プロローグ
長かった戦いも終わりが近付いてきた、魔族と人族の因縁もこれで決着が付く。
「貴様も道連れに・・・。」
魔王からの魔法が一直線に私に向かって飛んで来る。MPがほとんど空の状態では魔法で障壁を作り出せない。
「クッ・・・減衰。」
減衰は成功したが、そもそもが無効にする魔法では無く尽きかけていた魔力ではその威力を少し削る事しか出来ずに喰らってしまった。
「はっはっはっはっはっは、これは呪いだ・・・これで貴様も魔族と化す。」
「賢者さん・・・、終わりだ魔王」
勇者の聖剣による一撃が奇麗に決まった。
遠くで魔王の体が光の粒子となって消えていくのが見えるがそれどころでは無い。
何か私の体に熱いものが駆け巡る、体が別のモノに書き換えられる感覚と急激な意識の混濁に耐えきれず私の世界は白く染まっていった。
「 者さん きて い。大 夫で か、起きて下さい。」
共に長い旅をし聞き慣れた勇者の声が聞こえる、まだ軽い頭痛がするがやっと意識が戻ってくる。
「っ・・・ありがとう勇者、どのくらい眠ってたにゃ。」
起き上がろうとしても上手く起き上がれず自分の手を見つめる、そこにあるのは白い毛で覆われた猫の手であった。
「何にゃこれはーーーーーー。とっ取りあえず魔法鏡」
対象を様々な角度から観察できる 魔法の鏡を作り出し自分の姿を確認する、そこにはライトグリーンの瞳と美しい毛並みの真っ白な猫がいた。
状況を整理しよう、確か魔王は私に呪属性の魔法を放ち私を魔族に変えようとしていたようだ、しかし元々の魔法耐性に加え魔法減衰による威力低下。
結果は猫になっていた。
「あのくそ魔王にゃんて事してくれたにゃーーー」
これはもう叫ばずにはいられない。
「おっ落ち着いて下さい、賢者さん。いや猫だから賢猫さん」
「お前他人事だからってずいぶん余裕そうだにゃ」
「いや遂に魔王を倒したんですよ、やっと平和な世界を作る第一歩を歩みだせるんですよ。あ、あと他人事ではなく他猫事ですね」
無詠唱で火炎球を放とうとする、しかしMPが足りないようだ。
「チッ、命拾いしたにゃ。」
何故こんな馬鹿な勇者が魔王を倒せたのか疑問が湧いてくるがここではスルーだ。
「いきなり人に魔法をブッぱしようとするのは止めて下さい。まぁ、取りあえず皆が待っていますここで悩んでも仕方無いですし一度帰りましょう」
「ここは引いてやるにゃ、取り合えずノイシュヴァンシュテイン城まで戻るにゃ」
あの後城に戻り色々な人に驚かれる中で王様への報告だの凱旋パレード等々を済ませ、この世界で呪いを解く方法を探し回った。
結果はこの世界では元に戻ることは不可能だという事と更なる魔法の深淵に近づけた事。
「この世界ではダメにゃ元に戻れる可能性がほぼにゃい、こうにゃれば異世界で戻れる可能性に賭けて旅に出るにゃ」
「え、そんな簡単に言いますけど楽じゃないですよ?」
「そんな事わかってるにゃ、幸い魔王の城から色々にゃ魔導書が見つかって異世界への転移も出来るようににゃった。準備もバッチりにゃ、覚悟を決めたにゃ」
魔法で作くり出したほとんどなんでも収納できる空間の穴に必要な物は入れてある、これで何時でも取り出す事ができる。
装備の方も自動でサイズが変わった魔王の帽子とケープを身に付けていた。
「分かりました、お気をつけて。僕は勇者としてこの世界の平和の為に努めます」
「今までの2人旅はまぁまぁ楽しかったにゃ。それじゃあ行ってくるにゃ、またにゃ」
「はい、行ってらっしゃい賢猫さん」
呪いを解く為に様々な異世界を巡る一匹の猫、賢猫の旅が始まった。
でもまぁ、この世界に魔法の栞を残してあるからいつでも戻れるけど。