魔王様と魔法使いさんと、元一般人3
皆さん、おはこんばんわです!!おなじみ、元一般人です。
享年24歳、日本のIT会社の元OLの綾鳴伊織 (あやなりいおり) です!
こっちの世界では20歳、人工妖精のイオンです。
……あたしのこと、忘れてませんよね?忘れてないですよね?!
……良かった~。忘れてたら、ドリアンもどきでも投げつけるところでした。
さてさて、人間の国へ旅行しに行ったあたし達、魔王様御一行なのですが…
「こっちの生地の方がイオンに似合うと思うんだけど、どうだ?」
「ん~、もうちょっと明るめの方が良いわね。こっちなんてどう?」
「それがいいなら、この色もいいだろう。妹に一度着せてみたいと思っていた色なのだ」
何故かあたしと魔法使いさん以外の全員で、あたしの服選びをしています。
旅行しに来たはずなのにな~。美味しい物食べれると楽しみにしてたのに、初日の朝から服選びです。
着る本人は参加せずです。ブラブラと店内を歩き回ってます。
「…というか、ここのお店あたしの趣味と合わないんですけど…」
基本緑や水色とか優しそうな色が好きなんですが、ここのお店にある品物は全て赤、ピンク、紫の物しかありません。
デザインも胸が強調されている物が多いし、正直嫌いな服ばかりです。
人間の大きさになれるとはいえ、背中から羽を出す場合が多いあたし。それゆえ背中が大きく開いたデザインでないと着れないんです。
普段着ている男物の服は、羽が出る部分だけ切ってあります。
今も男物の服を着ていますが、背中の穴を隠すためローブを羽織ってます。
「…………イオン、楽しくなさそう」
「楽しくないですよ。えぇ、全く楽しくないです」
だって、魔法使いさん以外皆、服選びに夢中なんです。着る本人の意思とかは全く無視です。
自分も意見を交わせるなら楽しいですけど、全く言わせてもらえないんです。
最初は必死についていこうとしていましたけど、2時間も有無を言わさず着せ替え続けられたら、誰でも嫌になると思います。
まぁ、それならまだあたしが耐えればいいだけのことなのですが……
「ねぇ、あの紫色の髪の人カッコイイよ!どこかの貴族の人かな」
「あの赤い髪のお姉さんも綺麗…」
「ねぇねぇ!あの水色の髪の人、イケメンで優しそうよ~」
「きゃぁっ、こっち見たわよ!ねっ、見たわよね!?」
お店の中にいる女性達の視線と声が、うっとうしすぎるんですよ!!
いやま、そりゃあ言いたくなる気持ちもわかりますよ?
皆魔力を隠しているとはいえ、ものすごく美男美女ですからね。
我らが魔王様は、紫色の髪をシルクハットで隠し、少しシンプルな黒い服を身にまとっています。
だけど、褐色の肌に金色の目って目立ちますね。見た目は野生的なんですが、明るく微笑むのでギャップ萌え。
そういう意味では、ルージュお姉様も目立ちます。女淫魔の特徴でもある羊みたいな角は魔力で隠していますが……
真っ赤な髪に褐色の肌で真っ赤なロングドレス。胸元は大きく開いていますし、背中も極限まで露出してます。
本人は全く気にしていないんですが、気にしてください。目のやり場に困る…。
その傍にいる執事さんは、何故かあたしと同じ男物のスーツを着てます。
もふもふの髪の毛に触りたい。あのオレンジのもふもふな髪に触れたいです。
でも今は人の前なので我慢です。ジラールお兄様達の家に行ったらもふります!
ライお兄様は髪と同じ薄水色のシャツに白いズボンの上から、白いローブを着ています。
正直場違いな気がします。教会に行ったら神父として働いてそうな人に見えます。
あっ、でも吸血鬼だから教会に行ったら駄目だよね。殺されそうです。
ジラールお兄様と椋己お姉さん、いやこっちではジルお兄様とリュミーお姉様でしたね。
二人は所々装飾品が違いますがお揃いの茶色い服を着ています。ふふふ、ペアルックみたいです。微笑ましい~。
髪も白銀ですし目も金色ですから、遠目から見れば双子です。新婚さんですけどね。
ジルお兄様はいつも通り眼鏡をつけてますね。黒のフレームに変わってるのは、奥さんの影響かな?
ドラゴンって、人型になる時はめんどくさいですね~。
魔法使いさんはいつも通りです。長いローブに少しぼさぼさの灰色の銀髪です。
あっ、でも今日は横髪を三つ編みにしてます。頼まれたのであたしが結いました。
ついでだったんで、自分も髪を少し緩めで三つ編みにしてみました。紫色のリボンも忘れてませんよ?
髪の毛が長いと手入れが大変です。今度時間があったらバッサリ切ってみようかな~。
「…………髪、切っちゃ駄目だよ?」
「でも、手入れとか大変で…なかなか乾かないし、冬は風邪引きそうになりました」
「…………それでも駄目。イオンは、そのままでいい。…そのままでも可愛いから」
その言葉、お姉様達やお兄様達にも言われました。なんで切らせてくれないんだろう…。
そう思いながら服を見ていると、ふと外が騒がしいのに気が付きました。
店の中にいたお客さんもほとんどいません。店員さんもいないんですけど。
てか、よくあたしが考えてること分かりましたね、魔法使いさん。
ルージュお姉様が何故か嫌いな虫を見るような感じで外を睨んでいるのは、何故なんでしょう。
「…メンドクサイ奴が来たみたいね」
「イオン、ここに来る途中美味しいと有名なデザートのお店があったから、そこ行こう」
「行きます!!」
即答ですよ。本当はご飯も食べたいんですけど、甘い物も食べたいんです!
ライお兄様がニコリと笑うと、何故かフードを被せられます。髪の毛も隠すようにローブの中に入れられました。
「ライお兄様、何故わざわざ隠すんですか?」
「お兄様達はね。イオンがとても可愛いから、野蛮な人間の男共に見せたくないんだよ」
首を傾げると、ルージュお姉様も会話に加わってきた。
「イオン。人間の男はね、魔族の男よりも性欲が強いのよ。イオンはすぐに襲われてしまうわ」
あたしの心配はしなくていいですから、ご自身の心配をしてください。あたしよりもルージュお姉様の方がすぐに襲われそうです。
魔族とか人間とか関係なく男は怖い生き物だってこの前教わったので、気をつけて欲しいです。
そんな風に思ってたら、ルージュお姉様がにこやかに笑いました。
「わたくしは襲われても平気よ?そこらへんの男の精気なんて、おやつにもなりわしないわ」
「ルージュ姉さんはね、僕と同じ純血種なんだ。女淫魔の中でも特に強いんだよ」
………どう意味で強いのかは、聞かないほうがいいのかな?
ほのぼのとした雰囲気をR-18にはしたくないんで、聞かないでおこう。うん。
あたし達が会話をしている間に、魔王様や執事さん達はいつの間にか地味で目立たない茶色のローブを羽織っていました。
魔法使いさんも着ているローブのフードを被ってます。杖を持ってるから、よけい魔法使いぽくなりましたね。
「さぁ、さっさと出て昼飯とデザートを食べに行くか」
「はい!魔王様!」
元気よく返事をしたら何故か皆に頭を撫でられました。最後に魔王様が
「俺の事は魔王様じゃなくて、お父様と呼べと言っておいたよな?イオン」
と言った時の顔が、ものすごく怖かったです。鬼にしか見えませんでした。
震えながらもお父様と呼んだら、鬼から天使になりましたけど。
そして抱きしめられて頬ずりされて、途中死に掛けてました。意識無かったです。
「お父さん、何してるんです?イオンを殺す気なのかしら」
「……ご主人、早く放して」
まぁ、黒いオーラを放出したルージュお姉様と執事さんのおかげで、死にはしませんでした。
ライお兄様とジルお兄様が本気で震えてたけど、女性を怒らせたら怖いのは知らなかったのかな?
そんな事今は気にしませんけどね!今はご飯、ご飯~♪
うきうきとしながらお店の扉を開くと、熱気と歓声が一気に襲ってきました。
思わず耳を塞ぎます。今さっきまではこんなんじゃなかったのに…。
「チッ、結構近くまで来てるな……皆、行くぞ」
そう言って人だかりを掻き分けて歩き出した魔王様の後を必死で付いて行きました。
けど、あたしは元々小柄で身長が低いんです。たぶん、150cmぐらいしかないです。
そしてこっちの世界の人達は、平均的な身長の高さが170cm以上。
さらに言うと、あたし……よく何も無い所でこけます。
ということは……わかりますよね?
「あうっ!……いたたたた……あれ?」
一瞬目を離した隙に、皆の姿が分からなくなりました。
あんなに目立つ人達なのに、全く姿が見えない。名前を呼んでみても、歓声で消されてよく分からない。
そして、あたしはまだこの街をよく知らない。ジルお兄様とリュミーお姉様の家も知りません。
お金は少しならあるけど、荷物は魔法使いさんが持ってます。
あの二次元ポーチも魔法使いさんが持ってたはず…………。
「これって……………あたし、大ピンチ?」
とっ、ともかくどうにかして合流しないと……っ!
少し足が痛いけど急いで立って辺りを歩き始めます。といっても、そこらじゅう人、人、人。
そう簡単に見つかったら楽なもんですよー。
だけど歩き回っている最中に、気になることが1つ出来ました。
周りの人達が言っている「王子」という人のことです。
聞いている限り、「遠征していた王子」が帰ってきたぐらいしか分かりませんでした。
王子なんて関わりたくないなー。この国は魔王様の奥さんを欲しがってる王族が政治を仕切ってる国だしな~。
魔王様が「シーに会いたいな…ついでにデートでもしようか」と言ったからこの国になっちゃったんだけど。
あ、シーって言うのは魔王様の奥さんの愛称です。
こちらでの本名は確か………。
シルスェイル・クェズフィフス・ドランママラ・カドゥケイスだったかな?長いよ!!
日本での本名は、前谷 詩恵 (まえたに しえ)だそうです。
だから愛称が「シー」なんです。あたしはシーさんと呼んでます。
まぁ、そんな話はおいといて……。
人だかりの中にいたもんですから、熱気と日差しで汗がだらだらと流れるんですよ。
ローブを着てるうえ、中はぴったりとしたスーツなので余計に暑い。
季節も春から夏に変わるごろなので、気温も高いです。
少し人だかりから抜け、少し路地裏に入り所持金を確認。
10万ちょっとありました。色々と買おうと副職で貯めたお金の4分の1を持ってきてて、ほんとに良かった……。
これで最初に行うことが決まった。
「服を買おう…っ!!」
そうと決まれば早かった。
服を取り扱っている店の証でもある、服の模様が刻まれたレリーフを探し始める。
さきほどの店は好みではないからパス。涼しそうではあるけど、さすがにあんな服は着たくない。
展示品を軽く見て、好みではなかったらスルーしていった。
集中していたため、いつの間にか大通りの方へ来ていたが良さそうな店を発見できた。
さっそく中に入ると、「いらっしゃいませ~!」という元気な男の子の声が聞こえた。
姿が見えないからきょろきょろ周りを見ていると、パタパタという軽い音と共に奥から10歳くらいの青髪の男の子が現れた。
その子は目を輝かせながら下からあたしを見上げてきた。
「こんにちわ!お客さん」
「こんにちわ~。君一人なの?お父さんとかお母さんは?」
「王子様が帰ってきたから、ちょっとお城まで出迎えてくるんだって~。僕も行きたかったなぁ…」
しょんぼりとした顔が可愛くて、思わずその子の頭を撫でる。
親よ、こんないたいけな可愛い子を置いていくなんてひどい!
店の中とはいえ暑いからフードを脱いで、男の子と同じ目線になる。
何故か男の子の顔が真っ赤なんだけど、熱でもあるのかな?
「あのね、少し頼みたいことがあるんだけど、聞いてくれる?」
「何、何!?僕、何でもするよ!」
「あたしに似合う服を、選んでくれないかな?」
自分にファッションセンスがあるとは到底思えないからね。
昔大学で友達に「あんたの服って個性的というか…地味だよね」と言われたぐらいだからね!
…威張ることじゃないけど(しょぼん)。
「うん、わかった!僕精一杯選ぶから、僕も少しお願いしていい…?」
そういう男の子は手を何度もこすり合わせながら、懇願するように見えてきた。
その姿にきゅんと心が締め付けられる。こっ、これこそ萌え!!
思わず何度も首を縦に振った。すると、男の子は周りに花が咲く様な満面な笑みであたしの手を握った。
「また……このお店に来てくれると、嬉しいなぁ」
喜んで来させていただきます…!!!!
男の子の純粋な笑顔にノックアウトされそうだったけど、そこは何とか耐える。
「ここのお店が気に入ったら、また来るよ」
「絶対お姉さんが気に入るような物選ぶ!お姉さん、どんなの服が好み?」
「そうだねぇ~……淡い色なら何でもいいよ。あ、出来るなら背中が開いてる物でお願い」
「じゃあ、何色がいい?水色?緑色?それとも藤色とか、白?」
「そこはお任せするよ。君が自由に選んでみて」
そう言うと、男の子は大きく頷いて店の中の商品を見た後、店の奥へと消えていった。
それにしても暑い……。暑すぎてローブを脱いでネクタイを取った。ボタンを外すだけでも少し涼しく感じる。
数分後、男の子が持ってきた服の中の一つを選び、さっそくそれに着替えた。
「お、お姉さんとっても綺麗!!似合ってるよ」
「君のセンスが良いんだよ。こちらこそ選んでくれてありがとね」
あたしが選んだのは、裾が藤色の白いシフォンワンピース。白い糸で大きな花が刻まれている。
丈は膝上で薄い生地なため、風が通りやすくとても涼しい。
どうせならと靴や小物も買ってしまった。革で出来たサンダルと男の子が勧めてきたつばの広い白のストローハット。
傍から見たら「避暑地に遊びに来たお嬢様」だよね、この服装。
ついでに髪をリボンでツインテールにしました。このほうが涼しいんですよ。
今まで着ていた服は、男の子に袋を貰って一つに纏めました。
これで改めて魔王様達を探しに行けそうです。
「お幾らですか?」
「2万4000カールだよ~」
2万……まぁ、妥当か。ちなみにカールはお金の単位です。毎回聞くとあの麦わら帽子被ったおじさんを思い出すんですよね~。
久しぶりに食べたいな、あのお菓子。……帰ったら似たようなものでも作ってみようかな。
「はい、これお金ね。それじゃあ、色々ありがとう。バイバイ」
「またのお越しをお待ちしております!!!」
元気にそう言った男の子の頭を一度撫で、あたしは店の外へ出た。
外は相変わらず暑いし日差しも強い。さらに歓声も大きくて耳が痛い。
……というか、歓声も大きくなったし人が今さっきより多くなってる?
仕方ない、ちょっとそこの男の人に聞いてみますか。
「すいません、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「あぁ?今忙しいから後に…………」
何故かあたしの顔を見た瞬間、嫌そうな顔から目を見開いて、耳まで真っ赤になって慌てだしたよ、この人。
それに気づいた周りの老若男女もあたしを見た瞬間慌て出すし、なんなのよー。
「あの……ちょっといいですか?」
「もちろんいいですよ!何でも言ってくださいっ!」
何この変わり様……。まぁ、聞ければいいか。
「何でこんなに人が居るんです?」
「第2王子が戦争から勝利して帰ってきたんですよ。貴女は見た事が無いのですか?」
「は、はい。見たことはありません」
少し興味はあるけど、自分から見ようとは思わないです。
シーさんにトラウマを植えつけるほど、脅迫的なことをしてきた王族なんて見たくないです。
……でもここまで人気な「第2王子」は少し見てみたいです。矛盾してるなと自分でも思う。
「あの方の姿を一度も見たこと無いなんて…人生損してますよ!?」
そこまで言わなくてもいい気がするけど、周りの人も頷いているし、それほど「第2王子」は人を惹きつける何かがあるんだろう。
「そう言われると、気になってきたんですが…お姿を拝見できる場所はありますか?」
「この先の広場で演説をなさるんですよ!先に行って、場所を確保しておけば大丈夫です」
一緒に行きませんか?と聞かれたが、自分一人でも大丈夫だからと断りました。
断った時の顔が怖くて思わず逃げ出そうとしたけど、お礼に何か送りますねと言うと、嬉しそうに住所と名前を教えてくれたけど。
紙にご丁寧にメモして渡してくれたので、何か送らないとな~。何がいいんだろ。
試作品で作った梅干もどきでも送ろうかな。それとも、何か小物とかの方がいいのかな。
そんな事を考えながら、あたしは人だかりの中をスタスタ歩き始めた。
歩く先が自然と開いていくので、すぐに広場に着いた。
広場に着いた瞬間、あたしは後悔した。
「何よアンタ!邪魔なのよ、お退き!!」
「うるさいわね。アンタだけじゃないんだから、邪魔しないでよ!!!」
「あぁ、早く来てくださらないかしらぁ」
「私を一目でもいいから見て欲しいわぁ~」
来なければ良かったと………。
広場はすでに、女同士の戦場とかしていた。あたしだけが部外者みたい。
さすがにあの戦場の中心に行く勇気は、あたしには無い!
仕方なく、遠目から広場の中心が見えるベンチに座って、第2王子が来るのを待った。
ぼー、と空を見上げながらのんびりしていると、女性達の黄色い悲鳴にビックリしました。
耳が痛いくらいの歓声に、思わず耳を塞ぐ。鼓膜が破れるかと思ったー…。
どうやら王子が来たらしい。
「……まぁ、見えないんですけどねー」
女子の大群がわさわさしていて、そこにいるんだろうな、とは思うんだけど姿は全く見えません。
仕方なくベンチから立って、近くの路地に入り、人目を確認して羽を出して屋根の上に飛び乗りました。
ほぼ真上から見下ろすように集団を見ると、全体が全て見通せた。
「おぉー、ここからなら見える。第2王子っていうのはあの人かな?」
その集団の中心にいた、真っ黒の鎧を身に着けた人が噂の第2王子なのだろう。
甘いマスクで周りの人達に笑顔を振りまいている。
黒に近い紺色の髪に、翡翠色の瞳。柔和な顔は女性受けしそうなほど、優しい。
綺麗な顔だな~と思いつつ、もうそろそろ魔王様達を探しに行こうと立ち上がった時。
王子と目が合った。
…………ものすごく驚いた表情で見られてる。
「………バイバイ?」
もう見る事はないだろうからと、小さく手を振ると、向こうも一瞬遅れて手を振り返してくれた。
その顔が異常なほど満面の笑みだった事にあたしは気づかず、さっさと屋根から降りて魔王様達を探し始めた。
探している途中お腹が空いて、道を歩きながらふらふらしていた所を魔法使いさんが見つけてくれて、難は逃れたけど……
「心配かけた罰として、今晩のご飯はイオンが全部作ること。いいね?」
「はい……」
ライお兄様に罰として晩御飯作成を命じられました。
ルージュお姉様は心配して「手伝いましょうか?」と言ってくれたけど、大丈夫とだけ返しておいた。
だって、絶好の機会を与えて貰ったのだから。
「よしっ、頑張って和食のフルコース作るぞぉー!」
和食のお披露目だ!
気合を入れてそう言ったら、リュミーお姉様がジルお兄様の元から飛んできて、ガバッと抱きしめられる。
首が絞まるぐらいの強さで。
「ぐぇっ。ど、どうしたんですか?」
問いかけても反応が無く、さらに強く絞められていく。
首、首が痛い!!てか、息が出来な…………。パタッ。
「…………あ」
「……墜ちた」
「「「イオーーーン!?」」」
意識がなくなった後、リュミーお姉様とジルお兄様の家に運ばれたあたしは、魔法使いさんが調合した薬で目が覚めた。
目覚めた瞬間の魔法使いさんの心配そうに覗き込んでくる顔に、ちょっとドキッとした。
大丈夫だと言っても、何度もあたしの体を心配してくれる魔法使いさん。
無表情だけど、あたしには微かな体の仕草で分かってしまう。
皆を心配させたお礼に、あたしは腕を揮って今では懐かしい、和食のフルコースを作った。
意外にも肉じゃがが人気だった。味噌汁や魚の煮付けは、あんまり食べてもらえなかった。
あっ、でもリュミーお姉様と魔法使いさんは二つとも美味しそうに食べてくれていた。
作ったかいがあったかな、とあたしは満足しながら一日が終わった。
「ふわぁ……」
いつもより少し早く起きたあたしは、一緒に寝ていたルージュお姉様を起こさないようにそっと腕の中から抜け出した。
毛布を掛けなおして、昨日買った服に着替え身支度を整えると、朝ご飯の買出しに出た。
まだ暗い街の中を買い物袋と財布を持って、気分よく歩く。
からりと乾いた朝の風が心地いい。髪を解いた状態だから、風をよく感じることができる。
「気持ちいいなー…っと、朝市はどこかな?」
朝市を探しながら、きょろきょろ歩いていると、屋台がいっぱい並び人が賑わっている場所を見つけた。
パンや新鮮な魚が並んでいるところ、ここが朝市だろう。
品物がいっぱいあって悩むな~。とじっと店先の食材たちを見ていたら、店のおじさんが。
「お嬢ちゃん可愛いね~。よしっ!この中から好きな物を好きなだけ持っていきな!」
と、籠に入った沢山のパンや野菜出してくれた。
思わず「良いんですか!?」と叫んでしまった。ちょっと恥ずかしい。
とりあえずバゲットを3つと野菜を少し貰った。卵や乳牛はちゃんとお金を払って買いました。
でも、さすがに10人分買ったから、重いぃ。何故10人分か?…執事さんが結構食べるんです。
これでもまだ足りないと思うから、もう一度朝市に来ようと思ってました。
「ふぬっ、うぅ…重いなー」
「…………イオン?」
聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り返ると、魔法使いさんが何か荷物を持ってこちらに近づいてきた。
「おはようございます、魔法使いさん」
「…おはよう。どうしたの?こんなところに一人で来るなんて」
「朝ご飯のための買出しです。そういう魔法使いさんはなんでここに?」
「あぁ……これを買うためだったんだよ」
そう言って、持っていた荷物から取り出したのは、チーズの塊だった。
……何故にチーズ?
「…………僕も、朝ご飯の買出しだったんだよ」
そう照れくさそうに言う魔法使いさんが意外すぎて、思わず笑い出してしまった。
魔法使いさんもつられたのか、小さく笑った。
その笑った顔があどけなくて可愛かった。魔法使いさんの新たな一面を見た気がして嬉しくなった。
そんなほのぼのした雰囲気を、ぶち壊す人が後ろからやってきた。
「あぁ……ようやく、見つけた」
周りの人を押しのけながら、こんな場所には居ない筈の人が、あたしの方を見てそう呟いた。
あたしはその声を聞いて、誰の声?と後ろを向いて、持っていた荷物を落としてしまった。
な、なんで…………。
「昨日ぶりか。こんな場所で会うとは思わなかった。俺の運も尽きるんじゃないかとさえ思う」
こんな場所で………。
「だが、尽きてもいいな……また会えて嬉しい。ゆっくり話でもしたい」
「なんで、王子様がこんなところにいらっしゃるんですか!!??」
もう見ることも会うことも無いだろうと思っていた人がいるの!?
ちゃんと丁寧語を使ったあたしを、だれか褒めて……。
もしかして、あたしは今日もピンチ?
新キャラ登場。
イオンはこのピンチをどう切り抜けるんだろうか。




