推しがピックアップされないガチャとの闇の戦い
エイプリルフール限定キャラ実装。
ゴールデンウィーク記念ピックアップ。
子供の日ガチャ。
現実には様々なガチャが存在している。
ソーシャルゲームのガチャというものはいつだって戦いの日々が繰り広げられるものだ。
推しが引けないことを嘆く者、最高レアを引けてもすり抜けてしまったことに悲しむもの、そして引けて喜ぶ者……
数多くの人々がガチャと戦っている。
そして、私もまた……
「うああああああああああでない! 推しが!! 出ない!!!」
嘆くもののひとりであった。
「人の寮でそこまでぎゃーぎゃー騒ぐ? しずく」
友達が暮らしている部屋で私は咆哮する。
そのことを指摘されても、この感情は抑えられそうにない。
「同じ体験を味わってみなよ……地獄だよ?」
「最近サブで遊んでる限定ガチャの引きは良かったんじゃないの? あのメカってるやつ」
「……それはそうだけど! 私が狙ってるのはそっちじゃないから!」
「ふぅん」
友達のくるみは感心のなさそうな態度で携帯を見つめる。
彼女もまた、ソシャゲをやっているのだ。
「しずくの推しって、どういう感じなの? 最近のソシャゲだから子供の日ガチャとかそういうので来てるの?」
「子供の日は関係ないよ、そっちのガチャからは推しは出ないと思う」
「そうなん?」
「うん、私の推しは特殊な立ち位置にいるタイプのキャラだから、表に出ることはないからね」
ソーシャルゲームの種類によっては幼い姿のキャラクターを子供の日に出すというのはわりかし王道になってる気がする。
だけれども、私の推しは違う。そういった観点からは一切関係ない立ち位置にいるのだ。
「特殊ねぇ、課金しても手に入らないとか?」
「そんなところ。ひたすら根気が必要なタイプ」
「ふぅん、通常のガチャからは出てこないの?」
「そりゃそう」
「……まさか、ああいうやつ? フレンドポイント的なので引けるガチャから出るみたいな」
「大正解」
そう、まさに私が狙っているのはその手のタイプのキャラなのだ。
永遠にピックアップされることがない、実質幻のキャラ。
それが私の推しなのだ。
「異名とか容姿が好きでね? ほら『存在してはいけなかった者』とか『ロストアーカイブ』とかそういう二つ名があって、ロマンがあって、スピンオフ作品では影しか映ってないんだけど、そんな中で活躍してる姿が目に焼き付いて仕方がないっていうか……」
「しずくの推し談義はまた今度ねー」
「ひどい」
好きで好きでたまらない。
だけれども、届かない。
そういうもどかしさが私の心を蝕んでいるのだ。
「引けてる人はいるの?」
「ここ一週間に界隈内で確認できるだけでも8人はいる」
「きっちり覚えてるのこわ」
「だって、都市伝説かってレベルで出てこないんだもん」
SNSを検索して、引けたと呟いている人を見るだけで絶望的なくらい心が揺れ動くのに見てしまう。
同担には祝福を送りたくなるものの『知らないやつ出たけどこれ強い?』と聞いてくる人を見てしまうと、空中で五十五回転くらいしてしまいたくなるほど、心が叫ぶ。すっごい叫ぶ。
それくらいでない。恐ろしいくらいでない。
「……興味本位で聞くけど、何回位引いた?」
「昨日と今日合わせて10000」
「は」
「キャラとか武器の倉庫整理をしながら曖昧だけど、最低でもそれくらいは引いてる」
「一回のフレンドガチャで引ける回数は?」
「10回」
「……諦めた方がいいんじゃ?」
私の肩にぽんと手が添えられる。
あなたは頑張ったから戦わなくていいみたいな感じに。
そんな彼女に優しく諭す。
「……いい? くるみ、出るまで引けばマイナスじゃないんだよ?」
「それフレンドガチャじゃないときに使っちゃ駄目な問答! 限定ガチャとかの時に同じ言葉言わないか不安!」
「え? それは問題なくない? 天井があるなら絶対手に入るし」
「もはや手遅れだった……!」
驚愕するくるみに対して、私は気を取り直してガチャを引き続ける。
十連を繰り返しても相変わらず出てこない。
「そこまで出ないと無の境地になるんじゃ?」
「夢があれば止まらないよ」
「夢っていうのは?」
「ホーム画面に置く」
「……動画とかで見るのじゃ駄目なの?」
「違うの!」
立ち上がり、続ける。
「私が! 手に入れたという事実が大切だから!」
「そこまでか」
「だから、私は引き続けるの! 何回でも、何回だって!」
二十連、五十連、百連。
繰り返し、繰り返し、繰り返す。
やっぱり出てこない。
「やっぱり今日も駄目なのかなぁ」
「ねぇ、ちょっと十連だけやってみてもいい?」
「……出たら怒るよ?」
「そんな理不尽な。でも、いいの?」
「いいよ、出ないと思うから」
くるみが私の端末の画面の十連ボタンを押して、ガチャを引く。
その時、特殊な演出が発生する。
黒い霧。霞む文字。
普段は拝むこともできない、ほんの0.01%で見れるという噂の演出だ。
「あっ」
くるみが青ざめた顔になる。
しかし、私は信じている。
ここで私の推しが出てくることはないと。
演出が終わり、キャラクターが登場する。
『ゼロアライブ』
そこには『生存未確定の人狼』という二つ名を持つ青年が映し出されていた。
私の推しと近しい関係がある、フレンドガチャ限定の男だ。
「こ、これ、まずいことしちゃった? 大丈夫?」
くるみが挙動不審になりながら、確認を取る。
流石の彼女もよくわからない演出に困惑していたのだろう。
彼女には私の推しのことは詳しく教えてなかったから、混乱するのも仕方がない。
「本名じゃないから大丈夫。でも、大手柄だよくるみ」
「そ、そうなん?」
「うん、私の推しは彼を所有してると聞ける会話があるから、かなりナイスな引きをしてる」
「よかったぁ」
一息ついたのち、彼女が目を輝かせて言葉にする。
「じゃあ、流れが来てるってことだよね! ここはもう一気に決めちゃおう! しずく!」
「そうそううまく行くはずが……」
そう思いながら十連ガチャを押した時だった。
再び、特殊演出が訪れた。
画面が歪み、UIが乱れていく。
そして、画面の中央には『ロストアーカイブ』と記された文字が刻まれる。
「あっ、あ、あっあっ!」
指が震える。
心臓がバクバク言ってる。
まさか、まさかまさか、まさか!
指で画面をそっと押して、続きの演出を見る。
片方の目が隠れた、黒髪の少女。
影を帯びていて目立つことのないようにマントを覆っている。
赤い目が鋭く光り、しずかに画面に降り立つ。
彼女こそが、私の推しそのものだった。
「うああああああああああでない! 推しが!! 推しが出た!!!」
魂の叫びだ。
多分、泣いている。
すっごい涙を流している。
報われたとか、そういう小さな感情じゃない。
もっと大きくって、爆発的によくわからない洪水のような感情の渦が押し寄せてくる。
引けた。
引けた、引けた引けた!
本気で嬉しい、本気で嬉しい!
「うあああああああああ!!」
わけもなく部屋の中をぐるぐる回る。
画面はずっとガチャ画面から変わらないまま、ずっとぐるぐると。
「おめでとう、しずく! こんなに喜んでるしずく初めて見たかも」
「ふふふふふ、これで、私はひとつの戦いが終わったというわけで……」
「ん? ひとつの戦いって?」
くるみがきょとんとした表情で見つめてくる。
そんな彼女に対して、私は続ける。
「次のフレンドガチャ更新でまた別バージョンが増えるの」
「……えっ? じゃあ、別衣装だすの!?」
「そう、また追いかけないと」
「……こわー」
私の戦いはまだ終わらない。
むしろ、このガチャ結果は始まりにすぎないのかもしれない。
でも、今はこの喜びをかみしめていたい。
そう心から思うのだった。
そして、後日。
私は再び吠えていた。
「うわあああああああああん! 推しが出ない!!!」
フレンドガチャ更新日。
私はくるみの部屋で相変わらず嘆いていた。
「……ピックアップはされてないの?」
「されてない! 気合で引くしかない!!」
「が、がんばれー」
再び何回も私はガチャを引き続ける。
これからも、きっと更新で推しが増える度に吠えるのだろう。
「本気で確定で引く手段が欲しい!!! 札束パンチしたい!!!!」
「正気に戻って! 多分今のしずくだと万以上は容赦なく出すと思うから! おちついて!」
「ガチャ闇はこりごりだよぉおおおおお!!」
繰り返し引き続ける戦いの日々。
ホーム画面に映る推しの姿は、それでも心を癒してくれるのだった。




