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客観視

「まずは君たちに謝りたい。すまなかった……」


そう言うと彼は深々と頭を下げた。

イリムは突然の謝罪に対し、ぼやけた思考で(反乱に巻き込んだことに対してかな)と思っていたが、どうやら違った。


「私たちの情報が国に漏れてしまったせいで、君たちが危険な目に……」


ここまで聞いてもよく分からなかった。

いつもならすぐ理解できるのに、今は頭が回っていない。


詳しく聞くと、隠れ家に集まって国家反逆を企てようとしていたことが漏れ、政府は反逆を未然に防ぐために広範囲の焼却魔法を使用した。

その余波が孤児院まで広がったことへの謝罪だったようだ。


このことには彼は関係ない。

だから、政府が悪いと考え、彼のことは許した。


いつもなら「政府が悪い」なんて単純には考えないはず……

頭の中でそんな考えが浮かぶのも、やはり普段より頭がぼんやりしている証拠だった。


「自己紹介がまだだったな。俺の名は“マティオ・レフォルス”だ。嬢ちゃんはイリムだったかな、そこそこ有名だから知っている」


彼はそう言うと、過去に見たことについて話し始めた。


「あれは5ヶ月、君たちが来る2ヶ月ほど前のことだ――


――街は平和だった。

市場は賑わい、活気があり、人々はみな幸せそうだった。

夜も、それなりに賑わっていた。


そんな平和なときに、王宮で一つの噂が立った。

『なにやら、大臣の奴らが大規模な魔法を準備している』、そんな噂だ。


俺は、Bランク程度の兵士。Aランクと比べりゃ雲泥の差だろう。

そんな俺に大事な情報がやってくるわけがない。


俺が気づいたときには、もう遅かった。

すぐに分かったさ、街がおかしくなったことに。


みんな、何を言っても『役割ではない』としか言わなくなった。

だが、すぐにはこれと王宮を繋げることはできなかった。


王宮に不信感を抱くようになったのは、君たちが来る本のちょっと前だった。

呼ばれたんだ、王宮に。


その時見た光景は今でも忘れられない。

そこには活気があったんだ。昔なくしてしまったあの活気が。


そこでやっと王宮が怪しいと思った。

今考えれば呼ばれた内容も不自然だった。


『過去に、王宮に多大なる貢献をしてくださったあなたにはぜひとも陛下お抱えの兵士になってもらいたい』


なぜあの時おかしいと思わなかったのだろう。

この国が違和感を持つものを管理下に入れたい。

そういった狙いが見え透いているじゃないか。


当然、近衛兵なんぞやめてやった。

そして、同じく不信感を抱く仲間を集め始めた。


その仲間は、皆一様に心の何処かに傷割れがあった。

大体、“家族が殺された”とか“人殺しを命令された”とか……

俺も、似たようなもんだ。


そんな、表から離れた奴らだったからか、街の奴ら見たくはならなかった。

そして俺達は、改革……

悪く言ったら国家への反逆を決意した――


――そして、それを決行しようとした日に抹殺されかけたってわけだ」


……なるほど、この街で一斉におかしくなった。

だからこそ、その事に気づけたって感じか。


「それを聞くに、広範囲の精神系の魔法かな?」

「ああ、俺達もその方針で考えてる」


よかった。僕の予想は当たってたわけだ。

当たってほしくない予測だったけどね……

でも、一つ疑問がある。


「だとしたら、どうしてあなた達はその魔法にかかっていないのでしょう?」

「それなら、ある程度なら分かってる。昔、同僚が言ってたんだ。“精神魔法はコップに水を入れるような物だ。コップから水が溢れたときが精神を支配される”ってね」


「?」


つまりどういう事だ?

その様子を感じ取ったのか、付け足してくれた。


「要するに、俺達は心がどこかしら壊れている。だから、コップのひび割れから水が漏れ出してたから大丈夫だったってことだ」


なるほど、それなら納得の行く仮説だ。


「それが本当だとしたら、なぜ子供たちは大丈夫だった?」

「こっちはおそらくになるが、子供のコップはまだできていないからだと思う。子供は心がまだ未完成。コップを作っている最中なんだ。できてないコップに水を入れることなどできないだろ」


たしかに、その考え方だったらさっきの仮説とも矛盾していない。

その方向性で間違っていないだろう。


その時、周囲に異様な魔力の高まりが感じられた。

考えるよりも早く、僕は“物理結界”“魔法結界”の2つを展開する。


その直後、僕達のいる家が業火に包まれる。


「チッ、もう気づきやがった。」


レフォルスがそう愚痴る。

その言動からも、敵が来たので間違いなさそうだ。


僕達は急いで1階に降りる。

その直後、結界もろとも玄関のドアが吹き飛ぶ。


「多重結界って……それなりの強者がいるってことか。」


そう言いながらそのものは中にはいってきた。


「おいおい、ありゃ俺達の手に負えないぞ……」


そう、誰かが言った瞬間。その場から二名が消える。

厳密には消えたように見えた。


室内に暴風が吹き荒れる。散った家具と埃の向こう、子供に拳を振り下ろそうとする男と、その拳を片手で受け止めるイリムの姿があった。


「へー、瞬歩ね…。君、名前は?」

「教えると思う」


そう言い返すと、男は「あっそ……」と吐き捨て、イリムめがけ殴り込む。

そう簡単に当たるわけもなく、お返しとばかりにアイスショットを打つ。


イリムの身体で隠れていたので、認識されるギリギリまで見えていなかった。

が、寸前で蹴りで弾き飛ばす。それと同時に両者距離をおいた。


この機とばかりにイリムが指示を飛ばす。


「レフォルスさん達、子供を連れて早く逃げて。ここ、地下通路あるんでしょう。大丈夫、こっちが片付いたら助けに行く」

「わ、わかった」


レフォルスは(なんで嬢ちゃんがそのことを)とは思ったがここは素直に従った。


「へー、ここって地下通路あったんだー」

「白々しいぞ。もともと知ってたろ、なんせ、あの奥から人の気配がするからね」


そう言うと、男は不服そうに言う。


「面白くねー女。はいはいそうですよ、俺とあいつらが挟み撃ちにする予定だよ。でも、なんで気づいた?最初もそうだ、気配は完全に消していたけど」


彼は、少し考えた様子を見せたが、それを見逃すわけもなく。

イリムは瞬歩で近づき、溝内めがけ貫手を行う。


だが、一歩足りず、右手で受け流されてしまう。

それでも、その際左手で補強してたので筋力はそこまでなのかもしれない。


「チッ、おい。こういう場面では相手を考えて止まるってのがお約束だろ!」


男は、理由もわからないことを言って憤慨する。


確かに、ゲームや漫画ならそうだろう。だが現実は違う。

敵に白旗を上げても、いい的とばかり脳天を撃ち抜かれる。

僕の知っている現実はこんなもんだ。


「そんな戯言、戦場では捨てたほうがいいよ」


僕には、彼が哀れに見えたので思わずそう言ってしまった。

それでも、彼はその言葉を聞き入れなかった。

イリムの言葉を否定するかのように回し蹴りを入れる。


ここでイリムは待っていたとばかりに“身体強化”で筋力を上げ、

蹴り上げられた足を掴み、そのまま関節技を披露する。


彼の足は無様にも折られ、あらぬ方向に向いている。

痛みに呻きながらも、視線と魔力だけはまるで別物のように冷たかった。


そのまま仕留めようと思ったが、瞬間。彼の周りが光だし、

光が収まる頃には、彼の姿はなかった。


テレポートで逃げたのだ。

だが、敵を逃したことを悔やむよりも、まずはレフォルスの増援に向かおう。

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