当摩大地⑥
日曜日。
僕は約束通り羽衣家へと訪れた。
病院の院長の家だけあって一般の規模とは違う。
敷地前の門から家の玄関まで約30m。
この距離がこの家族の力を示しているようだ。
敷地内には大きな庭や池などもあり、四季を感じさせる木々が成功を収めた人間の名刺代わりをしているかのようである。
僕は元々人込みを好まないので、パーティーなるものなど積極的に参加することはない。
今回、ホームパーティーと称された集まりに対しての服装や手土産などの基本的知識を得るには少々てこずった。
「後学のために相談出来る相手を作っておくべきかな・・」
僕は着慣れない服を着て、赤く蚯蚓腫れのような後が残ってしまった首の辺りをゆっくり摩る。
リンゴーン、、
僕は門の横のチャイムを押した。
反応はすぐに訪れる。
「はーい!大地君ね!今、迎えに行くからね!」
一際テンションの高い声がインターフォン越しに響く。
(家族もいる中で、ファーストネームか。)
想像はしていたが、もうこの家庭の中での羽衣と僕と距離感は近いものになっている気がする。
羽衣の勢い、行動についていけるか。
先が思いやられる。
数分で羽衣が玄関から出てくる。
元気いっぱいの笑顔で手を振ると、門まで駆け足。
羽衣の服装は中身とは裏腹に黒をベースにしたコーディネートで、チェックのスカート、落ち着いたアクセサリーなどで飾られており年齢以上の大人の雰囲気を身にまとっていた。
意外な気がしたが、将来の話の下りなどを思い出すと、案外芯はしっかりしているのかもしれない。
「時間ぴったりね!私、そういう所がしっかりしている男性好きよ。さぁ、入って!」
時折、爆発してしまうのではないかという発言。
聞いた者がどう反応すれば良いのか迷う言動。
意図的なのだろうか。
それも邪気の無い素直な気持ちなのだろうか。
羽衣に興味がある者が受けてしまえば、たちどころに深い深い彼女の心へ沈んでしまうだろう。
(興味があればだが。)
僕らは雑談を交わしながら、羽衣の自宅へと入った。
自宅の中は想像通り広く、応接室には大人が軽く30人は入れるだろうスペースが存在している。
そこには見るものを魅了するケータリングが施されており、一流のシェフが拵えたであろう料理の数々が豪華絢爛に用意されていた。
会場にはゲストが十数人程。
夫婦から家族連れ、女性のグループなど様々な年代の人達が楽しそうに談笑している。
どちらかというと大人の数の方が多い。
どんな繋がりでの集まりかは想像できないが、中に医療関係者の片鱗を伺わせる人達がいる。
(僕の知っている人間いるが僕を知っている特定の人間は、、いない。)
「言っておくけど、僕らは未成年だよ」
そう言って、羽衣に持ってきた手土産を渡した。
「分ってますって。大丈夫!低アルコールもあるから。」
(分ってないじゃないか、、)
「冗談!ノンアルコールね。」
僕は眉をしかめる。
「わざわざ、お土産まで用意してくれてありがとう。気が利くのね!」
羽衣は嬉しそうに手土産を受け取る。
散々苦労して手に入れた品だ。
そう言って受け取ってくれるのならば報われる僕の時間。
ふと、羽衣は何かに気づいたように人込みの奥へと去っていく。
そして、直ぐに一回り大きい男性の手首を掴み、無理やり僕の前に連れてきた。
「紹介が遅くなりました。私のお父さんです。」
この人が噂の樹林総合病院系列のクリニックの院長さんか。
正装をしているせいか、まだそんなに歳がいっているようには見えない風貌だ。
僕は軽く会釈をすると自己紹介をした。
「初めまして。羽衣さんのクラスメイトの当摩です。」
大地君はねぇ、と話に横やりを入れそうな羽衣を制止し羽衣の父親が口を開く。
「初めまして。環の父です。会えて嬉しいよ。実は当摩君の事は娘から常々聞いていてね。
何でも医師を目指しているんだって?私でよければ幾らでも相談に乗るから声をかけてね。」
そう言って自分の右手を差し出す。
僕はお礼を伝え、その右手握った。
「あらあら、なんて固い挨拶しているのよ。それじゃ当摩君が畏まってしまうわ。」
横から気品のある女性が声をかけてきた。
よもや高校生の娘の親とは思えないほど、洗練されたスタイル。
甘く清々しいローズウッドの香水を身につけ、紫をベースとしたドレスを纏いこちらに近づいてくる。
ベースは赤を使用しているのに、派手さを感じさせずむしろ奥ゆかしささえ感じるコーディネートにセンスの高さと品の良さが伺える。
「お母さん!」
(やはり、羽衣の母親か。)
どことなく羽衣自身に母親のパーツが継承されている。
羽衣が端整な顔立ちなのは母親から受け継いだものなのだろう。
「紹介します。私の母親です。」
羽衣が嬉しそうに代弁する。
「よくいらしてくれました。いつも環と仲良くしてもらってありがとうございます。扱い大変でしょう?」
(はい、いつも大変です。)
と言いそうになってしまった。
僕は事実だがこんなに謙遜することが出来る親とは思っていなかったので苦笑いをして受け流す他出来なかった。
「お母さん!酷いよぉー。」
自分の母親に言われているようじゃ訳ないな。
この両親は常識人で良かった。




