プロローグ②
季節はもう冬になろうとしているのにどういうわけか外は寒くはなかった。
(まだ感覚が鈍っているのだろうか、、それほどまでに、、)
そう思うとなぜか今までの自分が無性にちっぽけな存在であるように感じる。
同時に、自分に対する苛立ち、無力感により一層の焦燥感を生み出していた。
(感傷に浸ったところで何も変わることはないのだが、、)
使い古された考え方しか浮かばない。
しかし、事実は現実であり現実は過去へと変わっていく時間を受け止めず過ごさずにはいられなかった。
「よく来れたもんだよな。」
声が聞こえる。
誰もが被るこの暗闇に潜む、重苦しい空気と排他的な世界の外側から。
感情よりも重く、呟くよりも深い、誰にも届かない様な声。
しかしその声はまるで僕を導くような。
そんな気がしてならなかった。
気付くと僕は身を隠すこともなくただそこにあった。
息を殺しいつの間にか集中している。
「お前さ。あんまり知ったようなこと言うんじゃねぇぞ。」
(二人か?それともそれ以上?)
僕はここにいるリスクや、それ以上の想定できない未来を考えることをやめ話を聞き入ることにした。
「いや・・これってさぁ。その・・あの人が・・」
(、、あの人?誰の事だ?何のことなんだ?)
「わからないだろ?いっかいの俺達には。教授は思い詰めてたんだから・・」
(教授?、、教授。そういえば父さんも医師である前に教授だったな。)
一つ一つのキーワードと呼べるものが出てくるたびに、何かに導かれるように記憶のシナプスが必要以上のスピードで脳を駆け巡る。
同じ男が堰を切ったように話続ける。
「事故・・だったんだよ。教授は責任感の強い人だったから。とても尊敬できる人だったから。」
(事故!?父さんの死は事故!?)
僕はゴクリと生唾を飲んだ。
(父さんは、、)
ここまでの展開は自分が都合よく作り上げた仮説に過ぎない。
しかし、僕はその仮説、いやもはや仮説でも真実でもどちらでもよかった。
今はそれに縋ることで僕を取り戻すことに必死だった。
「事故か・・そうだよな。そうかもしんねぇ。あーあ・・信念を貫くって大変だよな・・」
ジュ、、
燃え盛る煙草が水に触れ、その存在を失った音がする。
「小物は小物通し大物様の影に隠れてたまに美味しいものを食べさせてもらえればいいんだよ。
さ、行こう。」
声は男性。
そして男は二人。
その声は徐々に実体化しつつある僕の傍に近寄ってきた。
人間、必死になればなんとかなるものなのか。
それとも神の悪戯か。
悪魔の導きか。
運よく僕は物陰に隠れることができ、危機的な状況であろうタイミングをやり過ごすことができた。
思考回路はぐちゃぐちゃになっていたのに、もう路を完成させようとしている。
(どうき?動機!?)
人が何かを成し遂げる為に必要な材料だ。
そうだ。
ずっと見失っていた真実への糧。
(父は何故、、死ぬ事になった、、?何の動機もないのに人は死を選ぶのか?)
「いや!!」
つい口を滑らせてしまい、焦って口を抑える。
数秒間、数分間、極端な話数時間のような長い時間に感じた。
(、、聞かれたか!?)
聞かれたところで大した事ではないのだが、この時間のこの場所がまずい。
何よりもまとまりかけていた路を再び迷宮入りにしてしまうことに焦りを感じてしまった。
一縷の望みをかけ、僕は再び僕という存在を消した。
静かな時間が続く。
男らはもうそこにはいなかった。
(冷静になれ。冷静に考えろ。冷静に動け。)
自分に言い聞かせるように落ち着きを取り戻す。
後にも先にも声を殺した深い深い呼吸をしたのは初めてだった。
(父さん、ここからは先は、父さんの時間を僕が動かす。)




