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支配者

今は、馬車に揺られて移動している途中だ。

まだ街の喧騒がかすかに聞こえ、朝なのに栄えていることが分かる。


ふと、周りを見渡すと朝早かったため二度寝している仲間たちが見える。

シアは寝ずに糸の操作の練習をしている。


指先の糸に視線を落とし、真剣に励んでいるがその顔には幼さが残っている。

肝心の糸は今では自由自在とまではいかないが、それなりに動かせるようになっている。


シアとは親和性が良いと思ってはいたが、ここまでとは思っていなかった。

誇張無しでここまでになるのには20年はかかる。


シア曰く、

「お姉ちゃんのマネをしたらできた」

だそうだ。


いやいや、普通それだけで会得できる技術じゃない。

……シアの成長は加速度的に上がっている。

これならBランクも現実的になってきた。


そして、シアの練度は着々と上がっていき――

次の街につく頃には糸の動かし方はほぼマスターしていた。


それだけで、Cランク一歩手前まで来ているのだから驚きだ。

当の本人は自身の上達を全身で喜んでいる。


それを見た神山が、私もと挑戦するが、もちろん一切動かない。

踏ん張っても無理なものはできないのに試し続ける姿は面白い。

その光景がシアのご機嫌を更に高める。


とりあえず、練習を始めてからたったの3日で基礎を習得できたのは僥倖だ。

次の段階に移ってもいいだろう。


「お前さん達、次の街が見えてきたぞ」


クローバーさんが視線は変えずに僕達に伝える。

もうすぐ着くから準備しとけということだ。


いい感じのところまで行けていたが……仕方ない。

一旦中断して宿で完成させよう。


僕は、荷物の整理――と言っても、小さい手提げカバンと刀を手に持つだけだが。

ほか三人は神山以外同じようなものなので、準備は素早く完了する。


シアも、特に持ち物はないので手ぶらだ。

端から見たら神山以外軽装備にしか見えていないだろう。


そのために神山は大荷物である。

軽く20kgはあるだろう。


それでも、すべて鞄にしまってあるので準備自体は比較的早く終わる。

眼前には巨大な壁が立っている。最近では見慣れた光景だ。


「身分の証明をお願いします」


城壁にある関所でそう言われる。

いつも通りに銀のプレートを提示する。


その事に驚かれるのにも最近では慣れてきた。

慣れって怖いね。


他三人も同じ色のプレートを出す。

彼はそれを受け取って、1枚ずつまじまじと見る。


Bランクの4人パーティーはかなり珍しいので偽造じゃないか疑っているようだ。

当然、そんなことはなく街に入る。


シアに関しては、一時的に保護者の立場と伝えたら快く通してくれた。

優しい人で良かった。


その流れのまま、僕達はクローバーさんの店に向かう。

お世話になったのだ、少しくらい礼をするのが日本人というものだ。


店の外観は前世で見たことのある感じだが、壁の一部がガラス張りで中の様子が見やすくなっている。前はありふれているものだったが、この世界では革命的だろう。


なにせ、ガラス自体が高価なのにこの大きさのものはかなり高い。

クローバーさんの商売がうまく言っていることを静かに物語っている。


中には、生活用品や冒険者向けの砥石などが……砥石!

しかもこれ、結構良い品質。――正直欲しい。


“ホンキ”にも砥石はあったが質が悪く、種類も少なかった。

だけどここのものは良いものばかりだ。


消耗も遅く、荒いのからきめ細やかなものまで――

この前買った刀に小さなこぼれがあったから荒いものから欲しかったのだ。


でも聖銀貨一枚はかなり高い。しかも砥石一個につき一枚だ。

加えて、細かくなるほど値段も上がる。一番高いのは聖銀貨三枚だ。


だけど、ここで全部買っておく。

命に関わるし、砥石って結構複雑だから“創造”で作り出せないのも理由だ。


そう思い、荒い順から手に取っていく。

最後の物を手に取る。


ん?

手触りが違う。


手に持っているものを見ると、砥石ではなく面直しだった。

うーん、今はいらない。だけど長い目線で見たら後々必要になる。


……ここまで良いものもなかなかないし、今買っておくか。

そう考え、僕はレジに進む。


クローバーさんの策略に引っかかっているの事は分かっている。

商売上手だ……


多くの砥石を胸に抱え、レジに並んだ――



「流石に使いすぎじゃない?一回で14枚も聖銀貨を使うって……」


神山にしては冷静な指摘だ。


「たしかに、今回は使いすぎた。それでも命に変えられるものはないからね」


桜凛さん達はイリムらしいと首を縦に振っている。

シアも「そのとおりです!」と賛同する。


それとは反対に、神山は暗い顔をしている。

なにか気に障ることを言ってしまっただろうか?


「急に黙るけど…大丈夫?」

「ああ、そっちこそ大丈夫か?」


「え?、別に大丈夫だけど……」


どういうことだろう?神山が暗い顔なのは僕を重んじたから?

まあ、深追いはしない方が良いだろう。

明確な証拠はないが、今はそのほうが良い気がした。


宿に戻り、途中で止まっていた作業を再開する。

思考加速をフルで使っているので頭が締め付けられるようだ。


それだけで済んでいるだけで異常なのだが、今は関係ない。

数日かけて作る予定だったものを今夜中に作らないといけないのだ。


粗悪品を渡して変な癖ができてしまってはダメだからだ。

だけど、店によったのはいいアイデアになった。


形をどれにするか決めかねていたからだ。

それも、完全に決まった。


ただ、あの形にすると根本的な術式を変えないといけない。

ちょっと大変だろうが設計の構想を練ると同時に、解析も併用しないといけなさそうだ。


あー……、明日は馬鹿になってそうだなー。ついでに一人称も変わってそう……

今のうちに明日の僕に書き置きを残しておいたほうが良さそうだ。


そう決めると、机の上の羽を取り、インクをチョンチョンと付ける。

それを済ますと、机より大きい紙を取り出し、本格的な設計に取り掛かる――



――やっと終わったー。

長かったー。ここまで長く考えるのは久々だったからさすがの私も疲れたよ……

糖分が欲しい。


気づけば朝日が登っており、空が赤く染まり始める。

現実の数時間を数十倍に引き伸ばしてやっと終わったからかなり大変だったよ。


完成できたものが良すぎるので桜凛さんに褒めて……て、なにこれ?

私は机の上の紙を見つけた。きれいに畳まれているので手紙なのだろう。


それを開けて内容を見る。


『明日の自分へ


おそらく、頭を使いすぎて、バカで幼児退行している一人称が私の疑似二次人格状態になっているからくれぐれも理性を保っておけ。黒歴史を残したくなくば、以下の事を厳守せよ。


・誰にも甘えるな

・一人称は僕にしろ

・できるだけ理性的に考えろ


最低限これを守っておけば大丈夫だろう。

幸運を祈る。』


なるほど、だいたい理解できた。

今は頭を使ってを前と比べて馬鹿になっている、と。


そう感じ、過去の記憶を思い出す。

それと今の感覚を照らし合わせるとたしかに幼く見える。


どんなに馬鹿でも理性は本物なのでその事は理解できた。

だが、注意力が欠如している今ならヘマが出かねない。


言動は慎重に考えないとね……



最後の街を出る。流石にクローバーはついてこなかった。

危険地帯に一般人が行けるわけがないので当然だと思う。


そして、いよいよ目的地の近くといった所だね。

街からもそこそこ離れたからもうそろそろいいよね?


そう考え、亜空間から一つの武器を取り出す。


「シア、こっちおいで」


シアに関しては常に優しい声だが、いつもとは違う別方向のやさしい声だった。

その事にイリム愛好家の一人だけが違和感を覚えたが。

残念ながら違和感で終わってしまう。


そして、シアにその武器を手渡す。


「指輪?」


そう、武器というのは指輪に似せた魔法武器。名前は“タルンヘルム”。

神話の中の道具の名前からつけたものだ。


「これはね、魔力を通すと糸が出てくるようになってるんだよ」


そう言い、予備で作った劣化版の物を出す。

そして、微量の魔力が流れ始める。


指輪が煌めいたと思った瞬間に、真ん中のくぼみから糸が出てくる。

この糸も、前よりも魔力の伝わりが良くなっており、魔力があれば無限に出てくる。


そのまま、ちょうどいいところにある岩に向けて糸を当てる。

それだけで、岩が豆腐のように切断され、断面は鏡面のように陽光を反射する。


その光景にシア含め、一同が唖然となる。

誰もが、糸がここまでの凶器になるとは思っていなかったからだ。


それもそのはず、この武器は魔力操作が要だ。

体質上それが得意なイリムにガドの技術が加わったのだ。

要因はまだある。糸には、“断絶”“強度増加”“微振動”――

他にも様々な魔法が編み込まれた糸が出てくるのだ。弱いわけがない。


最終的な武器のランクはAランク上位。

伝説中の伝説に出てくるほどの武器だ。


その光景を見たシアが、好奇心に駆られ指に指輪をはめる。

左の小指にぴったり嵌り。計算され尽くしたようだった。


シアが魔力を通す。

プラチナの指輪の中央のみぞが淡く光る。だがそれは使用者にしか分からないほどの極小の光。シアにはその光がイリムの見えない絆の象徴にように思えた。


その溝も完全な円形ではなく、魔力伝導率をあげるための最適な構造となっている。指輪自体の円形もその効果を向上させている。


プラチナという材質も、肌への影響を無くすためのイリムのこだわりだ。

そのプラチナ自体もイリムの魔力が込められた影響で魔力消費が極限まで抑えられている。


そして、糸が複数本、小さな指の隙間に現れる。

近くで見ると、いくつもの魔法の術式構造が見られ、オパールのように輝いている。


その様子に、シアが恍惚とした笑みを浮かべうっとりしている。

魔法は科学だからそうなってしまうのも無理は無いと思う。


私も完成したときは思わず数時間見惚れてしまったし……


「さて、シア専用のちゃんとした武器もできたし、ここからは練習内容を一段階上げていくよ。ついてこれるね?」

「うん!」


そうして、さらなる修行が始まる。


はじめとして、糸からダダ漏れている魔力を隠しながら動かす練習をしてもらう。


言葉にすると簡単だが実際はとてつもなく恐ろしい。

熟練の人が逆立ちで逃げていくほどものだ。


それもそのはず、糸は体の一部ではない。そしてとても細い。

その中に魔力を隠すだけで恐ろしく難しい。


極めつけは、隠せたとて動かせるかどうかだ。

圧力がかかっていない魔力は簡単に動く。だが圧縮された魔力は比べ物にならないほど操作しにくい。


水の入ったホースから、その水が凍ったホースに変わったようなものだ。

それを柔軟に曲げろと言っているのだ。理不尽だろう。


だが、それが一番シアの性格にあっている。

シアは気配の消し方が得意だ。それを糸の魔力が漏れていたら十分に発揮できない。


そのため、これは習得してほしいのだ。

それだけで一気に強さが変わる。


糸使いの攻撃は指や糸の軌道を見て回避する。

その目印が見えないのだから強くなるのは当然だ。


そして、シアの進捗を見る。

流石にまだ動かせてはいないみたいだけど……


あれぇー、すでに糸から漏れる魔力がほとんど感知できないぞー。

これについて聞いたら。『お姉ちゃんの魔力の動かし方を見たから!』

と言われた。普通見えたからってできないでしょ……

そもそも魔力を見れるだけで珍しいのに。


そしてこの感じには既視感がある。

夕方あたりではヤバそうになっていそうだ。そしてその予感は的中する。


シアが、完全に気配を消しながら糸を使えるようになっていた。

前に伝えた気配のなじませ方を同時に使っているので魔力探知のみではシアを捕まえることはできなくなってしまった。


いずれ、目視も魔法でカバーするようになりそう。

そうなればいよいよ手がつけられなくなりそう。今も直接見ても見失いそうになるのに……


さて、時間も経ってだいぶ頭がもとに戻ってきた。

幸い、大変恐ろしい失態は起こしていなさそうで良かった。


神山はともかく、桜凛さん達の前で私なんて行ったらどうなるかわからない。

最悪、その場でファッションショーすら始まる恐れがある。


流石に考えすぎだろうが常に最悪を考えたほうが良い。

そのほうが色々と安全だからだ。


さすがにシアの同行は予想外だったが、ここまで強くなれば大丈夫だろう。

単純な強さだけなら神山達と同等かそれ以上だからだ。


明日からは模擬戦主体が良いかな?

そんな計画を立てながら一日を終える。



目的地(死地)まで、あと2日――

読者の皆様方、皆様はこう思いでしょう。

「シア成長速度おかしくね?」、と。私もそう思います。

ですが、シアの過去を知ったら別におかしいというわけでは無いので、

なぜかを知りたいのならシア自身から聞いて下さい。


まあ、シアは孤児ですので、しかも物心がつく前からですので事情を知っているのは国王くらいでしょうか?


※ホンキ 、ホン・キドン・キの略。

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