プロローグ 日常の終焉
――ゴトリ。
クラスメイトの頭が教室の床に転がり落ちた。色を失ったその双眸が秀一を見つめる。張り付く断末の表情が、彼の最後の苦痛を秀一に伝える。
昨日まで学友と学び、夢を語り合った教室には、むせ返る様な血の匂いと恐怖に侵された悲鳴が充満している。五分前の日常は、すでに遠い彼方にあった。
「ふはははははは――なんと脆い存在であるか?」
そんな地獄の中心に、西洋甲冑をその身に纏い、無骨な片手剣を振り回し、悦楽に高笑いする漆黒の騎士の姿があった。少年少女の学び舎には、あまりに似つかわしくないその姿。教室にいる人間は、一人残らず混乱のどん底へと叩き落されていった。
――あれは何なんだ? 何が起きてる? どうしてこうなった?
同じく混乱のどん底にいる秀一をあざ笑うように、騎士は剣を横に薙ぐ。その剣閃が、傍にいた女生徒の頭を体から切り離した。蚊のような小さな悲鳴が聞こえた直後、教室に転がる頭が増える。立ち尽くした体から噴き出す赤い霧が周囲を不気味に染めあげる。
この日を境に、久瀬秀一の日常は終焉を告げ、非日常の日々が幕を開ける。そして、彼は向き合うことになる――この世界のあまりに残酷な真実と。
漆黒の騎士が、次の獲物をその目に捉える。秀一の目の前で立ち止まったそれが、兜の向こうでにやりとした。
「秀一!」
友人が秀一を呼ぶ声がする。しかし、淀みのない動きで、騎士が鈍色に光る剣を上段に構える。あまりにも現実離れした目の前の光景。秀一には何もかもが他人事に思えた。
――俺は……死ぬのか?
昨日までの日常と明日からの非日常の狭間で、秀一は立ち尽くしている。秀一の眼前には、剣を上段に構える騎士の姿が……。
そして、騎士は秀一に向けて剣を振り下ろす。秀一の命は、今まさに断ち切られようとしていた……。