本業開始
カーテンの隙間から光が入る。
その輝きで目が覚め、 軽く体を伸ばしベッドから降りる。
この世界に来て、何度目かも分からない朝だ。
いつも通り身支度をし、転移魔法の解析に戻る。
そんな時、部屋の扉がノックされる。
こんな朝早くからどうしたのだろうかとドアスコープを覗く。
そこには神山が立っていた。
だが、いつもとは違い正装を、制服を着ていた。
「王様から召集が掛かった。今から王座に集まれだってよ」
「わかった。教えてくれてありがとう」
ドア越しに短く会話する。
クローゼットを開けて、制服を取り出し、それに着替える。
……それにしても、丈が短くないかな?
冬に履いたら……考えるだけで寒くなってきた。
最低限の準備が終わり、扉を開ける。
「よっ、準備は終わったか?」
近くから、そんな空耳が聞こえてくる。
その方向を見ると、神山の幻覚まで見えてしまった。
「はぁ〜。なんでいるの」
「前も言っていた通り、女性を1人にしておくのh――」
僕は、その神山の幻影――基、神山に向けて軽く小突く。
今回は大事な話の前だろうから本当に軽くだ。
証拠に、生まれたての子鹿から、生まれてから少し経ったくらいまでには抑えられている。
その為、10秒ほどで回復し始めた。軽くしたと言えどやっぱり早い。
自己再生は持っていないはずなんだけどな。
もしかしたら自己再生を獲得しかけてるのかも……
「もう時間だし早く行くぞ」
スキルのことを否定するかのようにそう口にする。
立場の逆転を嘆く神山の声が聞こえるが……まあ無視していいだろう。
――しばらく歩き、クラスのガヤが見え始める。
どうやら、僕達が最後のようだ。
「ゆ、勇者の諸君よ。良くぞ集まってくれた」
玉座の新王。革命後の王がそう言葉を紡ぐ。
どうやら、レフォルスはちゃんと王様をやれているようだ。少し不自然だけど。
「そなたらがこの世界に来て、半年ほどが経った。もうそろそろ、この世界にも慣れてきただろう」
レフォルス新王は一拍開けてから本題に入る。
「そこでだ。君たちには本格的に魔王討伐に出向いてほしい」
その言葉にクラスがざわつく。その様子を見て、神山が疑問を提示する。
「なぜ今なのですか?予定では少なくとも1年の練習のあとだったはずですが」
その言葉に、レフォルスは苦い顔をする。
そして、重々しく口を開ける。
「たしかに、それが約束だ。だが、最近になり高ランク魔獣が複数件報告されている。この現象は前回、魔王が活性化したときと酷似している」
その言葉にざわつきが大きくなる。
それもそうだ。皆等しくチートスキルを持っている。それでもつい半年前まではただの学生だ。意力もなければ技術も毛が生えた程度だ。
「この現象は時が経つに連れ更に肥大化する。そこで、未熟な状態での出発、それとAランクが跋扈してから出発するか……それを天秤にかけた結果、私達は前者の方が状況はマシだと考えたわけだ」
そう言って額に手を当て、深くため息をついてから続きを述べる。
「君たちに悪いが、この事はすでに決定事項となってしまった。できる限りの支援は施す。だから、どうか…了承してはくれないだろうか……」
そう言って、深く頭を下げる。
「頭をお上げください。レフォルス国王陛下」
神山がいつも違い、えらく丁寧な口調で話し始める。
いつもとの差で、風邪を引いてしまいそうだ。
「この決定は国の判断であり、王命です。少なくとも私はその判断に従います。ただし、行く先々での待遇はいい物にしていただいてくださいね」
「あぁ、最高のものを用意させよう」
神山の言葉にレフォルスの顔が明るくなる。
その空気感に飲まれ、一人、また一人と参加の意を示していく。
やっぱり、こういうことに関しては神山以上の適任者はいないな。
そう思っていると、神山が尋ねてくる。
「もちろん、イリムも来るよな?」
「えぇそうね。それに、あなた達だけだと不安だしね」
「勇者たちよ、感謝する」
そう言って、レフォルスは再度頭を下げた――
――街を歩く。だが、いつもとは違う。
歓声が上がり、僕達を鼓舞する、心配する、応援する声に溢れていた。
王に集められてから2日。今日は魔王討伐に出向く初めての日。
そして、魔王を倒すまで帰ってこないと誓う日だ。
僕の鼻に花弁が綺麗に着地する。
それを自分でさっさと取る。
「イリム〜。そこは誰かに取ってもらうってのがお約束だろ」
神山が冗談交じりの声で茶化してくる。
「僕はリアルで生きているからね。物語みたいに都合は良くないよ」
「なら、私の世界は都合がいいね」
後ろからひょこっと桜凛さんが現れる。
その手には1枚の花弁がつままれている。
「僕の髪の毛についていたの?」
「そだねー、イリムちゃんも見えないとこはわからないのね」
「何を当たり前のことを。僕でも見えないところは分らない。ましてや意思のない花弁など気づくほうがおかしいと思うよ」
そうは言うが、頬はわずかに赤らんでいた。
「咲苗も気をつけなさいよね。ぱっと見ても10枚はついているわよ」
栗山さんはそう言いながら、花弁をぱっぱと払い除ける。
……こんな緩い雰囲気で魔王討伐なんかできるのだろうか?
まあ、気負いすぎるよりかはいいのかもね。
「そう言えば、シアはどうしての?あの子ならついてきたいって言うはずだけど……」
「あぁー、シアねぇ……」
「イリムちゃん……まさか、黙って来たんじゃ……」
その問いに、イリムが答えることはなかった。
だが、小さく首を縦には振っていた。
「でも、この前のこともあるし、案外正しい判断ではあったのかな」
「それでも、帰ってきたら怒るよね……」
そう言って、帰ってきた時の事をを心配する。
その時、そこそこ強い風が身体を抜けていく。
その勢いで、たんぽぽの綿毛が空へと舞い飛ぶ。
白い綿毛は雪のようにシンシンと降りてくる。
夏の気候でたんぽぽがあって雪みたいな光景。情報量が多いね。
その様子を見て、帰ってきた時を忘れようと意識をそらした。
街を出てから二時間ほど。
いや、たった二時間。みんながバテ始めた。
おかしい、神山はこれ更に重い荷物でもまだ歩いているのに。
桜凛さんもバテた様子はない。もちろん栗山さんも。
まあ、この前の神山達と同じ理由だろう。
強いスキルがあっても身体が強くなったわけじゃない。
それに、神山達以外が積極的に魔物討伐に行っている様子を見たことがない。
案外、神山は体力があったほうなのかも知れない。
さて、今回の目的地についておさらいでもしようかな。暇だし。
まず、僕達がいるのは中央大陸“アムソリシア”の北部。北緯20°ほどの位置だと思う。
で、魔王城があるのが南緯70°あたり。とてつもない極寒だ。
加えて距離も馬鹿にならない。脅威の1万kmだ。
さらに、魔王城があるのは別大陸。一度海を渡る必要も出てくる。
過酷の二文字が生ぬるく見えるほどの難易度だ。
だから、こんな所でバテられても困るんだけどね……
これから体力がつくことに期待するしか無いね。チートスキル持ってるし。
何だよ、遠距離攻撃を全反射したり物理無効とか……
それはさておき、直近の目標である場所は、王都から南南西の位置する“メジュドュ村”だ。
たしか、知能あるドラゴンと共存してる村だっけ。
ゲームとかだったら何かしらのアクションがありそうな場所だね。
たんぽぽっていいですよね。その黄色い花弁にはいい意味がいっぱいなので。きっと、イリムたちの旅も良い結果で終わるでしょうね。




