三十
病室には、他の隊員が揃っていた。
「マルドゥラ准尉、無事で何より。半年間療養に励め」
「ありがとうございます」
顔も怪我したのであろう、包帯を巻いたマルドゥラが答えた。
「それから、本日陛下にも苦言しておいた。王太子殿下に絡まれた場合は、ここの誰でもいいすぐに伝えるように。……あの豚はしぶとく生き残るだろうから、リディア准尉に関しては、嫌がらせが続くようなら開発室に逃げていい」
マルドゥラがきょとんとした目で見てきた。
「仕方あるまい。今の部隊である限り、リディア准尉と同室からは逃げられない。私のほうで許可しておく。イライザ責任者も諸手を挙げて喜ぶ」
「……よろしいの、ですか?」
「無論だ。こんな馬鹿げたことで部下を失いそうになるのは、ごめんだ」
ダレル中佐から出てくる優しい言葉に、ただひたすら年少組は驚いていた。
「諸国との戦や内戦が続く今、軍人である我らの命は常に危険が伴う。我らが命をかけて他の国民を守ることにより、国内の平和があると私は思っている。だが、今回は違う。命をかける場面ではない」
年少組三人がすぐさま敬礼をしてきた。
「なに、我が実家の家訓だ。『軍人たるもの私欲を捨て、国民のために命をかけろ』とね。両親にかなり叩き込まれた」
「……そうでしたか」
孤児院組と叩き込まれ方が違う。孤児院組は「いかに相手を欺き殺すか」とか「いかに戦闘機、巨体を操縦できるか」に重点が置かれている。ダレル中佐だからこその、思いやりだとイーユンは思った。
「こちらに揃っておったか」
いきなり軍宰相が病室へ来た。
「沙汰が下った。……あの准将は階級等はそのままだ。特殊部隊を束ねる要だからな。諸君らには異論はあるだろうが。代わりと言っては何だが、まずはダレル、イーユン、ベティ、君たちは降格前の階級に戻ってもらう」
「は?」
誰の口から出たのかは分からない、声が病室内にこだました。
「意味が分からないのは最もだ。平たく言ってしまえば、前回の処分自体を取り消す、ということだ」
軍宰相は苦笑しながら続ける。
「営倉に入ってしまった事実は消せない、だが、その分の手当ては厚くさせてもらう。それから、ダレル大佐を筆頭とした第二特別特殊部隊として動いてもらいたい。隊員はダレル大佐、君に一任する。そのための宿舎は今までの特殊部隊とは別にする」
「早いお話が、あなた直属の特殊部隊になれ、ということですね」
ダレル中佐、既に大佐に戻ったのだろうが、が呟いた。
「その通りだ。それがダレル大佐、君の希望に最も近い」
「謹んで拝命いたします」
ダレル大佐が軍宰相に敬礼したのに続き、全員が敬礼した。
「宿舎の場所をどこにするか、これから話し合ってもらいたい」
「でしたら、第二特別特殊部隊らしく、開発室近くにお願いします」
ダレル大佐の希望に、軍宰相が驚いていた。
「我々は巨体の数が他者よりも多い。となれば、そのためのメンテナンスがやりやすい開発室近くがよろしいかと」
「……なるほど。ではそちらでやろう。食事関係は今までどおりの食堂で大丈夫だろうか?」
「大丈夫もなにも、一応簡単な調理場はお願いします。大抵は食堂で食べることになるでしょうが」
「分かった。それで手配しよう」
それだけ言って軍宰相は出て行った。
「あいかわらず食えん爺だな」
いきなりダレル大佐が呟いた。
「仕方ない。開発室の近くということは、今までどおりテストに参加してもらえるのかい?」
「そのつもりで場所を選んだ」
いきなり入ってきたイライザにも、ダレル大佐は平気で答えていた。
「じゃあさぁ、軍の簡易食事の実験台になってもらえるかい?」
「それ相応の見返りがもらえるなら」
「決まりだね」
どんな理由なのか、さくさくと話が進んでいく。




