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境界線の上  作者: 神無 乃愛
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「助かりました」

 謁見室からさがるなり、イーユンはザガリー少将へ謝辞をのべた。

「君が言うとね、角が立つ。それに、失礼だ。ああいう厄介ごとは階級のある年寄りが言うから、大丈夫なだけだ」

「閣下……」

「孤児院の多くは親衛隊入りを侮辱と見なすからね……孤児院維持のための人見御供だと言い張る卒業生もいるよ。それに、ただでさえ一般兵からのやっかみを買うことが多いのに、たった一人を例外として認めるわけにはいかない」

「やっかみを買うのも仕事と小生は割り切っております。無論、他の兵士も同じです」

「それは特殊部隊や、通常の部隊に限った話だよ。親衛隊入りは、一般兵にとって名誉ある職務だ。まして近隣国からなれるものでもない。カーン帝国の直轄地出身が義務付けられている。マルドゥラに関して言えば、例外を数多作ってしまう存在だ。せめてメイナードであれば、融通を利かせたのだがね」

「と、するとメイナードは……」

「カーン帝国のはずれにある、極寒の地方出身だよ。あの子も口減らしで孤児院へ来た。あそこに関して言えば、シャン・グリロ帝国とも隣接する国境地域でもあるから、皇帝一家への忠誠心は並々ならないものがある。……トーマスは真逆で、帝国への忠誠心がほとんどない。あの子もマルドゥラと同じで周辺の属国出身だ。ゲリラ軍により身内が全滅してうちに来た。来て七年くらいしか経っていない。身内が全滅したのは帝国軍が来るのが遅かったからだと、何度も他の孤児へ喧嘩を売っていた」

 帝国軍が遅れたと言うが、帝国軍を他国へ出征させるには軍の承認はもとより、政府、皇帝の承認が必要になる。軍事介入を嫌う属国もかなり多いので、おそらくは属国からの支援要請が遅くなったとイーユンは取った。

 それにしても、ある程度大きい子供とはいえ、あのきつい訓練を七年でクリアするとはたいしたものである。

 忠誠心や心構えはともかく、今回の三人は三者三様でかなり優秀な人材と見える。

「それぞれ問題は抱えてはいるが、どうするかはイーユン、君次第だ」

「承知しております。閣下」

 ザガリー少将に敬礼をして、その場を離れた。


 特殊部隊に入るなり、三人には「洗礼」が待っている。今回はえげつない。イーユンはもとより、オスカー、アーロン、ビルの三人も加わる。この三人は操縦が難しいとされる、特化型巨体(コア)を手足のように操縦する男たちで、ランクとしても通常いないとされる、SAランクである。今回は仮想空間(ヴァーチャル)の世界とはいえ、一般的な巨体(コア)NL-Ⅷを利用する。

 NL-Ⅷは現在利用されている巨体(コア)の一つ前のモデルで、俗に言われる「人型巨体(コア)」と呼ばれ、簡単な飛行と銃撃戦、肉弾戦のみを行える巨体(コア)である。

 卒業組三人と、洗礼側四人がそれぞれの巨体(コア)へ乗った。そしてー、仮想空間(ヴァーチャル)内に戦闘機が配置され、動き出す。

『イーユン中佐、いかがなさいますか?』

 オスカーがすぐさま尋ねてきた。

「三人のメインカメラとレーダーを潰せ」

了解(ラジャー)

 三人が答えた。巨体(コア)についている、メインカメラ、レーダーの位置は全員知っているが、サブカメラの位置は「特秘事項」として秘密にされている。つまり、最初に潰せる二つを潰せと命じたのだ。

 これだけでもかなりの敵索ができなくなる。それを狙ったのだ。巨体(コア)を操縦しながら、あとは時間の問題だと思っていた。

『……うそ……だろ?』

 ビルの驚いた声。次々とこちら側の戦闘機が撃たれていく。

「まだ、カメラは潰してないのか?」

『いえ、会戦直後に三人のを全て潰しました。今はサブカメラだけのはずです』

 あり得ない。

「小生が上空へ行く。三人は補助を」

 それだけ言って、上へあがっていく。すぐさま、敵三機を捉えた。

 真ん中の巨体(コア)がイーユンの載った巨体(コア)へ向かい、すぐさま発砲してきた。それに残りの巨体(コア)も追従していく。

「……あり得ない……」

 三機がコンビネーションを取っているなど。

「ビル中尉、真ん中に入れ。オスカー、アーロン両大尉は真ん中の巨体(コア)一体を集中砲撃、その後……いや、左端を集中攻撃だ!!」

了解(ラジャー)!!』

 すぐさま旋回して、右端の一機を攻撃するはずだった。

 それができたのは、最初の命令後二歩(にぶ)以上経過していた。


 情けない。卒業したての若者に遅れを取った。

 イーユンはもとより、三人とて同じ事を思っただろう。

 勝つには勝った。しかし、いつもより苦戦したのは間違いない。たいていは二歩もあれば一人で撃墜できる自信はあった。それが根本から覆されたのだ。

「あの三人は特殊だからね」

「ザガリー閣下……」

 洗礼を見ていたであろう、ザガリー少将に労われた。

「思い出したかい? ダレル大佐」

「やはり、あの三人組でしたか。ザガリー閣下が今回の試験官にイーユン中佐を指名したのも納得がいきますな」

 その言葉に、イーユンは三人と思わず顔を見合わせた。

「自分が試験官として五年ほど前に孤児院へ行ったときも、『的あて』にしたのだが、唯一生き残った上、卒業試験組の五人中三人を射殺した落ちこぼれ組だ。たった五年でここまで成長するなど……」

「落ちこぼれ組?」

 驚いたようにオスカーが声をあげた。

「そう。終了の声と共に、生き残っていたのは五名。そのうち卒業者二名と落第者三名だった。誰が言い出したかは分からないが、あの三人は連携を取っていた」

「連携の要は?」

「今回はマルドゥラだろうね。メインカメラとレーダーを壊しているからね」

 ザガリーの返しに、聞いたイーユンも含め、全員が言葉を失った。

「あの少女……」

「あの当時は視力がいいだけだったよ。射撃はいまいち。トーマスは射撃速度は速いが、当たる確率が低かった。メイナードは当たれば一発の少年だったね。気がついたら三人が合格レベルになっていた。あれから、たった五年でだ。語学も卒業レベル、巨体(コア)、射撃も文句がない。今回はバトルロワイヤル方式にでもなるかと思って、イーユン中佐を呼んだのだがね……」

「五人でバトルロワイヤル方式を取るのもいいですが、どちらにせよ、三人は合格者が欲しかったので……」

 バトルロワイヤルではあまり、次の即戦力になりにくい。的あては怪我さえほとんどしなければ、すぐに特訓に入れる。今回も三人共に無傷に近かったため、すぐさま洗礼もできた。それが裏目に出るなど……。

「仕方ないでしょう。こちらも勉強になったということで。しかし、あの連携を崩すのに二歩(にぶ)近くかかるとは……」

「私も驚いた。しかし、さすがイーユン中佐だ。すぐに誰が要か気がついた。普通なら数を撃つ、トーマスだと思ってしまうからね」

「小生も最初そうかと思いましたが、動きが怪しく感じました」

「では、通信を聞いてみるかい?」

「そうさせていただきます」

 今後のためにも。


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