって俺は反省した。
自分の為にされることがこんなに嬉しいものなのか。
自分がされてこんなに嬉しいものならば、今後も兄妹の為に頑張ろうと心の誓う。
料理が運ばれてくる。
俺の好きなガッツリ系の料理ばかりだ。
きっと洒落たレストランだから、量よりも質みたいな絢爛華麗で量が物足りない美味な料理の数々が出てくるのかと思いきや、好みをちゃんと考えてくれている。
きっとこの店のメニューをしっかり下調べしてチョイスしたのだろう。
(マメな男はモテると言うが、これは好感度高くなるわけだなぁ。)
俺がマメになろうともきっとそれは付け焼刃であって、ここまで完璧に徹する事は出来ないだろう。
素で行えるならば猶更だ。
二人で心も身体も満足いく料理を堪能した。
「確かにこのメニューだといくら洒落た店で料理が美味しくても月は色々楽しめないだろうなぁ。」
成程。
俺だけを呼んだのも一理ある。
それでも大地は上手に成し遂げるだろうが。
俺は食後のコーヒーを飲みながら感心した。
大地は同じようにコーヒーを口にすると一変して、今までの表情が強張る。
「そう思う。でも兄さん・・月を呼ばなかった理由、まだあるんだ。」




