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貫(つらぬく)  作者: 浮世離れ
第一章
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鳴海京介②

「少し付き合ってくれないかい、鳴海外科部長。」


私は、その男に言われるがまま別棟の屋上へと同行した。


この男は石火矢烈火いしびやれっか

その名の通りこの病院の院長の息子だ。

齢32歳。

この若さにて医療検査管理室長の肩書を持つ。

そしてまたの名を病院一の曲者と呼ばれている。


「吸うかい?」


石火矢は自分のポケットから煙草を差し出してきた。

私がすぐに受け取らない所を見るや否や、フッ、、と鼻で笑う。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。だからわざわざ別棟に来たんだろ。」


そう言うと、再び私の顔の前に煙草を突き付けてくる。

私は、頷くと拝借した。

私が煙草を加えると素早く火をつけてくる。

私は未だ理事長との会話を終えたばかりの荒廃しそうな精神状態を整えることもできず、このペースに押され気味になっていた。

石火矢は知っての事か不敵な笑みを浮かべると、自分の口に煙草を咥えた。


「火、もらえます?」


そう言って私に今度はライターを突き付けてくる。

私はライターを受け取り、石火矢の口元に寄せ火をつけた。

石火矢は煙草を吸うと満足そうな表情をする。


(一体、こいつは何を考えているのだろうか。)


底の知れない態度が、一層私のパーソナルスペースから距離を置きたいと本能が訴えてくる。


「回り諄いのは嫌いなんでね。単刀直入に聞かせてもらいますよ。理事長・・なんて言っていました。」


(どこで知ったのだろうか。油断できない男だ。)


「石火矢さんの気になる事は何も言っていないですよ。」


「何度も言わせないでくださいよ、鳴海外科部長。俺はね。理事長が何を言っていたか知りたいと言ったんですよ?」


石火矢は間髪入れずに、淡々とした口調で返答が返ってくる。

とても冷酷で、とても静かな声で。


「・・星波教授の事を聞かれました。それと・・今の職場環境の事だったり・・ですかね。」


石火矢は暫く煙草を口にしては吸い、吸っては吐き出していた。

妙な間に居心地の悪さを感じる。

石火矢は院長の力を使い、結果的に親の七光りにより今の地位を築けることができた。

しかし、理事長とは血縁関係もなければ同じ医師としてのポジションが土台にあるわけではない。

そう、石火矢は医師ではない。

噂では過去とんでもない悪党だったと聞いている。

現在がそうでないとは言いきれないのだが。


もし、石火矢が理事長にとって目の上のたん瘤だと自覚していたら今回の件は無関心でいる訳にもいかないだろう。


「そうですかぁ。全く・・これだから始末が悪い。これだけの名声、これだけの富、これだけの大病院になれたのは誰のおかげなのか。ここにきてひと一人の死の為に全てを犠牲にする気かねぇ。」


石火矢は自信に満ちた表情で言い放った。


「そう思いません?鳴海外科部長。」


石火矢がこちらに同意を求めてくる。

もはやこれは要求ではない、支配者としての脅迫。

私はここでYesと答えれなければならない。

いや答えれば良い。


(それだけでいいのだ。)


「そうですね。」


そこに私の感情は存在しなかった。

目に光は灯らず。

表情は変わらず。

自分を見失う。


(私はとうとうこいつにも屈してしまうのか。)


石火矢は声に出して笑った。


「はっはっは!でしょ?じゃぁ、これからも無能な上司との戦、手伝ってもらいますよ。劈く想いなど、その先に手にすることができる利益がなければ何にも意味がない。そいつは単なるエゴですよ。世の中は勝つか負けるか。それだけのシンプルな世界だからな」


石火矢は饒舌に次から次へと本音であろう言葉を吐き出した。


「さて、そろそろ戻りましょうか。鳴海外科部長。」


石火矢はその場所を後にしようとする。


「石火矢さん、あまり、私の事を外科部長と呼ばないでください。」


言う必要などない。

だが、私はこの居心地の悪さに最後まで耐えうることができなかった。


「そうなの?ふぅん、じゃあ今まで通り鳴海先生と呼ばせて頂きますよ。呼ばざる負えない状況以外は・・ね。」


石火矢はまた鼻で笑った。


本音が出てしまいに余計な事を言ったのではないかと、内心後悔していた私としては一番良好な結果になったのかもしれない。

そして同時に湧き出る思い。


(自分が惨めで情けない、、)


私はやり場のない気持ちを、殆ど口にせず灰化していく煙草にぶつける。

大きくニコチンを吸い、透明なものを灰色に染めた。

そして短くなった煙草に必要のない力を込めてクシャクシャするとその場に捨てた。


「鳴海さん。何かを成し得ようとするときはね、それまでの痕跡を残さないでいることだ。残さないから正義のままでいられるんですよ。鳴海さんもお願いしますね。」


そう言って、捨てた私の煙草を拾い石火矢は携帯していたポータブル灰皿へと放り込んだ。

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