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境界線の上  作者: 神無 乃愛
境界線の上
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「あの状況で善戦は難しいからね」

 トーマスたち三人はすぐに揃って呼び出された。

 イーユン中佐が誰なのかすぐに分かった。そしてその隣には薄青の瞳とプラチナの髪の美女。

「彼女はベティ少尉。君たちの直接の上官になる。同じ孤児院卒業だから知っているだろう?」

 女性で初めて十二歳で孤児院を卒業したと聞いている。二人目はあのリディア准尉。

「小生の見解では君たちはもっと善戦すると思っていた。特にマルドゥラ、どういうつもりだ?」

「どういうと、言いますと?」

「その前の仮想空間(ヴァーチャル)での敵方巨体(コア)戦闘指揮官が小生だった。無論、そのあと君たちがどんな会話をしてあの陣形を組んだか知っている。つまり君たちは小生から見れば、手抜きとしか言いようがない。

 三人で戦闘中陣形が組めなかったと言うなら、仕方ないだろう。だが、マルドゥラに関しては君の()知っている(、、、、、)

「あの士気の中で戦おうという方が無理と言うものです」

 マルドゥラの毒舌が始まった。こうなったらとまりゃしない。

「私たち一隊は最初に『邪魔をするな、手柄は指揮官に寄越せ』と言われました。挙句は『邪魔をすれば容赦なく撃ち落す』です。こんな指揮官に誰が従うと言うのでしょうか? 私はご免被ります。しかも躊躇なく取り巻きが味方を撃ちます。これでは『ここで負けます』といっているようなものではないのですか?」

「だが、陣形が崩れれば……」

「最初から陣形なんてありましたか? さっさと飛行して、ご自身の勝手しか考えていないじゃありませんか。取り巻きの方が守ってくれるからいいのかもしれませんけど」

 ぷ、ベティ少尉がふきだしていた。

「イーユン中佐、あなたの負けです。私も中佐にそのような事を言われたのなら、あなたを撃ち殺します(、、、、、、)。そんな上官に従っていたという自分が恥ずかしいですから。

 それにしても、マルドゥラ曹長、最初から上官にそんなに口ごたえしてると睨まれるわよ。大人しそうな顔して、結構怖いのね」

「ベティ少尉、君は……」

「イーユン中佐、部下に欲しいといったのは私たちでよ。あの戦いを見て、絶対に部下に欲しいと思いました」

 聞くところによると、ベティ少尉は最近昇格したばかりらしく、部下らしい部下がいなかったそうだ。

「私もあのリディア准尉と同じ失態を一度しました。そのあと誰もついて来なかった。二階級降格してでも、私は軍にしがみついてやっとこの地位まで来たのですよ? それを無視しないでください」

「たいていの孤児院育ちはそれを経験する」

「彼らは『落ちこぼれ組』から三人がかりで抜け出したと聞きます。他の孤児院育ちと一緒にくくるのは間違いです」

 どうやら、ベティ少尉もきつい性格らしい。

「それは同意だが……」

「それよりも私が知りたいのはなぜ、三人でなければいけなかったのかということです。本来であれば、マルドゥラ曹長、あなた一人でも落ちこぼれ組から脱出できたのでは? と思っているのよ」

「あの日、私は誰にも悟られないであろう場所に一人隠れていました。見つけられても逃げやすい場所です。そこからでるつもりはありませんでした。でも……二人の声が聞こえたんです。『死にたくない』と。別々の場所でしたが、私からはそう遠くありませんでした。正直に言えば、二人の声が聞こえなかったらどうしていたかなど、分かりません」

「ただの慈善活動って事かしら?」

「いえ、違います。死にたくない(、、、、、、)理由を知りたかっただけです」

 そんな理由だけであの時助けられていたとは。メイナードを見ると、やはりトーマスと同じように驚いていた。

「死にたくなければ相手を殺すしかない、だから三人で協力したまでです。戦闘以外ですと、トーマスとメイナードは考え方が真逆ですからしょっちゅう衝突しています。正直、常に戦闘機か巨体(コア)に乗っていろと言いたいくらいです」

 こっちにまで毒舌を吐いてくるな。イーユン中佐とベティ少尉も苦笑していた。

「一人隠れるくらいなら、時間制限ありでは見つからない可能性もあるものね……相手を殺さずに逃げることは可能。でも、三人では相手を殺さない限り生き残れないということかしら?」

 その問いにマルドゥラは答えなかった。


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