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吹き抜けた空

かなり広い空間の中心に逃げたあの男が立っていた。


彼を中心に魔法陣が淡く揺らめき、不思議な感覚に陥りそうになる。


「素晴らしい。この空間で意識を保っていられるとは。」


そう言って謎の男がイリムを褒める。

ここは魔法陣の中心、普通の人間なら精神が耐えられない負荷がかかる空間なのだ。


「さっきとは……随分違うね。口調もそうだけど、一番は見た目かな?」


イリムが言った通り、男の見た目はかなり違っていた。

髪色に変化がないが、目の周りが黒くなり、猫のような赤い瞳孔をしている。

一番の変化は、頭から生える特徴的な角だろう。


「ああ、さっきは奪った身体の精神に引き寄せられてしまってね。我としてはとてつもない失態だ」


そう言うが、残念そうには見えず、

むしろ愉快そうな不気味な笑みを浮かべている


「その言動を聞くに、差し詰め、“デーモン”と言ったところかな?」


「さて、どうだろうね」


そう言うと、男は思い出したかのように言う。


「ああ、自己紹介がまだだったな。我が名は“ガル・ラビス”。人の間ではこれが礼儀だったかな?」


そう丁寧に礼をする。

まじ、これは本格的にやばいな……


なんせ、この魔法は彼が維持している。

この広範囲をたった一人の魔力で維持しているのだ。


しかも、周りが照らされるほどの魔力の流れ……

僕でも淡く光る程度が限界だったのに。


正直、魔力量に対して戦闘力が釣り合っていないと感じていた。

……原因は単純。こいつの本領は“魔法”だった

その時、ガルが動いた。


「名乗りに対して沈黙で返すのは無礼じゃないか?」


そう言いながら、ガルは指をこちらに向ける。

瞬時に羽を出し、射線から外れる。


直後、指に貯められた高エネルギーは指向性を持ち、破壊の暴威を振るう。

ギリギリで回避したが、背後には穴が空いており、青空が地下に光を届ける。


遅れて衝撃が響き、空間が揺れる。

粉塵が震え、石が細かく鳴った。


「ほれ、挨拶をしようか」


「……イリム=テルミアと……申します」


緊張で声が震える。

なのに、頭だけはいつにもないほど冴えている。


理解はできている。状況も、敵の正体も、戦う理由も。

それでも、声が震えるのは止められない。


これは恐怖だ。

理屈ではなく、本能が告げている――

“絶対的な強者”を前にしている、と。


「ほう、“イリム”というのか」


そう言うと、ガルは何か考える様子を見せた。

そして、こう告げる。


「我と同勢力……殺すのは無粋か」


……どういう意味だ。

僕は悪魔じゃない。そのため、魔王側な勢力じゃない。


錯乱しているにしても意味がわからない、そもそも僕に対してする必要もない。

さっきの一撃は魔法ですら無いただのエネルギー砲……

本気を出せば僕などすぐに殺せる――


その時、拳くらいの大きさの魔法が放たれる。

それは音速に達していたが、“略奪”で吸収し回避する。


その時、とてつもない頭痛に襲われる。

魔力枯渇の時とは比べ物にならないほどの痛みだった。


「ほう、あれだけの情報を一度に取り入れても意識を保つとは……」


そう、ガルは魔法の情報をイリムに渡したのだ。


「なぜ…僕……を強くする…情報を?」


「簡単なことだ。いつか共闘するやも知れぬ者が弱いままではこちらとしても望まぬ」


ガルは「それに」と付け足す。


「我の技術を世界に残したいというのもある。人には渡さぬが、希少種には渡す価値がある」


そして、ガルは足を上げ、一気に落とす。

衝撃が地面の魔法陣を割り、ガラス片が飛び散る。

それと同時に今まであった負荷が一気に引いていくのが分かった。


精神魔法が効力を失ったのだ。


「…どういう……つもり?」


「なんてことはない、我々の悲願を達成するにはこのような魔法よりも、お主――イリムが適任だったというだけのことよ」


ガルはそう言い残し、空いた穴を通って飛び去っていった。


「助かった……のか?」


どういうわけか、彼は情報――魔法に関する知識を与えるだけ与えて何処かに行ってしまった。


彼の動機は?悲願とは何だ?

それを考えるには情報が少なすぎる。


……新しい目標ができてしまった。

僕は平穏に暮らしたいんだけどな……



僕は地下通路を通り、みんなのところに戻った。

まだ頭の中が締め付けられる感じがする……痛い。

途中、放置してた神山が寝てた(気絶してた)けど、再度放置してきた。


隠し扉の前についてもまだ頭が痛い。

なんせ、複数の言語に加え数千以上の魔法を一気に覚えた――覚えさせられたのだから。


前世の脳なら間違いなく脳が焼ききれて脳死しただろう。

実際、思考加速を全力で使ってもぎりぎり意識をたもてたぐらいだったからだ。


もしこれが情報とかではなく純粋な痛みなら思考加速は逆効果だっただろう。

そういう点ではよかったのかな?


「……このあたりだっけ?」


そう言いながら、前に押していた場所を探す。

天井までは3m程。イリムの身長では到底届かない。


だから、羽を出して探していた。


その時は頭が上手く回っていなかったので羽を出して宙に浮かんでいる。

情報が飽和している状態なので思考力が落ちているのだ。


幸い、人気(ひとけ)が少なく扉が開くまでに羽はしまえる。

そのため、誰にも見られることはなかった。


そして、石の引きずる音を立てながら扉が開く。

それと同時にシアが胸の中に飛びついてくる。


僕もそれに応じて、しゃがんで受け止める。

シアの顔を覗くと泣きそうなのをこらえているようだった。

その理由はすぐに分かる。


「あのね、さっきね大きな揺れが来たの。だからお姉ちゃんが心配で……」


どうやら、ガルの攻撃が僕に何かあったのかと思わせたらしい。

その時、通路の奥に複数の人影が現れる。


城に向かう前に魔法を放った先からだ。

案の定、シアたちの漏れ出た魔力を隠す、ダミーにかかってくれていたようだ。


普通は気づくことのない微小な魔力痕だが、Bランクは気づくことがある。

なので、あからさまに魔法を放った跡を見せればそっちに誘導できると思ったからだ。


それでも、今はシアがいる。

Bランクの集団でもシアに危害を加えるのは許さない。


そう思い、学んだばかりの魔法を放つ。

それは、ガルが強制的に学ばせた魔法だ。


頭はぼやけているが感覚で、相手が死なず、無力化する魔法を放つ。


それは、上級魔法とされる高位術式。

英雄でも扱える者は一握り。Bランク程度なら直撃で灰になる。

だが、彼らを殺すつもりはない。

熱と衝撃だけを残すよう制御し、殺さない程度に調整して放つ


「ニグニニプ」


放たれた黒炎を纏う球体は、亜音速で兵士に向かい……

地獄の業火が兵士を包み込む。


その余波はイリムたちにも届くが、物理結界と遮音結界を展開する。

そのため、シアには兵士が倒されたことさえも気づかない。


兵士たちは、熱と衝撃ですでに気絶し、炎が引いた頃には全員が意識を失っていた。

Cランクの兵士は、衝撃で吹き飛び炎の効果範囲外へ。

Bランクはその場に留まれた結果、

熱で皮膚が焼かれ、脳の防御反応としての気絶。


死者はいなかったが、その魔法のみで世界でも強者と言われる者共が、

見向きもされずに制圧されたのだ。


そのまま、僕はシアと一緒に隠し部屋に入った。


「なあ、さっきの魔法は何だ。明らかに今までの次元じゃないような……」

「えーっと、今は頭がオーバーフローしてるからまたいつか話すね」

「え…オバ――ておい」


僕はそう言って説明を逃れる。

事実、頭はかなり混乱している。

情報が多すぎて処理が追いついていないのだ。


その結果、言語分野や思考の部分が一時的に幼児退行している。

実際、さっきの場面だってアイシクルランスでも時間をかければ掃討できた。

いつもなら習得直後の魔法は使わない。

思考が低下している証拠だ。


それに、今は膝の上に居るシアの頭を撫でたい。


そう考え、説明を放棄した。

これも、いつもならありえないことだった。

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