五十五
ゆっくりと『方舟』は動く。そして、それを撃つべく動く巨体。
しかし、それは敵わない。『方舟』を守る巨体はカーン帝国の特化型巨体がいる。
『方舟』の中でレーダーを確認するトーマス。そして目視で確認するセシルとダレル。
「あの辺のは撃ち落して大丈夫です」
小さくトーマスが言う。すぐさまセシルとダレルが命じていく。ガルタも、ノームもリヴァイアも、動かせるものは全て動かしている。
「今から来るのは、僕たちの味方です。……ヴェルツレンの密命を帯し者たちよ『方舟』を守れ。そして敵は撃て」
ギリギリとトーマスに食い込んでいく数多の手。その苦痛にひたすら耐えているように見えた。
「トーマスッ!」
「メイナード、大丈夫だ。それよりも指揮に従って……弾が少ないからもったいない」
「分かったよ。一発であのでかい戦艦は落としてやる!」
セシルとダレルの指揮に従い、メイナードはひたすら大砲を操作していた。
ベティとイーユンも小銃を撃ち放して行く。アッカーは情報収集。皆、役割は何も言わずとも決まっていた。
「駄目だ! マルドゥラ!!」
悲痛な叫び声がトーマスから聞こえた。
『これが一番でしょ? トーマス。私が囮になる』
優しく響くマルドゥラの声。そしてそれを指示するダレルの声。
皆遠くに聞こえてくる。
「……やっぱり、オスカー大尉とマルドゥラが飛ぶ姿は綺麗だなぁ……」
場違いな感想がトーマスからもれた。
互いが互いを庇うように綺麗にコンビネーションを行う姿は空を飛ぶ鳥のようである。




