過去・未来・・・そして安らぎ
―――目の前で男の人が横たわっている。
黒い髪の男性は、目を硬く閉ざしたまま動かない。
目を凝らして見ても胸に呼吸の動きが見られない・・・死んでいるのか。
静か過ぎて耳鳴りがする。
辺りは静まり返り、自分の鼓動がうるさいくらいだ。
なぜ自分はこんなに胸が苦しいのか、この男を知っている・・・?
いや、この顔を見たら二度と忘れないだろう。
頭が痛い、胸が苦しい・・・何か体の奥から飛び出してきそうだ。
「――――――――っ!!」
フィニティスは、ハッとして目が覚めた。
一瞬、自分が何処に居るのか判らない。
息が詰まる・・・うまく息が吸えない・・・・。
「うっぅ・・・」
涙が頬をつたう。
苦しい、あの人を失った事が・・・・。
「っ!?」
あの人とは誰のことだろう。
夢?
見たとこは覚えているに、夢の内容が思い出せない・・・。
いったい自分は、何を知っているというのだろう?
分からない・・・自分のとこなのに何も分からない。
涙が次々と頬をつたう。
寂しい・・・一人が寂しい。
――コンコン。
その時、部屋にノックの音が響いた。
返事をしないまま音がした方を見ていると、ドアが内側に開いた。
父が、伺うように部屋に入ってくる。
「フィニティス?」
ベットの上に起きているフィニティスを不思議そうに名前を呼ぶ。
「とっ・・さっま・・・」
その声に初めて、涙を流しているフィニティスに気づいた父は、微笑んで近寄りフィニティスを抱きしめる。
「フィニティス、どうした?」
「っう・・・・」
父の温もりに、また涙が溢れる・・・何も答えられない。
よほど怖い夢でも見たのだろうと、父は抱きしめる腕に少し力を籠める。
「フィニティス、窓の外を見てごらん。」
父の腕の中から窓の外を見上げる。
「この部屋を、窓の外から双月が見守ってくれている。我等が始祖、原種を生み出した女神は双月に住んでいる。だから安心して眠りなさい。お前は、一人じゃない。今日は一緒のベットに眠ろう。」
その言葉に安心したかのように、フィニティスは瞳を閉じる。
父の胸の鼓動が子守唄になり、やがて可愛い寝息が漏れ聞こえてくる。
覗き込んでみると、オズワルドの服を握り締めフィニティスが眠っている。
「おやすみ、フィニティス・・・」
月の光が優しく差し込む部屋に、父親のやさしい声が空気に溶けた―――――