生きた人
※今回は火災に関する描写があります。過激ではございませんが、トラウマ等をお持ちの方はご注意ください。
起きた時、カーテン越しに赤い光が差していた。
時計を見ると深夜の3時――。
……朝焼けの時間じゃない。
僕は慌てて窓を開ける。
空は赤く染まり、街の一箇所から煙が立ち込める。
あっちは孤児院があった場所!
そのことに気づくとスキルを全力で稼働し、
僕は窓から飛び出した。
窓から地上まで約40m。イリムであっても危険を伴う高さだ。
だが、いくら待っても地上に落ちる気配はなかった。
イリムの背中には一対の羽が生えており、それが淡く光っている。
「遅い、もっと早く」
そう呟くとイリムは速度を上げより早く飛ぶ。
実際は何十倍に引き伸ばされた感覚でも早いと感じるくらいだが、
この状況ではイリムは物足りないと思っていた。
そうしてイリムは孤児院につく。
発見時と状況は変わっておらず、だが炎は孤児院の真横まで広がっていた。
灰が孤児院を覆っており、もとの純白は見る影もない。
イリムはすかさず氷の壁を作り炎から孤児院を守る。
その勢いのまま扉を勢い良く開け、中に入る。
中にはまだ子ども達がおり、気持ちよさそうに眠っている。
みんなに飲ました薬には軽い睡眠作用がある。
軽いと行ってもここまで眠りが深かったら起こすのは難しい。
それに、起きたとしても意識がはっきりあるわけじゃない。
寝ぼけながらに火に突っ込んでは本末転倒だ。
15人もの子供を安全なところに運べるだろうか?
そんな不安が頭をよぎる。
いや、ここで迷ってたらだめだ。
今も氷は火の熱波によって溶かされている。保って30分といったところだ。
安全なところまでは、往復で10分。
四人運んでも40分はかかる。
――ここは賭けに出るしかない。
僕は取得したばかりの“瞬歩”を使う。
これにより約半分まで時間を短縮できる。
そうして、決死の思いで救出を開始する。
本来、“瞬歩”は直線上で使用する。
そのため、町中――それも曲がり角が多い路地裏では相性が悪い。
無理やり行えば身体の中に強い負荷がかかり内臓が破裂する。
それはイリムも例外ではない。
壊れるたびに“超速再生”で体を直し、救出を続ける――
全員を運び終わる頃には身体はぼろぼろになり、
腹の破裂部から血が滴り落ちる。
子供たちは――全員無事。
よかった――
そう思うやいなや、イリムは膝から地面に倒れ込む。
最後に聞こえたのは、氷の崩れる音と……
誰かの足音だった――
起きたときには、別の場所にいた。
少し混乱したが室内だったことから誰かが助けてくれたのだと理解できた。
周りを見渡すと僕と同じようにベッドで寝ているみんなを見つけた。
「いち、にい、さん……うん、全員いる。」
誰も欠けておらず、一様に気持ちよさそうに寝ていていた。
熱も下がっているようだったので安心できた。
よかったっと思ったのもつかの間、頭痛がイリムを襲う。
思わずうめき声を上げてしまい、そのまま気絶しそうなほどだった。
気合で意識を保ち原因を探す。
そしてすぐにその理由がわかった。魔力枯渇だ。
無理ない。王宮から孤児院までは約15kmほど。
それをたったの8秒程で飛んできたのだ。
飛行時の魔力消費量は速くなるに連れ加速度的に増えていく。
前よりも増えたとはいえ、あの速度なら想像を絶する量の魔力を消費する。
その証拠に、羽が淡くとはいえ光った。
その負荷はゴブリンエンペラーと戦ったときよりも遥かに上だ。
その後も定義上、アイスウォールと言われる中級魔法を使用。
“瞬歩”での移動、“超速再生”での回復でも魔力を使う。
孤児院に入った際には魔力はすでに底をつきかけていた。
そんな状態で無理やりスキルを行使、
緊張状態だったからその状態を維持てきただけであった。
そして、無理をした結果がこの痛みだ。
それだけではない。
頭の痛みで隠れているが、体中も激痛にさらされていた。
表面上の傷は癒えていた、があくまで表面上。
魔力のない今、内部までは直せなかったのだろう。
そう考えついたときに、部屋のドアが開かれる。
外見は中年の男性。
革の胸当てをつけているところから冒険者のように見える。
おそらく、彼が救ってくれたのだろう。
お礼を言おうと体を起こしたが、痛みによって起き上がれなかった。
「無理はしなくていい。」
落ち着いた声だった。
彼は見惚れるような手際で薬を準備する。
それをイリムの口にそっと流し込まれる。
それだけで身体の痛みが和らいでいった。
魔力を多く含有するものだったので“超速再生”が再び使えるようになったからだ。
「あなたは……誰で…すか」
少し余裕ができたので、そう尋ねる。
それでも声は上手く出せなかった。
「俺?俺かー。まあ、とある集団のリーダーと思ってくれ」
そう言葉を濁した。
なにか伝えたくない事情があるのかも。
そう思ってるうちに次第にまぶたが重くなる。
どうやら、さっきの薬には睡眠薬も入っていたようだ。
普段ならこの程度の眠気は耐えることができる。
だけど、今回は違った。
緊張状態だったところからの安心した状態への変化。
加えて、極限までの身体の酷使で心身ともに疲弊していた。
そんな状態で耐えれるわけもなく、そのまま眠りについた。
だが少し幸福そうで、少し微笑んでいた。
こんにちは、もしくはこんばんは。
テルミアです。
今回は、ちょっと重大なお知らせがあります。
“イリム”が心から微笑む――そんな表情を見せたのは、前回と今回が初めてです。
そこそこ重要な情報なので、ぜひ覚えておいてください。




