変化
星波家長男太陽、長女月の引越しが終了し、新しい新居での生活に慣れてきたある日。
「なぁ月、もうそんな顔するのはよせよ。」
太陽は今だ納得のいかない面持ちの月を見かねて諫める。
しかし、そんな事などどこ吹く風。
月は太陽の忠告を右から左へと聞き流す。
事の発端は他愛もない会話からだった。
会話の中に大地の名前が出ると、月の表情が曇ったのだ。
「・・大地兄さん、なんであんな提案するのよ。」
月は独り言のようにブツブツと毒を吐いている。
それは独り言であれば良かったのだが、配慮のないトーンで吐くものなので太陽にも聞こえていた。
「ハァー・・またか・・、」
太陽はため息をついた。
提案とは星波家の当主だった宇宙の葬式後、親族間での兄妹の身元引受人騒動である。
月は大地の提案した内容に最後まで反対を貫いた。
そしてその気持ちは未だに変わってはいない。
(どうしてあのような提案をしたのだろうか、、)
月には全く理解できなかった。
最終的に大人達の建設的ではない保身だらけの意見を上手に集約し、他の追随を許さない進行役として買って出た大地が決着をつけた。
もう、尊敬できる人としても、好きな異性としても月にとってその光景は満点でしかない。
同時に、これ以上ない答えによって兄妹が離れることになってしまう事に対してやり場のない怒りと悲しみが宙を舞うのだった。
「あんときの月はもう子供だったな。」
そう言うと、太陽は大声で笑った。
「うるさい!」
間髪入れず、月は言い放った。
しかし、まさにその光景は太陽の言葉が過言ではないほど幼稚なものであったことは言うまでもない。
大地の引越しの当日まで月は駄々をこねてしまう。
毎日大地の私物を掴んでは離さない月の姿がそこにはあった。
大地はその度に荷造りを中断し、月の説得する作業へと時間を費やす。
月の顔が自然と赤みをさす。
「・・はぁ・・」
大地に過去へと戻されてしまった月は今、改めて振り返るとても恥ずかしい自分の姿に情けなさや気恥ずかしさを感じさせずにはいられなかった。
そしてそれは大地への申し訳なさに変わる。
そんな様子を露知らず、間髪入れない月の発言、形相にビクビクしている太陽を見ると月はコホンッ、、と咳ばらいを行い謝罪を述べた。
「・・ごめん、なさい。大地兄さん。」
そういうと話を続けた。
「大地兄さんと約束したんです。・・新しい家族にあまり困らせないようにって。これからは皆、距離が離れる分もっと自分達で出来る事を一生懸命やって協力していこうって。」
「俺らの呼び方もか?」
太陽がそう言うと、涙目の月はコクンと頷いた。
暫く沈黙が続く。
「・・でもね!大地兄さんは、離れても月に1回以上は3人で一緒に会おうって。食事したり、遊園地に行ったりして今まで以上に楽しもうって言ってくれたから。」
(だから一人ひとり自立していこうってか、、全く、、敵わないよなぁ。)
自分の知らない所で大地は自分の事以上に兄妹の事を考え動いてくれている。
太陽は自分の弟ながら改めて感心した。
そして安心にも似た感情に胸をなでおろした。
「それでね!私、考えたの。私はこれから料理を頑張ろうかと思って!」
(料理!?)
月の言葉を聞くと今までの温かかった太陽の心に、何やらモヤモヤ得体のしれない影のようなものが生まれてくる。
(大地。月もまた一人の兄妹としてお前を照らそうとしているよ。影のほうが大きく出来なければいいな、、はははっ、、胃薬買っておこ、、)
太陽は目を輝かせ大地の期待に応えられる日を心待ちにしている月を、温かく見守るしか出来なかった。