三十六
大半の人間がカーン帝国用の控え室に入るなり爆笑した。勿論、国王陛下も。
「即興の演技とはいえ、なかなかよかった。うん。いい情報ももらえたし」
「褒美を取らせたくらいじゃ。あいかわらずバークス公国め、やりおるわ」
「確か、第一王女が王太子殿下の側室では?」
「いかにも。第一側室じゃ」
現在、王太子には正室と二人の側室がいる。正室はカーン帝国の現内政宰相の姪だ。
「陛下、機体の話は本当ですか?」
ダレル大佐がすぐさま話しに入ってきた。
「まことじゃ。仕方あるまい」
「外せる機密は外して渡すけどね。開発室で今やってもらっている」
ここで第二特別特殊部隊のメンバーが全員王室控え室から下がった。
わざとらしくセシル殿下がついてきた。
一人椅子に座り、じっとセシル殿下がこちらを見てきた。
「エメラルドの瞳か。エルグス共和国出身だからよくあるかと思ったが違うのか」
「僕に聞かれても」
「エメラルドの瞳はバークス公国の王室に多い色なんだよ。侯爵家までは全員エメラルド。今のヴェルツレン侯爵だけは違う。あの人だけは茶色だ」
ちょっと嫌な予感がする。
「君の怪我の理由は分かった。私はあまり追求するつもりはないけど、全員もっと舞踏に力を入れてもいいんじゃないかな?」
ばれてる!! 第二特殊特別部隊全員が硬直するのが分かった。
「どうせなら私の直属の部下にならないかなぁ……兄上からマルドゥラ准尉を守りやすくなるし」
「軍宰相閣下の了承が得られれば」
ダレル大佐がしれっと言う。
「私から話しておくよ。楽しみだ。トーマス曹長はしばらく怪我したままでいて」
「……かしこまりました」
これが王位継承者の持つカリスマか。
「あ、それから明日の会談にダレル大佐とイーユン中佐に同席願う。さすがに輸出するのは汎用性巨体だけだ。それでも特化型巨体にも追及されると思われる。私や父上では分からない。あなたたちの方がかなり詳しい」
「かしこまりました」
明日からが大変か。




