聖歌(中)
遅くなりました。
読んでくださっている方々に感謝を!
フェスニストは、先ほどから動かないフィニティスの様子を伺う。
上から見下ろされているのも気づかないようだ。
「フィー」
小声で話かけてみたか反応が無い。
少し心配なり、顔を覗いてみた。
そのとたんフェスニストはギョッとする。
――フィニティスの瞳の中、瞳孔の近くにいくつもの『星』が強く煌めいていたからだ。
『星』は、特に魔力の強い者に発現する、瞳の中の煌めきの事をそう呼ぶ。
以前からフィニティスに『星』はあった・・・だが、此処までハッキリしたものではなかった筈だ。
竜人は基本的に魔力が強い者が多い種族なので、『星』を宿しているの者は多い。
だが、此処まで多く、強い光を放っている『星』を持つ者をはじめて見た。
まだ、始まってもいないのに、教会に来ただけでこの反応・・・始まったらどうなるのか。
フェスニストの背を冷や汗が流れる。
母親の隣に居る父親に、フィニティスの事を目線で伝える。
父親も気づいていたようで、その目は大丈夫だと力強く伝えてくる。
その瞳を見てハッとした。
何を自分は焦っていたのだ、『星』は竜人であれば多く宿していても何とか説明がつく。
落ち着いた事を父親に目線で伝えて、フィニティスのことを気にしながら、前に向き直る。
ちょうど主となる神官の両側、少し後ろに聖歌隊が揃ったところだ。
厳粛な空気の中、神官の祝詞が終わり、いよいよ聖歌が始まる。
神官の合図によりソレは、教会いっぱいに響きはじめる。
高く、低く、不思議な音程。
すべてを包み込む暖かな、自然を育む賛歌。
その歌を聴いた瞬間、フィニティスの身体を衝撃がはしった。
(私、この歌知ってる・・・懐かしい・・・胸が熱い)
フィニティスは聖歌隊を見つめる、いや、その先にある何かを見つめていた。
歌に心を浸す、頬を涙が伝ってゆく、わかっていても止められない。
胸が熱さで詰まって、何かが溢れてしまいそうだ。
(これは、歌ではなく”詩”だったはず・・・また聞けるなんて・・・)
フィニティスは、前世より前の記憶を持たないはずだ。
なぜ、自分がこんな事を想うのか、通常なら気づくことも気づかない。
フィニティスには、これ以上自分の中の想いを抑えるのが難しかった。
涙を流しながら、ソレを開放した・・・
―――教会に幻の雪の結晶が降る・・・・
温かく、優しい・・・白銀に煌めく雪の結晶・・・
聖歌隊も呆然としながら、上を見上げている。
神官も、参列していたすべての竜人達が、雪の結晶が降ってくる先を見上げている。
聖歌は止んでいるはずなのに、結晶と共に、優しい詩が聞こえる。
詩は、心を癒し、結晶は、身体を癒してゆく・・・・
フェスニストは、奇跡の光景を見上げながら、何かに気づいたようにフィニティスを見た。