私が守ってあげる。みーんな平等に
朝になり、朝日がテントの隙間から目に入る。
布を押し、外に出て背伸びをする。
清々しい朝だ。
そして、魔力感知を使う。
……周りに危険因子はいない。
危険地域の近くだから身構えてはいたが、まだ大丈夫そうだ。
そうして、僕の武器を取り出す。
呼びにくいし、今度名前でもつけようかな?
そう思いながら基礎練習を始める。
もう少しで危険地域に入るのだ。ここで体を慣らしておかないと。
もう少しで百回目に到達しようかという時に栗山さんが起きてきた。
まだ眠そうで目をこすっている。
と思ったら眼をカッぴらいてテントに戻ったかと思ったらカシャって音がした。
スマホで撮ってきたのだ。相変わらず物好きだ。
「イリムのポニテ…それに神々しい朝日が加わって……かわいい…」
そう言って、撮ったばかりの画像を見てうっとりしている。
どうやら、邪魔だからくくっていた髪型を気に入ったみたい。
まあ、これ楽だから僕も好きだ。
その後は、桜凛さんや神山さんも起きてきた。
桜凛さんは眠たすぎて髪型が変わったことにすら気づかない。
肝心の神山は泡吹いて失神してる。
とりあえず体を横にして置いておく。
気絶させる手間が省けたので結果オーライ?
一番最後はシアだった。
まあ、子供は寝て育つって言うし、全然構わない。
もし神山が最後だったら頭をペシぃってするけど。
しばらくして、神山が目覚める。
「さっきのは……夢か。イリムがポニテなんてするはずがない」
そう言って虚言をいう。
また倒れられても困るのでポニテは解除した。楽なんだけどな。
さて、神山も起きたことだし、模擬戦をしていこうと思う。
チーム分けは僕対全員。それに異論を言うものはおらず、納得する。
イリムならできると思っているからだ。
そして、模擬戦は静かに始まる。
まず神山が考えなしに突っ込んでくる。
横払いを上に弾き、体制を崩す。
この戦い急所をさわれば戦闘不能とみなすので腹めがけ蹴りを入れようとする。
その時、神山の背後から気配を感じ、距離を離す。
直後に、風が吹き抜け草花が揺れる。
桜凛さんのレイピアによる刺突だ。
それを栗山さんの風魔法で威力と射程を伸ばしたのだ。
次の瞬間、無意識のままに刀を左に振り下ろす。
と同時に、身体を右に軽く跳ぶ。
手に、何かを弾く感触が伝わり、元いた地面が軽く切断していた。
シアの糸だろう。やはり、シアが一番厄介だ。
今のは運よく躱せたが、次もできるとは限らない。
僕は結界を張っている以上、傷つくことはないが当たった時点で今回は負けなので本当に厄介だ。
そのまま、戦闘は拮抗し、制限時間が迫ってくる。
移動しないといけないのでずっとはできないのだ。
そこで、僕の一部制限が無くなる。
神山曰く、こうでもしないとすぐに負けるからだそうだ。
そして、その制限は、
・瞬歩禁止
・思考加速禁止
・魔法禁止
・武器の生成禁止
・魔力感知
この五点だ。
そして、この中で解除されるのは瞬歩の禁止だ。
魔法は範囲が広すぎるゆえ妥協でこれなのだ。
正直、神山たちの判断は正しい。
魔法はガルの影響でバカほど強い。
武器の生成も戦闘の幅が広がるから悪手だ。
思考加速は見える世界そのものが違うと言ってもいいので論外。
その中で一番マシなのが瞬歩だった。
だが、この戦い方ではそれも悪手だった。
制限解除の時間になった。
瞬間、神山が急に倒れる。
その後も、姿は見えないのに感覚だけが残っていき、シア以外の全員が脱落する。
そして、5分間の一騎打ちが始まる。
心配する相手が消えたからか、その空間は糸が乱れ狂い風を切る音が無数に聞こえる。
その中を、断片的にイリムが姿を表したかと思ったらまた消えて、知らぬ間にまた避けてる。
シア自身はイリムに不可視の魔法を教えられているので透明だ。
そのため、糸から場所を特定するのだが、根本に行くほど見えにくくなる。
魔力操作の精度が上がるからだ。
そのため、ほぼ不可視の糸をかいくぐりながら、同時に不可視の相手を見つけないといけない。こういう場合こそ広範囲の魔法が活躍するのだが、制限で使えない。
瞬歩でシアの背後に回ろうとする。
だが、急旋回は身体への負荷が大きく、一瞬だけ動きが止まる。
シアの目には、その“止まった瞬間”しか映っていなかった。
それでも彼女は即座にその位置へ攻撃を叩き込む。
糸特有の全体からの飽和攻撃――
それだけで、十分すぎるほどの脅威だった。
そして、残り時間が迫っていき。
「やったー、お姉ちゃんに勝ったー」
シアの声がその場に響く。
僕の勝利条件は時間内に全員を脱落させる。
神山たちの勝利条件は時間内に一人でも生き残るだから、シア達の勝利となる。
うう、師匠と同じポジだったのに弟子に負けてしまった。
一切当たってはいけないから当然っちゃ当然だけど……ちょっと落ち込む。
そうして、テントの隅で三角座りでうなだれる。
桜凛さんはなだめてくれるが、栗山さんが写真を撮っているのはおかしいと思う――
僕のうなだれも回復したので、歩き旅を再開する。
でもやっぱシアに負けたのは悔しい……
そのまま、進んでいく。
条件付きでも負けたのは、そりゃ相性もあるがひとえにシアが強くなったからでもある。
今なら、単純な強さだけなら神山たちよりも上だろう。
その分、安心できるってことだ。
なんせ、すでに景色が変わってきているのだから――
先程まで青々していた空は黒くなり始める。
魔力には光を出す“閃光魔力”と、光を吸収する“暗黒魔力”がある。
基本的に、この魔力は世界を循環せずにその場に留まり続けた魔力が、エネルギーを再度貯めるためになると言われている。
そして、空を覆うほどの量。
これは、想像もつかないほどの規模の戦闘があったからだろう。
そして、その魔力の影響で、足元の草木は変化している。
黒色の斑点や、異常成長……完全に黒くなっているものもある。
この場所は、いわばバカでかい魔力溜まり。
Bランク上位の魔物が生まれても不思議ではない。
そして、暗黒の空が僕達を覆い尽くす。
……可視化されるほどの魔力。差し詰め暗黒魔力雲といったところか。
黒い雲は空を覆い尽くし、永遠の夜をその場所にもたらす。
雲の魔力だけでもAランクが生まれそうだったが、あまりの対流の速さにより身体が出来上がる前に砕け散るのだろう。
空間そのものの魔力濃度も異常だ。
普通の人間ではまず耐えられない。
神山達は世界を渡る際に魔力に慣れているので問題はない。
シアも自身の魔力がかなり大きかったようで長期間――2日ほど滞在しなければ問題はないだろう。
僕自身は魔力は半分は血みたいなものだからそこまでの脅威ではない。
だけど、シアのためにもすぐに終わらさなければ。
できれば、桜凛さんたちといっしょにお留守番してほしかった。
それもの、この危険区域のせいでできない。
Bランクがポコジャカ生まれるので離れていたほうが危険なのだ。
そのまま、僕達は目指す場所。多くが帰ってこなかった場所に進む。
たった一人が残してくれた情報のお陰でその場所は特定できている。
そして、その場所についてしまった。
気配を極限まで消し、目視にて確認する。
魔力感知では気づかれてしまうかもだからだ。
そして、岩山とかした場所の隙間から敵を探す。
山の真ん中がカルデラのようにくぼんでいる。
その中央に佇む一匹の狼……
純白で清楚なものだが、その眼は凶器に満ちている。
その姿は、夜闇に移る月光のようだった。
「作戦を伝える、やつは狼。今まで戦ったのと同じスピード、威力が高いタイプだと思う。だから、僕が前線で戦う。神山は出てくる可能性のある雑兵の掃討。桜凛さんは瞬間威力が高いから僕に合わせて攻撃してほしい。栗山さんはその援護。シアはただ生きることだけを考えて」
そう、小声で伝える。
その言葉に全員が小さく頷く。
そして、討伐が開始する。
だが、僕はここで終わらせる。
羽織っていた上着を脱ぎ、戦闘用に繕った服に変わる。
この服には背中が大きく見えており、翼を出すのに最適な形をしている。
このレベル帯になれば防具など紙切れ同然なので別に問題はない。
そして、イリムが宙を駆ける。
白狼の頭上に飛び、一気に降りる。
その羽根は、前よりも煌々と輝いている。
それでも、最適化された魔力操作があるので魔力切れは無くなった。
そのまま、刀を納刀し、鞘に電力を貯める。その電圧は前に使ったときよりも遥かに強く、絶縁体にも関わらず、電光が漏れ出ている。
それに加え、身体強化と魔法による身体強化で極限まで動きを早くする。
思考加速もフルで使用し、タイミングを見計らう。
そして、すべての力が解き放たれる。
抜刀と同時に腕に瞬歩を使用し、斬撃をさらに早くする。
衝撃がほとばしり、地面が、空間が揺れる。
一連の様子は、まさに電光石火のごとくだ。
重厚な重低音は勝利を確定する祝砲のように神山の耳に響く。
あの攻撃を食らって、しかも不意打ちとなっては生き残れる生物はいないと。
だが、その直後にその考えは甘いと知らされる。
衝撃で地面がくだけ、砂塵が舞う。
そこから、一つの物体が飛び出す。
それに追従するように、白い光が線を成す。
その眼は、狂気的だったが、理性的でもあると神山には感じられた。
肝心のイリムは、空中で停止し、再度白狼に斬りかかる。
その光景は、演舞でも踊っているかのようで介入できる余地はなかった。
その時、白狼が天に吠える。
その体が光ったと感じた直後に3個の光球に変化する。
中からは、白狼ほどの光沢はないが同じような白い狼が出現する。
眷属を生み出したのだ。
そして、その姿には見覚えがある。神山たちがイリムと再開したときの、あの狼――イリムが白い異常個体と呼んでいた狼だった。
そこで気づく、なぜイリムは一体しか見えない時に私に雑兵の処理を頼んだのだろうか。
その答えがこれだ。召喚するであろう眷属を戦闘に入ってほしくなかったからだ。
その事に気づいた神山は、危機的状況であるにも関わらず自然と笑みが浮かんでいた。
イリムとなら、みんなとならこの怪物にも勝てるだろうと。
同じようなことを思ったのか、横を見るとみんな希望を見出したような顔をしていた。
シアは、横穴に隠れてもらい、召喚された三体を相手する。
その初撃に、イリムの戦いに入ろうとしている三体に中位魔法“ポイズンニードル”を放つ。
直接的な攻撃にはなっていないが、気を引くだけなら十分だ。
そして、一人対一匹の、それぞれの戦いが始まる。
ここの場所の背景が知りたくば、
『孤転 〜公開可能な情報〜』の「魔物」項を見やがれございませ。
——以上、ささやかな宣伝でした。




