九
「ベティ少尉のお手並み拝見だな」
イーユンは四人が出て行ったあと、一人呟いた。
ベティの思考がだいぶ変わっただけましだ。孤児院組の中で、最初から上手くやりおおせれる人間などたかが知れている。そういうやつに限って卒業もぎりぎり、軍功もほとんど上げずなかなか昇格しないときた。
たいてい最年少で卒業したり一度も落ちこぼれなかったやつは殺戮にも慣れており、自分勝手である。そこを挫くのがイーユンたちの「仕事」でもある。
「まぁ、我々もダレル大佐にプライドをぶち壊されたくちですからな」
隣の部屋から出てきたアーロンが笑って言う。
孤児院組の唯一の弱点とでも言える。そして、それをどうやったら補えるか、模索されてはいるが、答えは出てこない。
「生き残るために相手を殺せ、そう孤児院で教えますが上手く作用する例なんて初めてですよ」
「偶然の出来事としか思えない。たまたま三人が脱落組に入って、手を組んだわけだからな」
「一人でも脱落組に入ってなかったら無理でしょうな」
アーロンの言葉に、イーユンは苦笑するしかない。
「あ、それから一応の配属先希望を三人に聞いてみたんですが……」
何か嫌な予感がする。
「メイナードはあっさりと『シャン・グリロ帝国との国境付近』と答えてくれたんですがね……」
「二人が問題か?」
「いえ、トーマスは『属国への配備軍』ですよ。こりゃ、しっかりと二人とも故郷を守りたいんだなってのは分かるんですが、問題はマルドゥラです。『適当なところ』だそうです」
孤児院組というのはたいてい「軍功がたてられる場所」と答える者が多い。メイナードやトーマスですら若干規格外(といっても、少しはそういった要望もある)なのに、マルドゥラは規格外という範疇すら超えた回答だ。
ベティに少しだけ同情した。
マルドゥラが部屋に戻ると、リディア准尉が荒れ狂っていた。別室の人に話を聞いたら、リディア准将は降格が一度、昇格取り消しが三度と凄い経歴の持ち主らしい。ぶれない高飛車な性格が足かせになっているのはよく分かる。
「あんたたちのせいよっ! どうして私の栄光ばかり邪魔するのっ!?」
邪魔どころか、戦闘開始早々あなたの取り巻きに撃ち落されたんですが。言ってしまえば楽だが、トーマスとメイナードに「口は災いの元! マルドゥラは言葉がきついんだから少し黙ってて」と念を押されている。それに、既に今日、ベティ少尉とも散々口論してきて疲れた。
ベティ少尉から、「参考程度に」と配属場所の希望を取られたが、「適当な場所」と答え、叱咤されたのだ。それに対して「どこへ配属されても、することは一緒でしょう」と答えたら、火に油を注いだのだ。勿論トーマスとメイナードにも叱咤され、ベティ少尉に口ごたえしないよう、トーマスに口を塞がれた。
ベティ少尉からは「あなたたちのコンビネーションは本当に凄いのね。戦闘以外でもこんなに息がぴったり」という褒め言葉なのかよく分からないことを言われた。
アルコールの強い酒を浴びるように飲むリディア准尉に目もくれず、明日からの特殊部隊での訓練に備えることにした。