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境界線の上  作者: 神無 乃愛
外伝
61/74

外伝~「僕」の生きる意味~前編

かなり暗いです。

笑える要素は一切ありません。



 戦が起きると、一番被害を被るのは貧困層である。それは誰よりも「僕」が知っている。

 空腹で動く力すらなく、ただひたすら死ぬのを待つだけだ。


 どうしてこうなったんだろう。「僕」は何もしてないのに。「個体チップ」すら埋め込まれず、施しすら受けられない。忍び込むようにしてとある国に入った。

「どうした?」

 若い男が声をかけてきた。既に「僕」は腕を動かすことも、声を出すことも出来なかった。

「『個体チップ』なしか……そうか」

 ひょいと軽く「僕」を持ちあげた「彼」はどこかへ歩き出した。



「ヴェルツレン侯爵様、クリスティ様、ただいま戻りました」

「おかえりなさい、バネット。……その子はどうしたの?」

 茶色の髪と赤い瞳にすらりとした身長の若い男、バネットにエメラルドの瞳と淡い金色の髪を長く伸ばした若く華奢な女性、クリスティが訊ねてきた。

「道端で拾いました。『個体チップ』を埋め込まれていない孤児です」

 その言葉にクリスティと同じ髪の色と瞳の色をした壮年の男が驚いていた。

「とりあえず御殿医にお知らせ願えますか? 栄養失調な上感染症にかかっている疑いがあります」

 その言葉に侍女がすぐさま動いた。


 バネットの部屋ですぐに栄養剤と抗生物質の点滴がなされていく。この程度の出費はバネットから見ればどうってことはない。ヴェルツレン家から出される給金は、ほとんど使うことがなく、貯まっていくばかりである。何度かこういう行き倒れた子供を拾ってくるバネットに、ヴェルツレン家の執事(バトラー)である伯父はいい顔をしていないが、御当主が喜んでいるのでそれに甘えている。

 しかし、今回ばかりは全員の度肝を抜いたのだ。本人一番が驚いているが。

 見た目は五歳児くらい。つまりは最低二年間「個体チップ」なしでこの子供は生きてきたことになる。通常では有り得ない。おそらくは戦や内乱、テロで行き場を失い続けてきたのだろう。両親は「個体チップ」を埋め込む前に死んだのかもしれないし、最近死んだのかもしれない。

 だから「個体チップ」は嫌なのだ。バネットは忌々しく思う。金のないやつは死ねと? ふざけるな。子供が一人だけでは国もこの惑星も繁栄しない。戦に使う金があるなら、「個体チップ」を作り出す金があるなら、こういう子供を保護しろ! と叫びたくなる。

「バネット……」

「伯父上、いかがなさいました?」

「クリスティお嬢様がお前を心配していた。休め」

「……はい」

 この世で誰よりも深く愛し、守ると決めた女性、その方に心配だけはかけない。そう誓ったはずなのに。

「旦那様もご心配あそばれていた。さすがに今回は事が大きすぎる。ヴェルツレン家で保護されるそうだ」

 ヴェルツレン家も「個体チップ」には反対している。だが、小国の一侯爵家では大国には敵わない。恭順せざるを得ないのだ。


 身体が丈夫でないクリスティの傍に行くには、まず全身を消毒する。特にこういった子供を連れてきた場合は。クリスティは既に点滴がなされているだろう。たった一人の侯爵家を継げるお方だ。従兄と共にこの方を支える。バネットは夫として、従兄は執事(バトラー)として。

 正直、バネットが異例なのだ。キャロウ家は代々ヴェルツレン家に仕える執事(バトラー)であり、汚れ役を一手に引き受けている。ヴェルツレン家の「影」でしかない。クリスティがもっと丈夫、もしくは他に侯爵家を継げる人間がいたら、隣に立つことはなかっただろう。

「クリスティ様、失礼します」

「あぁ、バネット」

 嬉しそうにほころぶ顔、この顔が愛おしい。

「今回は長かったのね」

「申し訳ありません。カーン帝国の情勢を伺っておりました」

 いくらアッカー家という鉄壁の家があろうとも、油断は出来ない。誰かを配置することも考えている。

「父上がおっしゃってた通りだわ。あなたは根つめすぎなの。わたくしはそんなに頼りない?」

「そういうわけではありません」

 じゃあ、どういう意味? そう聞かれる前に答える。ああいった子供がいないかを探しているのだと。ヴェルツレン家の「影」として生きてもらえる次代を探すためだと。

「そういったことは私のほうが得意ですから」

 社交場は苦手だ。常に腹の探りあい。そういった事象はクリスティの方が得意だ。

「そう言ってもらえるのが、わたくしは嬉しいの」

 やはりこの方には敵わない。


 半月位して少年は目を覚ました。


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