七
訓練の日。
最初の一言で呆れた。
「あんたたちは私の栄光を邪魔しないようにね。した場合は容赦なく撃ち落す」
高飛車さんはいつまでもご健在らしい、トーマスはそう分析した。メイナード、マルドゥラもそう思ったに違いない。
「私の指揮どおりに動くこと。まずは私の前に出るな、私の邪魔をするな、私に手柄を譲れ」
ここまでくれば、呆れすら通り越して、感心してしまうではないか。
「乗るわよ」
「リディア准将! 一つ質問があります!」
こうなったら汚れ役でもやるか。
「乗る段階になって怖気づいた? 落ちこぼれ組さん」
「違います。向こうの指揮官はどなたなのかうかが……」
即座にリディアの取り巻きに殴られた。
「貴様が気にすることではない! 落ちこぼれ組はリディア准尉の栄光の餌食になれ!」
反論する気も失せた。さり気なくマルドゥラが殴られたところに、ハンカチを当ててくれた。
「行くわよ! 一歩(約五分)後まで乗れなかったやつは、私が撃ち殺す!」
生きる為には従うしかないか。
『あら、向こうは三世代も前の戦闘機ね。なめられたものだわ』
リディアの声が無線機から届く。相手は同盟国や辺境の地域から「勉強」に来ている兵士らしかった。
『こんなもの相手にするだけ、時間の無駄。しかも我らよりも戦闘機は少ない。一歩で片付ける』
それだけ言ってリディア准尉は駆けだした。
「参ったな」
心情的に向こうに同情したくなるのは、自分も辺境の国出身だからかもしれない。他の孤児院出身者と違い、トーマスは自分の故郷を覚えている。メイナードも時折両親から手紙が来るから、心境としては複雑だろう。メイナードと同郷のやつも多いと聞く。あそこは、口減らしという理由と、国を守るという理由からあえて孤児院へ送っているらしい。マルドゥラはどうだろう。いつも諦めきったような顔で、傍にいる。
『ほら、ガードぐらいしなさい! この落ちこぼれどもが!』
嫌になるくらい高圧的にリディア准尉からの指示が飛んだ。こんなやつのために命をかけるなんて、真っ平ご免だ。早々に戦線離脱したくなるが、次の瞬間、後ろから撃たれそうになった。
『リディア様の言葉に従わないやつは、我々が撃ち落す』
それ以外のリディア准尉の脅威になりそうな人物とか、無論気に入らないであろうマルドゥラも撃ち落されていた。
そして、次の瞬間、撃たれていた。
それから二歩(約十分)後、孤児院組の負けで勝負は終わった。
「あんたたちのせいよっ!!」
リディア准尉の罵声が飛び交っていた。
「的にもならず、逃げるとはっ!」
「違うだろうが。君の取り巻きが味方を撃った。君一人であの人たちに勝てると思ってたのか?」
唐突に後ろから声が聞こえた。振りけば、見覚えのない男が立っていた。
「ダレル大佐!」
リディアの言葉に、そこにいた全員が敬礼を取った。
「いや、気負わなくていい。今回の敗因は、作戦ミスだ。つまり、リディア准尉、君の手腕せい」
「ふざけ……」
「ふざけていない。ちなみに、向こうさんの要望で三世代前の戦闘機になった。我々帝国軍が払い下げをしている機体だからね。それで訓練できればいいというお達しだった。しかも向こうは国の違う寄せ集め軍。ただ、士気はかなり高かった。
味方士気すらあげられず、独りよがりの作戦など、負けるに決まっている。特化型巨体を使えればいいとか、そういう問題ではない。リディア、君にはしばらく准尉のままでいていただく。再度、来年あたりに同じ試験を行うが、その時同じミスをしたなら、二階級降格とする」
孤児院組にとって、曹長より下の階級は首に等しい。死ぬか、さもなければ娼館行きだ。
「それだけはっ!」
「なら、学べ。それから……」
撃ち落された数人の名前を挙げていく。
「君たちはモンストール中佐の部下になる。今回と同じような行動は慎んでくれ。それから、トーマス、メイナード、マルドゥラ。君たちはイーユン中佐の部下になる。覚えていたまえ。
リディア他は……これから考えるそうだ」
その言葉にリディアとその取り巻きたちが悔しそうにしていた。