五十
何とか宿舎を抜け出し、王都外れまで来たときには日が暮れていた。
「くそっ!」
全てが水の泡だ。
「はい。持って行くわよ」
がさごそと何かを探していたベティ少尉が荷物を持っていた。
「ベティ中尉?」
「本物のセシル殿下から。これを持ってヴェルツレン領へ入るようにって」
皆がトーマスを逃がしてくれる。
ほぼ不眠不休で数日かけてヴェルツレン領へ入った。
「来たか」
感慨もなく呟く前侯爵に出迎えられ、館の中に入った。……中に見覚えがある。
「左様。この一部が『護送機』である」
驚くべきことが告げられる。間もなく開戦になると。
「馬鹿な!?」
「『カメレオン』の暗躍にございます。坊ちゃま」
「僕は……どうすれば……」
トーマスが言うのも阿呆らしいが、誰かを失うのはもうこりごりだ。だから、セシル殿下、ダレル大佐の下どうやって戦を回避するかだけを考えていた。
「方法など、もうないわ。お前がわしの孫であると全世界が知ってしまった今」
「個体チップ」の弊害がここにあった。トーマスがヴェルツレン家に来たのは、全世界が知っていることなのだ。
「セシル殿下たちを呼んでください!」
まだ自分ひとりでは何も出来ないのが歯がゆい。
「ならぬ。お前に一つ試練を与える。クリアできたならお前に爵位を譲る」
老人らしからぬ力でぽんと投げられた。




