なんか異世界転移しちゃって、チート付与されたんですけど『神の愛し子』とかステータス人に見せられないんですけど!?
柊 久遠。
異世界転移しました。
「………なんじゃそりゃ」
思わずポロリと独り言。
ええっと、とりあえず状況整理から。
私は地球という惑星の日本という国で育った女子高生。
孤児として育った天涯孤独の身だったが、施設で育つのもまあ悪くなかったと言える程度には周りには恵まれていた。
「で、たまたま事故に遭いそうになっていた親子を見かけて思わず身代わりになった…ら、親子は助けられたからそれはいいとしても…」
そう、それはいい。
それはいいのだが。
「何故かその様子を偶然見ていたらしい、地球に興味があった暇な異世界の神に気に入られてトラックにぶつかる寸前で異世界転移したと」
誰も頼んでないわー!!!
その後は異世界の神から一方的に『僕が君を異世界転移させた』『君たちの世界で言うチートなスキルを付与した』『神の愛し子としてこの世界を好きなだけ楽しんで欲しい』と告げられて放置。
ちなみに転移先は山奥で、誰にも転移した場面を見られていないどころかこちらの世界に来てしばらく経っても人と会うことはなかった。
山から降りないことを選択したからである。
「だって、こんなステータス人に見せられないし…」
【名称】柊 久遠
【性別】女性
【年齢】十八歳+九十二歳(身体年齢+こちらにきてからの年齢)
【レベル】一万
【職業】神の愛し子
【称号】霊峰の天女
【スキル】天の寵愛
異世界語翻訳
不老長寿
物理攻撃力倍化
魔法攻撃倍化
魔力量倍化
物理攻撃無効
魔法攻撃無効
状態異常無効
鑑定眼
【その他】体力 一万
魔力 一万
攻撃力 一万
魔法攻撃力 一万
防御力 一万
魔法防御 一万
素早さ 一万
何?この職業と称号とスキル。
まあ称号に関してはこの霊峰である山から降りなかった私の責任として、他が酷すぎる。
なので私はこの九十二年、山から降りずにいた。
人前でステータス晒したら絶対面倒なことになるから。
でも、この異世界生活…不幸かといえば全然そんなことはなかったりする。
『クオンー、ご飯の用意出来たよー』
「ありがとう、リリー。早速いただきます!」
私はこの九十二年、決して孤独ではなかったのだ。
この異世界に転移して早々に、この小鳥のリリーと出会った。
リリーは出会った時怪我をしていて、慣れない山での生活に苦戦しつつもなんとか看病していたら人の言葉を覚えて私の『使い魔』となってしまった。
使い魔は術者が死なない限り死なないし、成獣になった時点で不老となる。
だから私は孤独ではなかったし、むしろ日々の生活は向こうと…地球と変わらないくらい充実していた。
『クオン、美味しい?』
「うん、美味しいよ」
リリーの作る…というより、採ってくるご飯はこの霊峰でしか採れない果実らしい。
状態異常無効がある私は病気にならないので、お腹を満たせればなんでもいい。
だから美味しくてお腹いっぱい食べられるこの果実だけで食事は事足りる。
服や靴は魔法で適当に白いワンピースと白い靴を作ってそれを使い捨てで着て、家も魔法で適当に建てて家具も作った。
寒さ暑さも魔法で防寒とか暑さ対策とか色々出来るから問題なく霊峰で暮らしていける。
「…まあ、リリーがいれば他はどうでもいいや」
『クオン?』
「リリー、これからも一緒にいてね」
『!…うん、ずっと一緒!』
というわけで、今日もなんでもない一日をリリーと楽しく退屈しない程度にのんびり過ごす…はず、だった。
ドンドン、ドンドンと家のドアが叩かれる。
この霊峰の頂に人が来るなどまずあり得ない…はずだが、ドアを乱暴にとはいえノックする知恵があるなら人間とかそれに近い種だ。
「…だれ、ですか」
『クオンとリリーのお家を乱暴にしちゃダメ!』
リリーと共にドアの向こう側の人物に問えば、あちらは焦った声で言った。
「申し訳ない、緊急事態なのだ!!!この霊峰を守りしエルフ族の長の第一子、次期族長のロビン様が倒れた!この山には天女がいると妖精たちから教えていただき助けを請いに来た次第!何卒ロビン様を助けていただきたい!」
「…えー」
私は正直乗り気ではない。
妖精たちとも仲良くしているが、リリーほど大切ではない。
妖精たちはエルフたちと仲良しらしいとは以前聞いたが、助ける義理はない。
冷たいようだが、ここで甘い顔を見せて変に持ち上げられても困るというのが私の本音。
なのだが。
『クオン、いつも作ってるお薬あげたら?』
「リリー…」
私はこの九十二年、暇つぶしに錬金術に手を出していた。
その成果で、スキルとは関係ない独自の技術を取得。
この家の倉庫に、大量に使い道のない【超級回復薬】【超級魔力回復薬】【超級状態異常回復薬】が余っている。
どれも一級品で、瀕死のものすら助けられる代物。
ここで渡してやれば、助けられる…けど…いや、躊躇ってる暇はない。
「お急ぎでしたら、どうぞこちらへ」
助けてやる義理はないし面倒なことに巻き込まれる気しかしないが、リリーに嫌われるよりマシ。
リリーは助けてあげて欲しいと目で訴えてくるので、私には結局こうするしか道はなかった。
ドアを開けて、エルフたちの使者を招き入れる。
そこで待たせて、倉庫から【超級回復薬】【超級魔力回復薬】【超級状態異常回復薬】をそれぞれ二本ずつ持ってくる。
「どうぞ、薬です。全種類飲ませればどれか一つは効くでしょう。赤が超級回復薬、青が超級魔力回復薬、金色が超級状態異常回復薬。二本目は予備ですので別々のバッグにいれて運ぶことをおすすめします」
「ありがとうございます、天女さま!では失礼します!後日お礼は必ず!」
そうしてエルフは慌てて帰って行った。
エルフの使者であった若者は、エルフという美形が多いとされる種だからだろうか。
この異世界に来てからしばらく人と接していなかった私から見て、かなりの美形だった。
「名前くらい聞けばよかったか」
『リリー、あの人好き!クオンもあの人好き?』
「そうだね…誠実そうなイケメンだとは思うよ」
『イケメン?』
「美形さんだねってこと」
リリーは部屋中を飛び回ってはしゃぐ。
『美形!クオンから見て美形なんだ!』
「そうだね」
まあ、今後は関わりたくはないけれども。
「天女さま、この度は誠に有難う御座いました!ロビン様を助けていただき、感謝に絶えません」
「いえいえ…」
『クオンすごいでしょー!』
「ええ、使い魔殿。天女さまは素晴らしいお方です」
『でしょー?えへへ、リリーのことはリリーでいいよ』
リリーはすっかりエルフの使者を気に入っているらしい。
「では、リリー殿。改めて、貴女の主人たる天女さまと貴女に格別のお礼を申し上げる」
『いいよー!』
「どういたしまして」
「それで、改めて名乗らせていただきたい。私はこの霊峰を守るエルフ族の族長の補佐を担う家の長男、アルスと申します。ロビン様の回復を見届けて、お礼の品を持ってきた次第です」
お礼の品、ね。
「それは?」
「お礼の品です。我らエルフ族の宝たる、霊峰より与えられし宝玉…大量の魔力の籠ったものです。どうぞ錬金術にお使いください」
「いえ、あの」
『クオンは魔力がいっぱいあるからそれは要らないよー』
「…なんと。申し訳ありません、期待にお応え出来る品ではありませんでしたか…しかし、我らエルフに捧げられるものでこれ以上のものは………」
そう顔を曇らせるアルスさんに、リリーは言った。
言ってしまった。
『あのね、クオンいつもリリーと二人ぼっちできっとエルフと仲良くなれたら楽しいと思うの!だからアルスが毎日でも遊びに来てくれたら、クオン嬉しいと思う』
「り、リリー…」
ああ、言われてしまった。
こうなると、誠実そうなこの人は…。
「では、リリー殿もお連れして天女さまと山を降りて…エルフの里で暮らすのはどうでしょうか?」
『楽しそう!ねぇクオン、いいよね?』
「うう…うん」
いいよ。
リリーがいればどこででも生きていける。
でも九十二年も霊峰に引きこもってたから、アルスさんやエルフ族の多くと暮らしていくなんて出来るだろうか?
ちょっと不安。
でも、アルスさんはその不安を吹き飛ばすようにこちらに笑顔を向ける。
「では、ご案内します。必要な荷物はありますか?」
「いえ、家も家具も食器も服も靴も魔法でなんとかなるので」
「そうですか」
『食べ物はリリーが山から運ぶよー。荷物ないよー』
「では行きましょう」
アルスさんに連れられて住み慣れた家を離れる。
錬金術師で今まで作り続けた薬たちも、ただの暇つぶしの産物なので惜しくはない。
惜しくはなかった…のだが。
『あ、待って!クオン、お薬忘れてるよ!』
「り、リリー…」
「あ、なにか荷物を思い出しましたか?」
『あのね、奥の倉庫にたくさんお薬があるの!』
「たくさんお薬…まさか、あの超級回復薬などが………っ?」
ああ、言うつもりなかったのに…。
「ちょっと倉庫を見せていただいても?必要があれば、お薬はすべて運び出しエルフの里にてお渡ししますので」
「…は、はい」
アルスさんは一度私たちと共に家に戻り、倉庫を覗いて目を回す。
「こ、このレベルの薬がこんなに…これは置いていけませんね…一度天女さまとリリー殿をエルフの里に送った後、複数人で運んで参りましょう」
「は、はい」
「もちろん奪ったりなどしません、必ずお返ししますので」
「はい…」
ここまで来ると、友好的なエルフ族に対してとはいえ悪目立ちし過ぎなのでは…。
『クオンー、よかったねー』
「う、うん。リリー、ありがとう」
『うん、クオン大好きー』
「私も大好きだよ」
そして霊峰を降りて、エルフの里に辿り着く。
エルフの里を案内され、エルフ族との自己紹介もお互い終わった。
ロビンくんもすっかりピンピンしていて、助けられてよかったと思わなくもない。
なによりリリーが嬉しそうにしていたから。
「天女さま、これからよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします」
家は、土地を借りて自前で用意した。
九十二年前と同じように、家を建て家具を作り食器を用意する。
全て魔法で。
服も靴も同じく。
食べ物はいつもと変わらずリリーが用意してくれるので問題ない。
「お待たせしました、天女さま」
アルスさんが他数名のエルフと、薬の山も届けてくれた。
「こちらで全てになります。前の家と同じ作りの家ですね、奥の倉庫に薬をお入れします」
「お願いします」
ということで、エルフ族との暮らしが始まった。
「天女さまー!おれ、大きくなったら天女さまを守る騎士になりたい!」
「わたしは天女さまみたいな錬金術師になりたいな!」
「ふふ、ありがとう。みんなならなれるよ」
『クオンが言うなら間違いないよ!』
「わーい!!!」
エルフ族と暮らし始めてはや十年。
もうすっかりエルフの里に慣れてしまった。
子供達はリリーに優しいし、リリーも子供達を可愛がっている。
他のエルフたちもリリーを大切にしてくれるので、リリーも懐いている。
その筆頭がアルスさんだ。
「リリー殿、今日もお美しい羽ですね」
『えへへ。アルスもかっこいいよ』
「それはよかった。天女さまも、お元気そうでなによりです」
「はい、おかげさまです」
いつからか霊峰にリリーと二人きりで住むことにこだわっていた節があった私だが、アルスさんに連れられてここに来てよかった。
今は心からそう思う。
リリーも前より楽しそうだし、エルフを身近な存在と感じられるようになったから。
ロビンくんも助かって本当に良かったと、今は心から思える。
「それでその…天女さま」
「はい、どうしました?」
「よろしければ、私と…お付き合いしていただけませんか?」
「え」
…?
アルスさんは今なんて?
「えっ」
「二回も驚くほどのことでしたか…?それなりにアピールしてきたつもりなのですが」
「だって…」
「ロビン様を助けていただいたその日から、貴女のことが頭を離れない。これを恋と呼ばずしてなんと呼びましょう」
「そんな初期から好いてくださってたんですか!?」
ああもう私のバカ!
なんで気付かなかった!
「それで天女さま、お返事は?」
「えっと…」
私は…私は、アルスさんのこと…。
『クオンねー、アルスのことかっこいいっていつも言ってるよ!』
「リリー…!」
「リリー殿、本当ですか!?」
『うん!リリーね、アルスのこと話してる時のクオンが一番好き!幸せそうだから!』
「天女さま…!」
キラキラした目でアルスさんが見つめてくる。
本当は、不老長寿と言ってもどこまで生きられるか不安でアルスさんと添い遂げる気はなかったけど…。
ええいままよ!
「はい、私もアルスさんが好きです」
「天女さま!」
「でも、お付き合いするなら名前で呼んで欲しいです」
「では…クオン様」
「…はい!」
ということで、異世界転移してからはや百二年。
ようやっと番となる人を見つけたのでした。




