プロローグ③
僕は何事もなかったかのようにただ深い悲しみと形のない憎しみを心に忍ばせいつでも神妙な表情を作りだせるように会場へと向かった。
陰々滅々な会場では静まり返った空間に一定のリズムの声や音が響いている。
僕は冷静に。
いや冷静になったつもりかもしれない。
フウゥ、、
と一呼吸し、冷静を装う。
もう男らが自分と離れてから10分以上経過している。
充分に待った。
充分にリスクを軽減したつもりだ。
しかし、僕も人の子だ。
人並みに緊張だってする。
もしかしたら何かに気づいていて、僕を目にすることでという危険因子として暴かれてしまうのではないか。
男らの座っている座席の位置など到底わからない。
会場に参列している不特定多数が、大体同じ一点を見つめるはずの空間なのに僕に対する視線がこの中にいるような気がして冷や汗が流れる。
僕の席は前列。
僕も家族の一人なのだから仕方がない。
約10mほどに道のりがとても長く感じる。
会場の周りをゆっくり歩き自席へと戻る。
「大丈夫かい?」
座ると同時に隣から、兄さんが小声で声をかけてきた。
「ああ・・大丈夫だよ。」
僕は兄さんの表情を見ずに答えた。
兄さんはそれ以上声をかけてはこなかった。
きっと僕は微笑を浮かべていたのだと思う。
先隣りで聞いていただろう妹の視線が柔らかく感じた。
(取り合えず兄さんと月には安心を届けることができたかな。)
ひと段落ついた僕にとってのこの静寂は考えをまとめるにはもってこいの場所だった。
完全に僕という実態を取り戻した僕は、より鮮明に映る景色を目に宿し、時計の針を進めることにした。




