魚影
岸に着くと身体に小さな痛みが走る。
少し慌てたからか、痛みが浮き出てきてしまった。
「魚は取れた?」
岸で待っていた桜凛さんがそう尋ねてくる。
どれだけ食べたかったのだろう。
「取れたけど……」
「その感じ。何かあったのか?」
神山がそう尋ねてくる。
一応、依頼のことは覚えてくれていたようだ。
「うん、魚を取っていたら急に下の方が暗くなった。ここの水は澄んでいるからおかしいと思って戻ってきた」
それを聞いて、栗山さんが冷静に解析する。
「それって、依頼にあった“影”に似てるね」
たしかにそうだ。
実際に見たからあまり感じなかったが、口頭だけなら確かに似ている。
「ここで仕留めてもいいけど、依頼は調査までだしな。どうする?」
僕はみんなに向けてそう問う。少し考え込んだ後、神山が口を開ける。
「依頼の内容は、“影の調査。可能であれば討伐”だし、できるなら倒してもいいんじゃないかな?」
「分かった、それじゃあちょっと行ってくる」
そう言ってラッシュガードを脱ぐ。翼を展開すれば、どうせ破ける。
内側に海用のスポブラを付けているから問題はない。
あるとすれば、栗山さんに“大事!”と強制的だったことだろう。
そして、駆けるように空へと飛び出す。
手には4mを超える銛を携えている。その長さは、どう考えても体格に見合わない。
……あそこが僕がさっきいた場所か。
海藻とは違う、違和感を持つ影がたしかにそこにある。
僕は、それめがけて銛を投げる。
確かな手応えを感じ、銛に付けていたロープを引っ張る。
力強く引っ張られるが、その力も徐々に弱っていく。
影が薄れ、その姿が徐々に鮮明になる。
僕は、その姿に少しびっくりしながらも、岸へと運んでいく。
――倒したから持ってきたけど……これってカサゴだよね?」
そう感じるのも無理ない。
銛で貫かれたその魚は、8mほどだったが、見た目はまんまカサゴだった。
「うーん……コレで間違いないと思うよ。これ、光を曲げるスキル持っているみたいだし。影を作っていてもおかしくは無いかな」
桜凛さんがそう解析する。
桜凛さんの“清き眼”は、意思のない相手限定だが保有スキルを見れる。
それで調べたのだろう。
「これ持っていって信じてもらえるかな……影の正体がでっかいカサゴってギャグが過ぎるし」
「塩湖の影響でユニークに進化したって言えば信じてくれるかもよ?」
「そうかな〜……」
そう言うも、それ以外に方法がない。
「一旦街に戻るか」
その独り言に、神山が頷き、桜凛さんは『そうだね』と。栗山さんは軽く笑った。保存のため、でっかいカサゴを凍らせてから街に向かった。
――ギルドに併設している冒険者御用達の店の一角で、神山の帰りを待つ。
名式上は神山がこのパーティーのリーダーなので面倒なことはすべて神山がしてくれる。
「それにしても、めっちゃトゲトゲしてたね。指先でチョンってしてみたい」
「それしたら死ぬと思うよ」
桜凛さんの発言に栗山さんがツッコミを入れる。
そんな光景を横目に見ながら、僕はカフェオレを口に流す。
ここは、カフェ兼レストラン兼酒場なのでいろんな物を頼めるのだ。
さすが王都のギルド。サービスが充実している。
それにしても兼ね備え過ぎだけど。
もう一度、飲もうとした時。右に気配を感じた。
神山が空いている席に腰を下ろす。どうやら面倒事を終わらせてきたようだ。 面倒事だったはずなのに、神山の顔はやけに嬉しげだ。
「なにやら嬉しそうだけど、何かあった?」
栗山さんがそう尋ねる。
その言葉を待っていたかという雰囲気で、嬉々として神山が喋り始める。
「実は、あの倒した巨大カサゴはあの湖の主らしくて、船が出せないでいた原因だったそうだ。それを倒したから主の鎮魂祭。要は祭りが行われるそうなんだ」
「おおー。でも、そこまで喜ぶこと?」
桜凛さんがそう口にする。
バッサリ切っているように見えるが神山はまだニヤニヤしたままだ。
まだなにか隠しているのだろう。
「どうやら、その祭りで仕留めたカサゴを食べられるそうだ。カサゴって高級魚だからあれほどの量を食べるのは滅多にない事だ。出ないのはもったいないと思うけどな〜」
それを聞いた桜凛さんは目を輝かせてその話に食いついている。
そんな桜凛さんを栗山さんが楽しそうに見ている。
「イリムはどうする。一緒に行くか?」
神山が僕に対してそう聞く。
その目には期待が明らかに混じっていた。
正直、誰かといるのは少し怖い。
だけど、前まではもっと怖かった。たしかに変わってきている証拠だ。
だから、僕の答えは決まっている。
「一緒に行くよ。それに楽しそうだしね。」
その言葉に神山は嬉しそう、だけど少しの驚きも混じっているように見える。
そう言えば、神山の誘いに乗るのは何かと初めてかもしれない。
これまでは桜凛さんの誘いに神山が乱入する形だったし。
まあ、神山もただのバカではなくいいばかって分かったからかな。
そんなことを考えていたら、その事にクスっと笑ってしまう。
不思議そうに見られているがこの人たちなら別にいいかな。




