五
『……これ、いい機体じゃんか!』
『当然だ、軍の機体だぞ? 俺らがいた孤児院とは違う』
男二人の馬鹿げた会話。
『やっぱり軍最高か? メイナード』
『当然だ、皇帝陛下と軍あっての……うわっ!?』
『どうした!? メイナード!』
『右方向からの正確な砲撃。私のメインカメラも一瞬でやられた』
冷静な少女の声が入ってきた。
『僕のも……だ。くそっ! 上から戦闘機まできやがる。ただの仮想空間じゃない!!』
『大丈……うわっ! 俺もだ!! しかもレーダーまで!』
『……レーダーなんてあった?』
『あったよ!! すっごく高性能なやつ! どうしよう!!』
とぼけたマルドゥラとメイナードの慌てた声。
『サブカメラだけかよ……。マルドゥラ……、僕が囮になる。戦闘機の位置を全部把握して! そして僕らに教えて!!』
『勿論。上空旋回中のは全てトーマスが撃っちゃって。メイナードは落ち着いたら、東側から言っていくから』
『大丈夫! もう、落ち着いてる』
すぐさま、二人へマルドゥラが指示しながら己も撃っていく音が聞こえた。
『レーダーがやられて助かったわ。あったら、ピコン、ピコンとうるさいもの』
『それは、マルドゥラだけ!』
男二人の声がはもっていた。
『他に味方巨体も戦闘機もなくて助かったな』
『トーマスに同意したかないけど、同意。なんせ、マルドゥラの<瞳>だけでいけるからね』
『向こうもおかしいと思ってくるはずだ。そこからが勝負だ!』
『トーマス! あれが向こうの指示機のはずよ! 集中砲撃お願い!』
『おっしゃぁ! いっけぇぇぇ!!』
すぐさま、自分が上空に上がったときだと気がついた。
『メイナード! 北側からも来るわ!! 西側からも!!』
『まじかよ!? とんだ茶番だ!』
トーマスの怒り狂った声。そして、激しい銃撃戦。
全部倒し終わるまでに二歩弱。最後に残った機体がメイナード機だった。
「ここまで連携をあっさり取られると、感心するしかありませんな。ザカリー閣下の教え方が変わられたのですか?」
「いや、変わっていない。あの三人だけが特殊だよ」
やれやれ、そういった感じでザガリー少将が話す。
「まぁ、強いて言えば指示に従わせるのは楽ですな。誰かとのコンビネーションも取りやすい」
ダレル大佐が自嘲気味に呟いた。
「……それを知らしめるための洗礼なんですが……」
オスカーの台詞は洗礼に関わった人物たちの代弁でもあった。
「いい経験だと思うしかない。少人数の特殊任務にもってこいの三人だ。これで特化型巨体をオールBランクまで上げればいい」
「それには、大問題があるんだよ。ダレル」
ポディシブに何事も捉えようとするダレル大佐に、ザガリー少将が水を差した。
「マルドゥラだが、あの子はレーダーと相性がすこぶる悪い。飛行型は余裕でAランクを取れるだろうが、地下潜行型はどうあがいてもDランクだ」
「……は?」
地下潜行型においてトップクラスのパイロット、アーロンがあんぐりと口をあけていた。
「そのあたりも含めて、五年前は脱落組だったんだがね。トーマス、メイナードと組むようになってから、可視できる範囲でならレーダーも使えるようになった」
あまりにもありえなすぎる。
「トーマスも命中確率が上がり、メイナードも射撃速度に満足いく結果を出せるようになった。だから、今年三人とも卒業にありつけたわけだ」
「……異端児……」
ビルの呟きが、全てを物語っていた。