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死んだ人

今日はいつもより早く目覚めた。

周りの物音もあるが、昨日の出来事で眠りが浅かったのも理由だ。


正直、昨日のことはまだ理解しきれていない。

一番わかっていそうなイリムにも、あの空気感のせいでまだ聞けていない。


どうしても状況を知りたくて、私はイリムの部屋に向かった。

途中、咲苗や葉月に会う。二人も同じくイリムを訪ねに来たそうだ。


扉をノックする。返事はない。

私たちは断りを入れてから、部屋に入った。


そこにはイリムの姿はなく、朝特有の涼しい風だけが吹き抜けていた。


「イリムはどこに行った?」

「わかるわけないでしょ!」


「ふたりとも、一旦落ち着いて」


栗山の声で少し冷静さを取り戻す二人。

こういう場面での栗山の冷静さは、とても頼りになる。


「今考えられるのは二つ。イリムがさらわれ――」

「さらわれた?誰に――」


神山が声を遮る。普段なら絶対にしない行為だ。

焦りが滲み出ている。


桜凛が手刀で神山を制す。今回、イリムの役割は桜凛が代行する。


「一つは、イリムがさらわれた場合。でも、考えにくい。前の訓練で全員で挑んでも触れることすらできなかった。生半可な者では攫うどころか返り討ちに合う。」


「じゃあ、どうしていないんだ?」


神山がまた遮るが、今回は妥当な疑問だった。


「子供たちを助けに行ったんじゃないかな。窓から小さいけど火事が見えるでしょ。あそこは孤児院のあった方向。ここからでもかなりの規模だと分かる。魔力も続いている。あれ、イリムのものじゃないかな?」


二人は目を凝らす。火事の全貌はまだわからないが、イリムの魔力は確かに感じ取れた。


「ひとまず、孤児院まで行って様子を確かめよう」


栗山の提案に二人は即座に賛成。

イリムだけでなく、子供たちも心配だからだ。


現場に到着すると、思っていた以上の規模だった。

ぱっと見でも50軒以上が灰になって崩れている。

全体では500軒もの建物が火に飲まれた、大規模火災だった。


警備員に止められたが、勇者であることを示すと快く通してくれた。

孤児院付近はさらにひどく、完全に燃えカスとなっていた。


先ほどまではどの部分か把握できたが、ここでは検討すらつかない。

明らかにここが出火元付近だと確認できた。


肝心の孤児院は三面が完全に崩れ、入口のみかろうじて形を保っていた。

そこにはイリムの魔力が残留しておりここに来たのは明らかだった。


そこから火災現場とは反対方向へ、細く途切れずに魔力が続いている。

その痕跡を辿ると、途中で思わず目を覆いたくなる光景があった。


火事の喧騒から離れるにつれ、当時の状況を示す痕跡が鮮明になっていく。

壁には細い血痕が点々と付着し、それはイリムの魔力痕と重なっていた。


ただの飛沫ではない。

高速で方向転換した際に生じた強い遠心力で、体内から噴き出した血が横方向へ弾かれ、壁へと貼り付いた跡だった。


それが長く続いていた。

そして、魔力が途絶えた場所に血溜まりができており、治す魔力すらなかったのだと言われているようだった。


その後は微かな痕跡を辿ったが、途中で完全に途絶えてしまった。

今の彼らにはイリムや子供たちの無事を祈るしかできなかった――



――目が覚める頃には日は完全に上がっており、窓から光が差し込む。

痛みは完全に引いており、支障なく動けるはずだ。人間なら……


魔物は魔力で動く。これがなくなれば即座に死ぬ。

僕は、種族が竜人族なので半分が魔物だ。

魔力が少ないといろいろと鈍くなる。


身体は癒えたが魔力は完治しなかったようで、頭に霧がかかったような感覚だ。

そこで、一人の女の子がベッド横にいたことに気づく。


僕に助けを求めてきた子だった。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


首を傾げてそう訪ねてくる。

神山とかに言われてたら思いっきり叩くが、

この子からは可愛いとしか思えなかった。


「大丈夫だよ、色々あって聞けていなかったね。お名前は?」

「シム!シム・イミタレーっていいます!」


そう、背筋をシャキッとして答える。


「シムちゃんって言うのね、よろしく。僕はイリム=テルミアっていいます。覚えてくれたら嬉しいな」

「わかった、イリムお姉ちゃん!」


そう満面の笑みで返される、

まだ頭がボヤッとしてるが、その光景だけは鮮明に覚えてるだろう。


「他の子達は大丈夫?熱はちゃんと下がった?」

「大丈夫、みんなは下のおじさんたちに遊んでもらってる」


そのことを聞いてかなり安心できた。

僕の作った“簡易ポーション”は、魔力の多い地域で取った薬草だった、

そのため、普通よりも効能が高かったのだろう。


「おいおい、おじさん呼びはないだろ……これでもまだ30代だぞ」

「30ならおじさんでしょ」


イリムが声の主にツッコミを入れる。

扉の方から声が聞こえた。咄嗟だったので思わず本音が出てしまった。

シムはと言うと「おじさん!」といいながら手を降っている。


だが、僕から離れなかったからなんか勝った気になった。

男性はと言うと、扉付近で腕を組んだままだったが、顔は少ししょんぼりしていた。


そこで、やっとなにかおかしいと気づく。

その男性は()()があったのだ。


孤児院の管理者は自分の役割以外は何もしない。

たとえ、ぼろぼろになった人を見かけても役割が『人を助ける』でもない限り自主的に助けようなどしないのだ。


それに、目にも生気が宿っている気がした。

子供たちも同じく目に光がある、みな無邪気に遊んでいる。

下から楽しそうな声が聞こえるからだ。


シムは『おじさんたち』と言っていた。

つまり、他にも、この男性同様感情のある大人がいる可能性が高い。


僕の中に一つの希望が湧いたような気がした。

この国の異変を治す手がかりになるかも、そう思った。


男性とも一瞬だけ視線が合う。

その意図を、イリムは正しく理解する。


「シム、下のみんなと遊んできたらどう?」

「でも……」


シムは迷ったようにイリムの手を見た。

しかしすぐに空気を察したのか、小さく頷いて一階へ向かう。


利口な子だ。空気の変化に気づいたのだろう。


「で、僕になにか話があるの?」


扉が閉まると同時にそう尋ねる。

男性は少し逡巡する様子を見せたが、決心がついたのか真っ直ぐこちらを見る。


「ああ、だが最初に聞かせてくれ。君は支配されてないでいいんだよな?」

「支配?まあ、された覚えもないし自覚もない。」


「……その答えなら大丈夫か。君は勇者の一人であっていたよね?」


イリムはその問いに警戒を見せる。

だが、唯一と言ってもいい目印だ。信じる以外に道はないだろ。


「まあ、暫定だけどね……」

「このことを聞いたらこの国に反逆を企んでいると思われるかもしれないが……」


その後は言われなくてもわかった。

神山、桜凛や栗山、茂に他のクラスメイト達と敵対することを示唆しているのだ。


「孤児院で…なんとなく分かっていました。決心ならできています」


そう言うと男性は手を差し伸べてきた。

この手を取ると、国家反逆に加担することになるのだろう。


だが、迷わずにその手を取る。

この国が無くなろうと、僕は、シムや他の子達の未来を守りたい。


たとえ、友達と戦うことになっても――

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