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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

嘘の告白(R15版)

作者: Koyura
掲載日:2026/01/27

ある休日の夕方、大学の同級生だった長年の友達、御影侑(みかげ たすく)に話があると呼び出された。


「小野川、好きです、恋人になって下さい」

告白された。

「恋人?」

今までの侑との思い出が走馬灯のように蘇った。

どれも楽しい思い出だ。まあ、飲みに居酒屋行ってるのばかりだが。


驚いたが、こいつも俺と同じ気持ちだったのかと嬉しくなった。

男を好きになるってこういうことか、と納得した。


「いいよ、俺もお前の事好きだったみたい」と軽く返した。

男友達の中では一番親しくしていた。言われて気付いたが、これは恋愛感情だったようだ。


「ええっ⁈本当に⁈」

「おう!付き合おう」

俺は軽く応えた。

「改めて、付き合うって何するんだろ?しょっちゅう飲みに行ってるが、取り敢えず他にも出かけるとか?一緒に寝る?取り敢えず抱きしめてキス⁈」


うーん、とアレコレ考えていると、侑の様子が怪しくなっていた。


「そんな!しまった…言うんじゃなかった」

さっきまで赤かった顔は急激に青ざめ、アワアワとパニックを起こしている。

「はあ?」


「嘘です。御免なさい!」

と侑は叫び、頭を下げられる。

「え、何で?」


侑はくるりと後ろを向いて走り去った。


今のは何だったの?

呆然と見送った。


居酒屋へ誘おうと思っていたので、夕飯を用意していなかった。面倒になって、コンビニでも寄るかと帰り道を歩きながら友人の嘘の告白?を思い返していた。


「俺、言い損じゃね?」


何で、告白されてOKの返事出したら、予想外みたいに思われて、嘘でしたーとか言って逃げられなきゃなんないの?

嬉しかったのに、一瞬で台無しになってしまった。


やっぱり納得できなくてスマホを取り出したら、丁度通知が来た。

『ごめん、動揺しててて』

てが多い…すぐに電話したら、まだ近くにいたので呼び寄せた。


「どういう事だよ!何がやりたかったんだ」

「ごめん、男になんか興味が無いと思ってた」

「冗談きついぞ!よくも俺の心を弄んだな」半分怒って半分おどけて言った。

「違う、そんなつもりじゃ、僕は本当はお前の事、会った時からずっと」

「嘘じゃねーのか?」

「ごめん、咄嗟に、馬鹿だ俺、絶対駄目だと思ってたけど、自分の気持ちを伝えたかっただけで、断られるのを覚悟して言ったんだ」

「何か言いたそうっつーか、思い詰めてたのは、見てわかった」

「カッコ悪いなあ、丸わかりか」


「で、どうすんだ⁈」

「ごめん、俺…」

後が続かず、俯いたまま無言になる。

俺はイライラしてきて、つい言った。

「付き合うのか、合わないのか、ハッキリしろ!じゃないと友達も止めるぞ!」


「それは嫌だ」ぼそっと早口で言うので、俯いたままの顔を両手で挟んで上を向かせた。

「じゃあ、ちゃんと言え!」

「はい」

「ん⁈」


「ずっと好きでした!付き合って下さい!」

半ばヤケクソのようではあったが、俺はニンマリ笑って

「嘘は吐くなよ」

と言ってそのまま軽くキスした。

「え、ちょっ、そんな、いきなり」

顔を真っ赤にして俺の両手を掴んだが、力は入ってなくて、覆っただけだった。




恋人になったので、デートと称して出かけようと誘ったが、あまり人混みは好きじゃないと、休日は俺の家で過ごす事が多かった。

あいつの家にも行きたいって言っても、「破壊的に散らかってるから」と断られる。


俺も、そんなに綺麗好きじゃないからいいのに。

家に居ると必然というか、ベッドにいる時間が長くなる。

と言っても、最後までしていない。お互い男と付き合うのは初めてで、軽く触り合いはするが、上か下かで平行線を辿っているからだ。


平日は仕事だし、終わるのも遅い。だから、休みの日は会いたいのだが、仕事が忙しいと、毎週は無理だった。


ちょっと不満はあるが、社会人だし、ゆっくり関係を深めればいいか、と俺は無理矢理納得して、できるだけ連絡は取るようにしていた。



ある日、昼休みにランチに出かけた途中だった。

オープンテラスのカフェにあいつがいた。スーツではなく普段着だった。

仕事場は近くではないのに珍しいな、と思い、声をかけようとした。

向かいに人が座っていたので、商談中かも、と近付くのを逡巡していると、2人とも立ち上がった。


あいつがふらりとよろめいたのだ。

あっと思ったが、向かいの男がサッと近付いて受け止めた。

「大丈夫ですか?」

座らせて様子を見ている男の顔は真剣で、心配そうにしている。

「ありがとう」

あいつは屈んでいる男に抱きついた。

「御免なさい、迷惑ばっかりかけて」

「いいんだよ、僕の事は気にしなくて」

男もあいつの背中に手を伸ばした。


「侑」

俺は思わず近寄って声を掛けた。

2人ははっとして距離を空けたが、もう遅い。

「小野川」

「僕は、松岡と言います」


松岡とか言う男は少し戸惑った様子ではあったが、軽くお辞儀した。上目遣いに俺を見たが、直ぐに侑に向き直った。

「俺が、仕事でお世話になってる人なんだ」

「にしては、距離が近くないか?」

「御影さん、僕の事小野川さんに紹介しちゃ駄目なんですか?」

「お願いします。言わないで下さい」


侑は松岡の声に被せるように言ったので、怪しさしかない。

「何のことだよ」

「御影さん、彼に本当の事を言った方がいいです」

「いいんだ!」

普段おとなしそうな侑が相手に対して強気に出るなんて、どれだけ松岡に気安いんだ?


「何なんだよ、また嘘ついてんのか?いい加減にしろよ」

うんざりだ。


本命がいたから、俺には適当に告白したのか?で、本命と付き合えたから、俺とは忙しくて会えないとか誤魔化して、適当に会ってたのか。


俺は戸惑う2人を置いて、沸騰する頭を抱えつつ、適当に歩き回った。

とても食べる気にならなくて、でも、昼休憩は始まったばかりで帰るには早過ぎた。

気を紛らわそうと、近くのコンビニに入った。

お茶のペットボトルと、適当におにぎりを二つ掴んでレジに行こうとして、ふと別の棚を見た。



『買ってしまった…昼間だぞ?何考えてるんだ』

自分のデスクに帰ってきた俺は人目を気にしながらおにぎりを出し、残りを急いでカバンの中に入れ、ファスナーをきっちり閉めた。


平日だったが、あいつに今夜会えないか、メッセージを送るとすぐに会えると返信があった。

この日は取引先への営業が少なかったので、報告書は家で書くことにして定時退社した。


まだ早い時間だったのに、侑は急いだのか顔を赤くして、息を荒げてやって来た。

「誤解しないで。あの人は仕事の関係者で、絶対恋人じゃないから」

開口一番に言われた。

「じゃあ、何?」

「それは…だから、仕事先の人で」

相変わらず言葉を濁してハッキリと言わない。


「まあ、それはいい。俺と恋人なんだよな?」

「…うん、そうだよ」

「じゃあ、してもいいよな?」

「え、何?」

「SEXだよ」

「い、今から?」

「そうだよ、シャワーするぞ。お前は準備要るだろ?」

「僕が入れられる方なの?」

「嫌なら、帰れ。そして2度と来るな。俺はお前を抱きたいんだ!」


あいつは切なそうな顔で俺を見つめていたが、決めたのか頷いた。

「恥ずかしいから、1人で入るよ」

「恥ずかしいって…準備できるのか?」

「うん、調べた」


俺はベッドを置いている部屋に行くと、会社カバンのファスナーを開いて、取り出したものをベッドに置いた。

昼間に買ったゴムと潤滑ゼリーだ。

用意周到、では無い。

賭けとヤケだ。


身体の関係を了承するなら、まだ俺に勝機が有る。その内にと思っていたが、あの男の登場に、焦ってしまった。

侑から告白して来たから油断していた。


優しそうな良い男だった。あいつを見る目は、とてもじゃ無いが普通では無く、慈愛に満ちていた。

すぐにかっとなる、忍耐力の無い自分とは違い、全てを受け入れる包容力がありそうだった。


猛烈に嫉妬した。自己嫌悪をあいつに転化しようとしている。

単純に2人の愛を確かめたかった。拒否されたら、俺の方が落ち込む。


脳内をいろんな考えがぐるぐると回っている内に、侑が出てきた。

交代に俺が入る。


念入りに体を洗って出てくると、侑はベッドで横になっていた。

スースーと寝息が聞こえて、確かめると本当に寝ていた。

疲れてんだろうな。そのまま寝かそうかなと思ったが、髪の毛が濡れたままで、ベッドも濡れそうなので、止むを得ず起こした。


「ご、ごめん!寝ちゃって」

「いいよ、無理言ったし。髪の毛乾かした方が良いかなと思って。アレも、嫌ならしなくていい」


「嫌、しようよ!準備したし、したい」

侑は赤い顔で言った。


俺達は少しの間そのままぼうっとしてたが、当初の目的を思い出し、髪の毛を乾かしあってからベッドに横になって抱き合った。

「侑、俺で良いのか?」

「もちろん。今更!小野川だけだよ」

「いい加減、陽太って呼べ」

「恥ずかしい」

「なんでだ、ほら!」

「う、陽太、好きだ」

名前だけだと思ってたから、好きと言われて想いが爆発した。


お互い不慣れながらも、一緒にイけた。

「陽太と一つに成れて、嬉しくて、夢みたいだ」

いつの間にか侑は泣いていた。

「一生で一番嬉しい。もう、今死んでもいい」

「馬鹿、今からだよ」

「陽太、好き、大好き」

「俺も侑が好きだ」

二人で何回もキスした。





次に会ったのは、松岡からの連絡で慌てて行った病院の部屋だった。


部屋の外にいた松岡はペコッと軽くお辞儀をすると、名刺を出してきた。

「僕はソーシャルワーカーの松岡と申します。御影さんを担当しています。御影さんが職場で倒れて救急搬送されました。本人は嫌がっていましたが、あなたには独断で連絡しました」

「ソーシャルワーカー?担当?」

「彼は悪性リンパ腫のステージ4です。治療は色々試しましたが全て効果が無く、緩和療法に切り替えようとしていたんです」


悪性リンパ腫?それってガンじゃないか!

「緩和療法って何ですか?」

「…ガンの治療は止めて、対症療法と痛みのケアに特化する事です」

「治療を止める⁈じゃあ、侑はもう、助からない?」

「残念ながら、そうなります。僕は普通の生活を送れるように、訪問看護や医療の手配とカウンセラーの橋渡しをやっていました。あなたの事は伺ってます。なのに、どうしても病気の事は黙っていてくれと」


何故、どうして、と絶望と後悔がグルグルと頭の中で回る。

取り敢えず、侑の様子を見る為にも病室の中に入った。


侑は青白い顔をして横たわっていた。

「侑…」

普段から顔色は良い方ではなかった。まさか、ガンだからだったなんて、思いもしなかった。

今までも、しんどそうにしてた時もあったが、本人が仕事疲れだと言うので、納得していた。

「どうして、侑?」


侑はゆっくり目を開け、俺を見て驚いた。

「陽太、何でここに?」

「松岡さんから連絡あった。お前、何で黙ってた?」


侑は目を伏せて、少し唸った。

「知らせないでって言ったのに…」

「勝手に連絡したって。当然だろ?俺はお前の恋人だ。俺に知らせなくてどうすんだよ」


侑は無言で涙をこぼした。

俺は指で堰き止めていたが、間に合わなくなってハンドタオルで優しく拭った。


「本当は」

ようやくポツリと言った。

「僕の気持ちは、死ぬまで明かさないつもりだった」

「え?」

「こんな病気になって、頑張ったけど、あちこちに転移して、もう治療法が無いって言われて。松岡さんを紹介された。色々考えると、もう後がないから、断られても、気持ちを伝えて死ねればいいかって思った、のに」

「侑…」

「陽太がOKするから、ビックリした。嬉しいより驚いた。そして後悔した。言う以前より全然死にたくなくなった。いつまでも、陽太と一緒にいたい。本当にそう思うようになった。どうしようもないのに」


俺は込み上げてくる激情を必死で抑え、侑に覆い被さって何度もキスした。

「俺にも看病させてくれ。一緒に居たいんだろう?」

「ごめん、黙ってて。余計な心配かけたくなかったんだ。もうすぐ陽太の前から消えようと思ってたんだ」

「駄目だ!許さない!いっそ俺ん家に来い!いいな⁈」

「うん、うん、ありがとう」


点滴が終わると退院だったので、松岡とは、後日時間を取って話し合うことにした。

2人で車に乗って侑の家に行くと、既に家の中は片付いており、段ボールが幾つかあるだけになっていた。

「たーすーくー」

「ごめんて」

俺は手伝うと言う侑を無理矢理ソファに座らせ、1人で段ボールを全て運んで車に乗せた。


その晩ネットで介護用ベッドを買った。来たらリビングに置いてやった。

侑は恐縮していたから、元気なうちは俺のベッドで一緒に寝ようと誘ったら、恥ずかしそうに頷いた。



病状は悪化し、間も無く寝たきりになった侑を、松岡が紹介してくれた医者や看護師、ヘルパーさんの助けを借りて看病する。

侑の両親にも病気のことを話し、母親も通ってくるようになった。

はっきりとは言わなかったが、死ぬまで面倒を見ると宣言したので、両親とも、俺と侑の中を察したと思うが、反対されなかったのは有り難かった。


俺は色々侑と話をした。眠ってしまうと普段言えない甘い言葉で好意を言っていると、バレて「起きてる時に言って」と拗ねた。可愛い。



「陽太、ありがとう。あっちで待っとく。長生きしてね。ずっと好きだよ」

昏睡状態ギリギリの時に呟くように言ったのが最後で、後は痛み止めで眠ったまま。


侑は、静かに息を引き取った。



俺は睡眠不足でぼうっとする頭を振って、侑の葬式の準備や会社関係の連絡を手伝った。

侑は自分の死後することを全てまとめていたのでスムーズに終わらす事ができた。


葬式の後で、来てくれた松岡さんに縋って泣いた。

彼も、同じく泣いて、最後2人で泣き笑いになった。

それからたまに飲みに行く仲になった。お互い知らない侑の話をしている。


侑のことを思うと今でも心が痛みを伴うが、その奥の侑への思慕と愛を忘れていないことに安堵する。

短い付き合いだったが、侑の背水の陣のような告白、嘘の告白でも何でも、ありがたいと思った。


季節の折々で墓に行って侑にそのことを告げている。

「気持ちを伝えてくれて、ありがとう」



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