温もり
今にも意識が飛びそうなのを気合で保つ。
なんせ、今はシアがいるのだ。不安がらせたらダメだ。
視界の端が黒くなっているのが分かる。
身体もふらついている。その動きに合わせて筋肉を緊張させ、揺れを抑える。傍目には動いていないように見えるはずだ
目線を下げると、シアが足をパタパタし幸せそうにしている。
ここまで誰かに依存するのは家族以外で、2回目かもしれない。
そう気づくと胸が締め付けられる。
また失うのは怖いからだ。
だけど、その恐怖もシアの温もりが流してくれる。
頭を撫でればそれに呼応してシアも笑顔になる。
信じられるだろうか。
死んでいるとは言え、ここはダンジョンの中なのだ。
空気中の魔力濃度は他よりも高い。
ダンジョン産の魔物は生まれないが、空気中の魔力から魔物が生まれてもおかしくは無いのだ。
「それで、今後どうします?魔法陣は壊したので放おっておいても反乱は起きますが、無能が王になるには許せません」
僕はレフォルス達にそう告げる。
「どうするって言っても、まあ、流れに身を任せるだけだが……」
「なら、流れに身を任せませんか?」
僕はそう問う。
続けて言葉を紡ぐ。
「レフォルスさん、あなたが新王になりませんか?」
レフォルスは放心している。
ので、続けて言う。
「あなたは今回の件でリーダーシップがあることがわかりました。加えて信頼を寄せやすい性格です。民衆の支持は得やすいでしょう」
そう言い終わると、レフォルスの脳が動き出す。
「いやいや、それは流石に……第一俺は頭が悪い——」
「政治など別の奴らに任せればいい。頭のいい奴など民衆の中にゴロゴロいますから」
レフォルスが言い淀んだ。
そこを追撃する。
「王など象徴でいいのです。“君臨すれど統治せず”王などこれが王の役目です」
周りの奴らもそれに賛同する。
だが、さすがのレフォルスも反撃をする。
「しかし、急に血筋が変わったら内戦のおそれが——」
「逆に血筋を変えないと内戦が起きる可能性が上がります。考えてみてください。王都全域の人々の自由意志を消し去った家系のものに従いたいですか?」
そう言うとレフォルスは黙り込む。
唯一気づいた反撃を逃したからだ。
だが、それでも食い下がらない。
「それども一定数の人は反対するだろう」
「まあ、貴族の人たちはそうでしょうね。ですが、それは適当な奇跡でも見せればいいと思いますよ。例えば地形を変更したり。ここの宗教は神を信じているので神の加護があると思えば誰もが信じてくれるでしょう」
レフォルスがとてもおかしな変顔を披露する。
とても悩んでいるみたいだ。先程の魔法を見て『イリムなら…』と思ってしまったようだ。
「別にならなくてもいいですよ、僕は自由な選択を尊重しますから。ですが、ここで王にならなかったら、内戦は確実に起こり不要な血が流れるでしょう……」
僕としても、シアたちやクラスのみんなが争いに巻き込まれるのは望まない。
その時、レフォルスが唸った。
と同時に口を開いた。
「どっちにしろ選択肢はねえじゃねえか……分かった。俺は王になる」
その時、その場の空気が一気に熱を帯びた。
大人たちは熱狂し、子供たちはとりあえず喜んでいる。
意味はわかっていなさそうだが。
そうと決まれば王とその他のクソ大臣を政治的に消し炭にしなくては。
あの規模の魔法陣だ、王一人でどうこうできるものではない。
あのガルとかいうやつが作ったとしても王宮に隠し扉がある時点で関与しているのは明確だった。
そのため、王都に向かったが今回は正面から向かう。
これは大衆が正気に戻った今そのプロパガンダを見せておいたほうがいい。
そのほうが後の支持を得やすいからだ。
彼自身はBランク、地方的に見たら英雄だろう。
なんせ、今の勇者を同時に5人は相手できるだろうからだ。
神山、栗山、桜凛のチームだったらぎりぎり勝てるだろうが、その他だったら確実に負けるだろう。
そんなわけだから英雄王と言っても皆信じるだろう。
事実、今回の改革はレフォルスを先導して行う、広告がなくても自然とそう呼ばれるだろう。
そして、僕達は地上に出る。
民衆はすでに混乱しておりパニック寸前だ。
その状態で僕はこう告げる。
「皆のもの、この言葉を信じてくれ。まず、この国は腐っている。そしてその腐敗にいち早く気づき行動していたのがこの英雄、“マティオ・レフォルス”だ。そして、彼はその腐敗を断ち切り皆の自由を取り戻した。今この時を保って、私達はこの男を新たなるの王に推薦し、王宮に乗り込む。異論があればついてくるな。それ以外のものは……」
僕はそう、一呼吸を挟み——
「我々に続け!」
そう言うと国中に熱気が波のように伝わる。
イリムは、古代魔法、“空間映像投影”で英雄の姿を見せ、“音声拡張”で王都全体に声を届けた。どちらもガルが渡した魔法だ。
そして、イリムの声にはカリスマ性があり、レフォルスも見た目には先導性がある。
そのダブルコンボで一瞬で街の支持をかっさらったのだ。
その後はスムーズに進んだ。
王宮についてちょっとした上級魔法を見せたらクソ大臣はすぐに降伏した。
意外だったのは主犯が大臣のみで、王自身は何もしてなかったそうだ。
まあ、それが本当であれ嘘であれ国の腐敗に気づけなかったのは王の過失だ。
それを言えば、王自ら失脚し、何ならレフォルスを支持してくれた。
これなら予定よりも早く済みそうだ。
途中、神山が近づいているのを感知したが同時に桜凛さんがシバク光景が視えた。
ありがとう桜凛さん。栗山さんは倒れた神山を撮るのをやめようか。
そして、今回の表の悪者、大臣たちの処遇に関してだ。
今回は一番の懸念だった王自身が自ら降りた。
そのため無血革命で幕を下ろしたい。
だから大臣どもは地下牢で終身刑にしようと思っている。
民衆からは反対の声が上がったが、『歴史上一番平和な改革として名を残せる』、
と言ったら反対者はいなくなった。
チョロい。
その後はスムーズに事が運び、同日の5時。
王の戴冠式が行われた。
そうやら前王が急ピッチで行ったらしい。
その意図がどうであれこちらとしては嬉しい限りだ。
そして、新王の演説が始まる。
「えー、初めに言う。俺は王なんかの器じゃないと思っている。頭が足りなく知恵もない。だからこそ、今足りてない人材を集めたい。こんな俺の右腕になりたいやつは歓迎する。そして、過去の腐敗を断ち切るため、この国の名、“ドミニウム”を捨て、新興国“エルピス”に改名する。俺達と一緒にこの国を変革しようじゃねえか!」
そう言い終わると眼前に広がる民衆は一気に盛り上がる。
王としては0点の演説だろう。だが、人としては満点だったと思う。
そう感心している時に、晴れ渡る空に5つの点が現れ、次第に大きくなる。
このタイミングでドラゴンが群れをなし迫ってきているのだ。
民衆がそれに気づいた時に王の近くから一筋の光が生じる。
それは、羽を出しドラゴンに向かうイリムだった。
そんな目立つ行為は通常のイリムは絶対にしない。
ましてや人間の国で人じゃないと証明しているものと同じ。
だが、今回に限ってはそうではなかった。
一般人から見て高速移動する物を正確に見ることはできない。
そのため、イリムの純白の羽は天使の翼のように見えた。
そして、イリムの鎌がドラゴンの首をはねる。
その死骸は街の外に落ち、街への被害は皆無。
返り血も魔法で遥か遠くに飛ばす。
そして、それは神の奇跡と皆が思う。
この国の最初の危機に神が使いを送ったのだと。
それにより、新興国エルピスは最高の支持率で幕を開ける。
まあ、イリムのことを隠蔽するために“イリムを守る会”が大々的に『あれは天使で間違いない』と公表。それにより、“イリムを守る会”は“白翼会”へと昇華し、国際的な宗教の始まりとなる。
だが、イリムがその事に気づくのはまだまだ先の話。




