聖歌(前)
今回短めです。
フィニティスは、教会にある祭壇のの荘厳な造りに見とれていた。
陽の光によって、浮かび上がるステンドグラス。
壁の両側、上の方から床に向かってステンドグラスの光の線が伸びている。
祭壇の両側には、ガラスのような素材で出来た竜が内側から発光し、辺りを温かく照らし出していた。
中央の通路を挟んで数人が着席できる席に家族で着席し、今か今かと開始時間を待っている状態だ。
周りには結構な数の竜人がいる、今日は年に数回聖歌隊が”竜の聖歌”を歌う特別な日だ。
フィニティスが教会に訪れる事になったのは、数日前にあった兄と父の会話によるものである。
「御父様、そういえば『聖約の儀』の前に教会へ行っておかないと、拙いのではないですか?」
『聖約の儀』は主に、教会が主体で執り行われる。
人間・竜人、両側にとっての未来に大きく関わることの一つだ。
「そうなんだが、教会は権力が別だからな。様子を伺っているうちにかなり迫ってきてしまったし、近いうちに連れていくか。」
「それが良いかと・・・でも、そこまで様子を伺うということは何か動きがあったのですか?」
「いや、いまのところは確認されていないが・・・あの誕生会からこちらを気にしているようだ。恐らく誰かから話を少し聞いた程度だろうが、警戒するに越したことはない。聖女になど祭り上げられたら大変だからな。本人が望むなら別だが・・・。」
「御父様、でも本来なら両性の子供が生まれた場合、”教会に知らせるように”となっていたはず、大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。その辺の事は、考えてある。それにお前は、フィニティスが色々な世界を見ないまま、教会に閉じ込められて良いと思っているのか?」
「そんな事は考えていません!フィーが一人になるような事がないのか・・・心配なのです。」
意地悪い顔をして聞いてきた父に対して、少し興奮してしまった事を恥じるようにフェスニストが答える。
「解っているよ。ただ実際に行動に移すには、もちろんリスクを伴う。だがそろそろ決断しなければな。」
「はい。」
「まあ、とりあえずは、教会に行き様子を見よう。流れによっては実行に移す。先日、話した通り、臨機応変に頼むぞ。出来るだろう?」
「誰に聞いているのですか?御父様と御母様の子ですよ。」
「頼んだぞ。」
その言葉に微笑みで答えたフェスニストは、この部屋に近づいてくる小さな気配に気づく。
「御父様、フィーが来たようですよ。」
「あぁ、そのようだな。せっかくだから話しておくか。」
「それがいいですね。」
こうしてフィニティスは、教会へ向かう事になったのだった。
この話を作成中に、兄が後ろから覗き込んできた。
もちろん言葉という暴力で撃退しましたが、危うく秘密がバレるところでした。