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世界を渡る竜  作者: 海響
第1章:幼少期
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聖歌(後)

フェスニストは自分の左に下を見て、その目を見開き、数瞬、呆然としてしまう。





―――フィニティスは、発火してしまいそうなほどの熱と、それとは逆に凍えてしまいそうなほどの想いを詩にのせ、その可憐な口から次から次へと紡いでゆく。


そのに反応したのか、両親がかけた魔法が髪の根元から解けて、青銀から白銀の光に変化して、その変化は今もなお止まらない。

肩より少し下まである髪の、耳の辺りまで白銀に輝いていた。

しかも何やら胸の辺りから少しだけ光が漏れ、涙を流しているフィニティスの相貌をより神秘的に魅せている。




―――動揺から一転、引き締まった顔をしたフェスニストは、状況を判断するため周りに視線をはしらせる。

どう考えても今、この現象を起こしているのは、自分の隣にいる小さな竜人だろう。

まだ、その事実に気づいた者は自分達家族以外いないだろう、いや、いないと思いたい。

自分の反応の鈍さに俯きそうになるのを、歯噛みしながら堪える。


(反省は、すべてが終わったあとだ)


必ず守ると誓った想いだけを胸に、フェスニストは自分に出来る最善の方法をとる事にした。





まずは、父親オズワイドに視線で合図を送る、すでに準備が出来ていた彼は、静かにソレとはわからないように小さく頷き返した。

確認したフェスニストは、自分の脱いだ上着でそっとフィニティスを包み、腕の中に大切に抱え込む。

何かしらの反応を起こすかと思われたフィニティスだが、静かに腕の中に納まってくれているのに安堵する。

魔力の動きを悟られぬよう、彼女の耳元で囁くように眠りの魔法をかけるが、効いてくれるかは解らない。

効いてくれることを心の中で祈りながら、二人だけで右側面の扉に足を向ける。

ここで家族全員で抜けると目立ってしまう、二人だけでも通常時なら十分目立つが、いまは皆それ何処ではない。

今のうちにと気が焦るが、ここで気配を断つと逆に不審に思われる可能性の方が高い。

気配は消さず、だが、目立たぬように、焦らずそっと足を進める。

顔には出ないが、一刻もの時間に感じられたような、扉にたどりつくまでの短い時間。

着いたことで安堵しそうな自分を、まだだと叱り、扉の外に出る。


扉の外では、中で何が起こっているかまるで解っていない見習い神官が、不思議そうに扉から出てきた自分達を見ている。

自分の緊張感をまるで感じ取れていなさそうな顔にい苛立ちを感じたが、気づかれても此方が困った事になるので、このくらいのがちょうど良いと理不尽な怒りと抑える。


腕の中の妹を心配する兄の顔の下に黒い自分を隠しながら、人のよさそうな男に声をかける。


「すまない。妹が突然体調をくずしてしまって、どこか休める部屋はないだろうか」


突然、まれに見ない美形に声をかけられ、しばし呆然としていた男は言葉の意味を理解したと同時に動き出した。


「こっこっこっこちらです」


自分が見蕩れていた美形に、理不尽な苛立ちをぶつけられた事など露ほども知らない男は、緊張しながら前を歩き部屋まで案内する。

こういう事態の場合、運び込む部屋は決まっている、その為、足取りは言動とは逆に動揺はみられない。



フェスニストは、少し前を歩く男の後姿を眺めながら、自分の緊張感が解れ、いつもの調子が戻ってきたことに気づく。

あまり緊張しすぎては、成功するものも失敗してしまう。

ゆっくり息を吐き、良い感じに緊張感から開放されたフェスニストは、「まだまだだなぁ」と心の中で呟きながら、前を歩く男に心の中で少しばかりの感謝をするのだった。



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