守ってあげるって言ってるでしょ!
「イリムには悪いが、作戦変更だ」
神山が、いつにもなく真剣な面持ちで指示を出す。
「私達と眷属の数は同じだ。魔法が得意な栗山さんには悪いが一人につき一体相手してほしい」
その間も、白い異常個体。白狼の眷属である“レッサーウルフ”はこちらに向かってきている。
そして、それぞれがレッサーウルフに会敵する。
それは神山たちにとって、因縁の対決でもあった――
――こいつを見ると、あの頃を思い出す。
まだ、Cランクになったばかりで喜んでいた時。
これでやっと、行方不明の藤原君を探せると思った時、
呀狼の群れに合った。そいつらは異常に強く。
前のものとは違い、理性的だった。
その連携に、私達の陣形は崩され乱戦となった。
再度立て直すように促すが、混乱と耳をつんざくような遠吠えで指揮が通らない。
そして、とうとう破綻する。
一人の女の子が倒れたのだ。
私と彼女までには距離があり、守りに行こうにも呀狼の速さには追いつけない。
心のなかで諦め、目を閉じる。その時、喧騒としたその場に、澄んだ音がその場に響く。
目を開けると、少女にしか。年下にしか見えない女の子が呀狼の刃を受け止めていた。
その声は可愛らしく、同時に落ち着いた安心できる声だった。
後は一瞬だった。彼女が戦場を駆け巡り、私達全体の負担を一気に減らす。
これで勝てる!
勝利の希望が見えた時に、それは訪れた。
空気が張り裂けそうなほどの咆哮。
私達より、遥かに大きな怪物が現れた。
誰もがこんなのに勝てるわけがないと、そう思った。
一人を除いて。
彼女は刀を納刀する。
その様子を見て。あぁ、あの子でも無理なのか……
そう思ってしまった。だけど違った。
彼女の手もとに小さな電流がほとばしる。
それは、近くでも見えない、小さな光。
運良く、私にはそれが見えた。
私にとって、その光は希望のように思えた。
その光が、私の理性を取り戻した。
すかさず、皆に声を掛ける。
「まだ戦いは終わっていない!彼女が相手しているうちは私達も戦い続けようではないか」
そう言い、皆の気力を回復させる。
その一言で、ある程度復帰できた。
私達の戦闘も再開し。そして、決着はすぐに決まった。
彼女の神速の一撃が、絶望にしか見えなかった相手を倒したのだ。
その光景は今でも忘れない。
肌を貫く雷鳴。遅れてくる衝撃。光が開けた際の高揚感。
すべて、私にとっては光でしかなかった――
――そして今、その相手に対したった一人で正面に立つ。
正直、咲苗のような技巧や、葉月のように魔法を使えるわけじゃない。
いつだって、私は一歩遅れていた。
学業も、部活も、感情も……
その事はかなりショックだった。
だが、それだけで終わってはいけないと思い、猛烈に頑張った。
毎日何時間も勉強した。自主的に練習もした。一人称も大人びてるように私にした。
その結果、努力が報われた。
日本でも名門と言われる高校に入れたのだ。
――だから!俺は正面切って突き進む!
できなかったときは更に突っ込んで突破する。
これが俺の唯一のやり方だ。
そうして、頭目掛け、大剣を振るう。
軽やかに避けられるが、そこをさらに追撃する。
叩いて叩いて叩きまくる。
その時、心の奥で何かが変化した。
それは、自身の心を象徴するモノ。
自身の願いが具現化した思いの結晶――
――固有スキル“英雄たる所以”――
スキルともいえない変な名前だったが、妙にしっくり来る。
長年関わってきた、生来の友かのような感覚だ。
それは、スキルの使い方を身体ではなく“心で”理解した瞬間だ。
そして、その効果が発揮させる。
刀身が光り、不思議な、神秘的なオーラを放つ。
それは、私が憧れたような希望の光だった。
そして、両者は再度正面に立つ。
静寂なる緊張がその場に走る、
感覚が研ぎ澄まされ、耳から音が離れていく――
気づいたときにはレッサーウルフは光の粒となり霧散する。
黒雲に一筋の光が入り込み、カルデラの中心に人一人分くらいの光の水たまりだできる。
それは、神山 信次自身が切り開いた。希望の光だった。
――さて、別れたのは良いものの。どうやって倒そうかな?
レイピアって、切るってよりかは刺したり弾いたりだから巨体相手には効きにくいんだよね。
ならば、目指すべきなのは急所の刺突かな?
戦い方の方向は決まった。後は冷静に対処すれば良い。
大丈夫、私だってBランク……こいつと同格だから。きっと大丈夫。
イリムに言われとことを思い出して。
『魔力の流れを読めば、相手の急所が分かる。魔物の場合は魔核が弱点だ』
たしかこう言ってたっけ?
私は、弱点を見つけ出すために。スキルを使おうとする。
だが、それを許してくれるわけがなく、噛みつきで妨害してくる。
跳躍で華麗に回避し、背後から顔めがけて穿つ。
動きながらでは急所は特定できない。一番の最適解がこれだ。
その斬撃を、後ろ足で蹴り上げる。
流れのまま、爪が私の眼前に迫る。
えっ、やば――
――彼を初めてみたときは『物静かな人だな』と思った。
上手くクラスに馴染めていなかったようで、いつも一人外を眺めていた。
それが可哀想と思ったからか、私はその人、藤村くんに話しかけた。
「一人は寂しくない?」
「多くと関わったほうが寂しい思いをする。それより、この学校髪染めるのだめだったよね?」
彼は、私にそう尋ねた。
「染めてるって?別に黒髪なんだし染めてるわけ――」
「頭頂が、塗りきれてない。」
そう言われ、動悸が早くなっていくのが分かった。
その事がバレたら、また昔のようになってしまうと思ったからだ。
けど、彼の言葉は予想外のものだった。
「コンプレックス?別に君の過去を知っているわけじゃないけど、別に隠すほどの物じゃないと思うよ。高校なら羨む人のほうが多いでしょ」
それは、低い声だった。
目は暗く、光がないように思える。
だけど、その言葉は私にとって衝撃的だった。
今まで否定されてきたこの髪を、否定しなかった。
それだけで、私にとっては希望を抱けるものだった。
だから、彼の目にも光を灯したいと思った……
転移が起きたのはそれを決めた3日後だった。
転移先に彼の姿はなく、不安が胸に渦巻く。
恩を返せないかと思ったからだ。
藤村がイリムとして再開した時、雰囲気こそ変わらなかったけど目に光があった。なんだか悲しかった。
私の優柔不断さが彼の闇を聞く機会を失くしたように感じた――
だからこそ、今度こそ全てを見抜く。
そして、晴れやかな気持ちになってやる。
――固有スキル“清き眼”――
その時、世界が止まる。
正確には止まって見えるほど遅く見える。
それは、自身の動きが速くなるわけではない。
だが、敵の急所を狙うだけだったら十分すぎるほどの猶予だ。
……あそこに魔力が集まってる。
そう分かり、身をかがめ眼前の爪を避ける。
体制が崩れた敵など、スローの世界では的同然だった。
“落花”
その突きには“清き眼”の特性。
神聖魔法の効果が付与されており。
レイピアから離れた残滓が桜のように舞う。
桜凛咲苗、その名を象徴するかのような技だった。
――さて、どうしようか。
栗山が最初に思ったのはそれだった。
敵の皮膚は厚く、とうてい魔法は通りそうにない。
どうするか悩んでいると、不思議な感覚に陥る。
『聞こえているか、人間よ』
声が、頭の中に響く。頭の中だったが正面。呀狼から音が聞こえた気がした。
「聞こえてますが……もしかしなくてもあなたですよね?」
『話しが早くて助かる。悪いことは言わぬ早くここから立ち去れ』
そう、命令する。その目には狂気以上の理性がみえた。
「それは、自分たちの主が殺されるのが嫌だから?」
私は、冷静にそう言う。
『愚問だな。殺し合うのは魔物じゃ礼儀と同じだ。強いやつが勝つのに異論はない。ただ……チッ、もう時間がない』
そう言って、私の言葉を否定する。それよりも時間ってなんだろう。
その答えが出る前に、相手から動き出した。
だど、考える時間をくれたおかげであれが使える。
そうして、迫りくる的に真っ向から立つ。
本来、魔法使いは近距離に入られたら何もできずに死ぬが、どうやら違った。
手には、冷気をまとった氷の大剣。
それが内側から光をまとい、周辺を静かに照らす。
あまりの魔力密度で高負荷がかかっているのだ。
その魔力量はイリムよりも多い。
それもそのはず。私には凄いスキルがある。
――固有スキル“昇華”――
これに魔力を通すと10倍以上に膨れ上がる。
二回目はできないが、それだけでとんでもなく強い。
もともとイリムよりほんの少し少ない魔力量だったので、
イリムより多くなるのは当然だった。
それと魔法を組み合わせたのがこの魔法。
“冷華”だ。
その冷華自体も昇華の影響で威力が増している。
準備に時間が掛かるが、威力だけならイリムの“紫電”よりも上だ。
そして、このレッサーウルフはイリムの紫電にすら耐えれれていなかった。
そうなれば、自ずと結果は見えてくる。
静かに、黒光りする髪をなびかせる女性と、背後で真っ二つになる狼だった。
界を渡った際から持っていたスキル。
初めての使用だったが、思いの外体に馴染んだ。
周りを見ると、ほぼ同時に倒れる巨体が見えた。
光の粒に変化した身体の隙間からそれぞれが見えてくる。
信次と咲苗も無事に倒せたみたい。
そうして、作った大剣を魔力に還元する。
まるで、霧になったかのようにすっと消えたそれは。
なぜ持てるのだろう、と言う疑問を神山たちに残した。
紫電に関しては孤転にて今から書く。




