来たで、イッチ! また遊ぼうや
??
ワイはイッチとじゃれに来ただけやで。
なんでそんな嫌な顔するんや? ええやないか。
え? なに? あはは、イッチは自分のこと天才やと思ってるんか。ええな、若いって。
いやいや、ええんやで。いつか自分のことが信じれなくなる時期が来るんや。それまで目一杯法螺吹いとけばええで。
……法螺やないってか。
フフッ、せやな。せやせや。ところで何の天才なんや? ほーん。ふーん。……いまいちわからんが天才なんやな。よくわかったで。
……わかった。わったから。イッチは天才なんやろ? そう何度も言わなくてもわかるやで。
で、天才イッチはなんかやってみようとは思わんの? 暇やろ? ……小説か。小説ねぇ……。ええで!
イッチの天才ぶりを見せつけてやろうや。設定はどんなか決めなあかんな。え? 決まってるのか。
ふむふむ、時代は近世か。ヨーロッパでええん? ほ。そうか。ヨーロッパ風ね。で、異世界転生? なるほどな。
もっと設定があるのか? 前々からあっためてたんやな。さすがは天才や。それでそれで?
……………なるほど。大まかな設定はわかったで。ほん? 第七章までもう構想練ってるのか。さすがやな。
後は書くだけやで。……アイディアが欲しいだって? ここまで作りこんでるのにか? そうか。そうやな。協力するで。
敵国のアイディアか。せやな、敵国は主人公の国と拮抗するくらいの国力……なんてどうや? ……そうか、ええか。うん? なるほど、敵国にもエースがいるんやな。序盤で主人公と戦って主人公を追い詰めるが、命令で撤退して、主人公は九死に一生。しかし、主人公はくじけて帰ろうとするが、来てしまったので帰れない。
………うーん、王道やな! ええで、イッチ。ちょっとその序盤まで書いてみいや。
楽しみやで。イッチの筆捌きにこうご期待やで! じゃ、今日はもう遅いから帰るな。サンキューイッチ!
来たで、イッチ! 一々嫌な顔せんでもええやないか。
どうや、書けたか? あれから結構立ってるからその先まで拝めるかもやで!
書けたんやな? そうかそうか。じゃあ、さっそくワイに晒すんやで! イッチの文章楽しみにしてたんや!
……どないした? どうして見せてくれんのや?
あはは、パクらないやで。大丈夫だから見せてみ? ……どうしてもだめなんか。そうか、しゃーないな。
ん? またアイディアか? ええで。
こんどは戦争のことか。せやな……。ワイはそんなに詳しくないからこれなんてよんだらどうや?「孫子」や。
バイブルやで。「戦争論」もええな。今度持ってくるから読むんやで? イッチは暇してそうだからな。イテテ、蹴るなって。痛いやで。悪かったで。え? そのわびに教えろって? 冗談きついやで。イッチの欲しいものはイッチでこの中から見つけるんやで。
悪いな、今日はワイも忙しいんやで。今日は帰るやで。……わかってるやで。イッチは天才や。ほなな。
来たで、イッチ! どうや? 読んだか? イッチの嫌な顔にも慣れたな。
読んだのか。そうか、よかったやで。で、なんか得られたんか?
……黙るなやで。
小説はどこまで進んだんや? まさか書いてないんか? あはは、冗談やで。……そんな嫌な顔せんでもええやろ。
で。ほれほれ、ワイにさっさと晒すんやで。評価できへんからな。
……だからさぁ、イッチが天才なのはわかったから早くワイに晒すんやで。はよ。
…………まさかホントに書いてへんのか? ……違う、ってここまで意固地にワイに見せてくれんっていうことは、そういうことやないか!
書いてへんのやろ?! なぁ、早くワイに見せるんやで!
……アイディアなんてもうええやろ。イッチが書いてくれたのを見せてくれればもっとアイディアやるから。早くワイに見せるんや。いい加減ウザいで!
………悪いな。ワイもちょっとイラついてた。……急に黙るなや。怖いやろ。……どうしたイッチ? ボソボソ言って。
「ワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才やワイは天才や」
ちょっと! 暴れんなッ……! 痛い! ちょ、やめーや! しゃーない。このボタンを押すしか……。
ポチッ
遠くから足音が近づいてくる。病室に入ろうとした看護師は、暴れるイッチと荒れた部屋、そして血だらけの「ワイ」を目撃した。驚愕の色をなした看護師は廊下に叫ぶ。少しもしないうちに数人の病棟の職員が駆け付け、イッチを取り押さえた。イッチは何かをかがされて昏睡した。「ワイ」は看護婦に支えられながら、ナースステーションまで歩いて、応急手当をしてもらった。
「これで、大丈夫です。あとでちゃんと診てもらってくださいね。……災難でしたね」
災難、そう看護婦は言ったが、もとはといえばワイがイッチをあおったせいや。ワイが余計なことをせんかったらイッチはこうならなかったんや……。
「……大丈夫ですよ。あなたが面会に来てくれてからはイッチさんも生き生きしてました」
けど……。
「でも今日のことと経緯はちゃんと医者にお話ししてくださいね」
はい。そうやってワイは小さく返事をすることしかできなかったんや。後日、ワイは先生にすべてを話した。それ以来、イッチの病室には行っていない。