当摩大地⑦
「そりゃあ、医者と大学教授の娘ならば冷静で思慮深いって言われたり、聡明な話し方をするなんて勝手にイメージされるでしょ?」
(羽衣の母親は大学教授か、、)
「聞いている!?」
ふと、羽衣の話よりも他の情報が気になってしまい考えに耽ってしまったところを羽衣は見逃さない。
分かり易く上の空になっていたわけではないのだが、羽衣には気づかれた。
(感情的になっていると思いきや、結構冷静じゃないか、、)
「ああ、聞いているよ。」
実は半分聞きたくないとは言えない。
まだ、ご機嫌斜めの羽衣の愚痴は続いている。
羽衣の両親と挨拶を交わし世間話をしていると気分を害したのか、話早々に羽衣に中庭へと連れて来られた。
ホームパーティ会場は広い応接室だけでもじゅうぶんなのだが、そこから中庭へと続いており、ベンチなどが置かれ会場の一部になっている。
僕らはそこに腰かけて話をしていた。
いや、客観的に見ると会話をしているとは言えないだろう。
会話をしているとはキャッチボールをしている事と似たようなものである。
球を受け取ったら球を投げ返す。
投げ方の違いで伝える感情の変化や意図が決まる。
しかし今は、どうだろう。
羽衣の一方的なピッチング。
僕はキャッチャーとして受けた球をひたすら自分の懐か外へと片付けるしかないのである。
「別にイメージするのは勝手だけれど、押し付けてほしくはないのよね!どんな環境であれ、性格は個人の自由なんだし、相手に迷惑をかけなければいいと思っているのよ!特に親がそこは率先して寛容になってほしいものだわ。」
(大方、間違ってはいない。)
僕自身、〇〇らしさにこだわるのはその人間の器の許容量を広げるチャンスを妨げ、自分自身が行えば場合によっては洗練されるものにもなるが、逆に固執してしまいエゴとして無駄に大きくなってしまうリスクが生じるものであると思う。
「大地君はこれからの目標が医者なんでしょ?私、前々から思っていたの!落ち着いているし、話し方や仕草、態度がとても大人だなぁって。まさに医師になる素質充分。本音を言えば、私、弁護士の夢を諦めるつもりはないし、自分を変えるつもりはないけれど、医師に向いている適正がある事に羨ましさはあったかな。」
(案外しおらしいな。しかしもうそろそろ羽衣と話す時間は不必要かな、、)
羽衣との話よりもここで知りえる事の出来る情報が恋しくなる。
「羽衣は羽衣のままで良いと思う。まずは羽衣が思うことを中心にして行動すれば良いんじゃないかな。他人の勝手な物差しで羽衣の良い部分、測れっこないだろうしさ。」
(そう、、僕は僕を中心にして、、ん?)
羽衣の顔が赤めいており、先程まで動き続けた口が止まっている。
と言うか身体の動き自体が停止しており、瞬きもせずこちらをジッと見つめている。
やっと、ピッチングが収まった。
一体、何球投げられたのだろうか。
(しかし、この間は、、ちょっと褒めすぎたか。)
僕の性格上、常に余裕を持っていたいのだが、キャッチングの手が痺れてきてしまったので強引にストップをしかけてしまったことを少々後悔した。
横目で羽衣を伺う。
まだ、静止中だ。
何故だか嵐の前の静けさな気がしてならない。
折角、静かな空間になったのに、持ってきたノンアルコールビールが進んでしまう。
「大地君、私、ずっと前から彼方の事が好きなの。結婚を前提に付き合ってほしい。」
嵐は突然やってきた。
それも特大の。




