二十八
しくじった……そう思った時には遅かった。通信機器も壊され、連絡手段もない。
『ま、あとは俺たちも怪我して戻れば、問題ないだろ?』
やばい……このままでは自分が裏切り者になるか何かだ。証拠を残さなければ生きていけない。ベティ少尉と約束した。初めての「約束」。それは「一緒に買い物に行きましょう。二人で宝物を増やしましょう」と。この約束だけは違えたくない。
ブラックボックスが起動していない異常に気がついたのは、奇跡だったかもしれない。どうしたらいい?マルドゥラは開発にも顔を出しているから、ブラックボックスを「証拠隠滅した」と取られてもおかしくないのだ。
「……コード、A・D……」
ガガガガガ、また撃たれた。飛ぶことも出来ない巨体は既にただの的だ。今のタイミングで撃ってきたということは、こちらの中の声は相手に聞こえている。……チャンスだ。
特殊部隊でも知られていない、キーボードをコクピットの中から探し出す。これを教えてくれたのはバッカスともう一人の男だった。
――いいか、この巨体は宇宙にもいける構造になってる。だからブラックボックスは二つある。一つはこれだ。大体これで事足りるが、宇宙は何があるか分からないからな。こっちは秘密パスワードがいる。口に出していえないようなら、このキーボードを使え――
こんなところで役に立つとは思えなかった。ずっとあいつらの言っていることを録音できる。そして、これで公開できる。それだけでいい。自分が消えても、トーマスたちが何とかしてくれる。
『マルドゥラ―――――!!』
コクピット内に仲間の声が聞こえた。
「……さすが親父、いい仕事してんね」
煙管をふかすイライザをイーユンたちは黙ってみていた。
「さすがトーマスたちだ。あんな脱出方法は誰も出来ないね」
「でも、グライダーに武器は……」
「ベティ、あんた少し部下を信頼しなよ。あの子達は強いよ。さてと、届いたかな?」
「何が?」
ダレル中佐が口に出すが、イライザは無視してキーボードをたたきだした。
「ザガリー少将に、例の准将、それからダレル中佐、あんたと……」
必要な人間を次々に言っていく。




