当摩大地③
「おはよう。」
「おはようございます。」
いつもと変わらない朝。
行きかう生徒。
仏頂面で直立不動している教員。
何もかもがあたかも普通を装いこの場所の時間を作り上げている。
僕はこのところ多くの時間を勉強に費やしている。
国語、数学、英語、理科、社会などの一般科目。
そして医学。
元々成績は悪いほうではなかったが、その成果は顕著に結果へと繋がる。
二学期中間テスト学年 期末テスト41/300
三学期中間テスト学年11/300 学年末テスト1/300
学校の順位などはこの時の僕にとってはどうでも良いことだったのだが、周囲からの反応は切っても切り離せないものだ。
「すっげー、当摩、学年1位じゃないかよー」
「当摩くん、今度勉強教えてよー」
褒められる事は悪い気はしないが、面倒な事には巻き込まれたく無いので僕なりの誠意を持って適当にあしらう。
学力は勉強すれば幾らでも伸びる。
しかし、通知表というのは昨今さらに複雑化を極める。
目標である道へたどり着くために蔑ろに出来ないため僕としても非常に面倒な要件だ。
協調性やリーダーシップなど学校のクラスという小さい箱の中で教員の判断のもと評価される。
よく職員室に行くと内診点の評価に頭を悩まされている教員を目にする。
(同情するよ。)
評価される側からしても不本意な事もあるが、評価する側からしてもそんな大した材料もない中で評価しなくてはいけないのだから。
生徒は勿論、PTAや各個人の家族、地域とも均衡を保って忖度していかなくてはいけない大人の事情もあるだろう。
全く持って聖職者とは面倒な職業だ。
しかし僕はこの面倒な職業の人達から評価されていかなくてはならない。
無下にしないよう気を付ける。
何かに秀でる。
何か大衆的に肯定な事が目立つと、人は勝手に魅了され近づいてくる。
そしてこちらから聞かなくても、ベラベラと自分の事を話してくる。
僕は興味のもてない顔の上に、笑顔で人当たり良く受け答えできる仮面をつけ対応する。
「しっかし、当摩もいつの間にかこの学校のアイドル的な人気になったよな。頭は良いし、ルックス良いし、性格も良いって専らの噂だぜ!」
人の欲目レンズは実に都合が良い。
一つが良いと相乗効果の様に良い方向へ伸びていく。
(しかし、ここまで固定概念が多くの効果を生み出すとは今後も使えるなぁ、、)
「そういえば、うちの学校の環がさぁ・・」
(うちの学校の環?どこの事だ?)
僕の表情を見るや否や悪友は、鳩が豆鉄砲を喰ったような顔になりすぐに大笑いした。
「いや、ほんと!?知らないの!?環だよ、た・ま・き。あぁー、そうか当摩モテるくせに女子に全く興味持たないもんなぁ。」
なんだ女子の名前か。
難しく考えてしまった。
全く、どいつもこいつもすぐに異性の話が出てくる。
(今どきの学生の頭の中はこんなもんなのか、、)
「ほら、当摩が抜かなければ今まで学年1位の成績の女子だよ。隣のクラスの一際可愛い女子。環と言えば頭は良いし、性格良いし、何より豊満でスタイルがいいんだよなぁー。」
(下品な男だ。)
なぜ僕はこんな下品な男と話しているのだろう。
などとは言えないので頭の中で呟いた。
「そうそう、それでこの間聞いちゃったんだよ。てっきり環って彼氏がいるもんだと思っていたんだけれど、それがいないらしい。でも好きな人はいるみたいなんだ。誰だと思う?」
「・・僕とでも言いたいのかい?」
僕もそこまでの流れがあれば理解はできる。
興味がないだけで。
「そう!そうなんだよ!!あれぇー!?わかっちゃった。勘がいいねぇ。それとも簡単だったかな?」
そろそろ僕は面倒くさくなったので話を切ろうとした。
「環ってさ。あれだけ良いもの持っているうえにさ、樹林総合病院系クリニックのお偉いさんの娘なんだぜ!」
根気よく聞いてみるものだ。
これだから交友関係は馬鹿に出来ない。
「もう少し詳しく教えてくれ。」
僕は平然を装い、情報を聞き出すことにした。